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48、約束
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緊急の伝令が入り、リトスロード侯爵家の館内はにわかにざわついていた。
領内の西方で魔物が大量に出現したということで、こちらからも人を向かわせている。ルドルフとクリストフの方が近いから、先に向かって駆除しているだろう。
セルジーが聞いたところによると、ジュードの従姉妹である伯爵夫人リーゼリアも出ているらしい。リーゼリアは、単なる弱々しい寡婦ではない。一人で立派に領地を治め、リトスロードの親類だけあって戦う力もある。彼女の伯爵領はごくわずかだが魔物が現れる地域で、駆除の隊を先頭に立って率いるのはいつもリーゼリアなのだ。
そんなばたついた中で、セルジーは伏せっているジュードに呼ばれた。ノア・アンリーシャが出ているので、自分が呼ばれたのだろう。
体に障るからと誰も詳しい話は報告していなかったのだが、ジュードはとうに気づいているのかもしれなかった。
「お呼びでしょうか、ジュード様」
「馬を用意しろ」
言って、ジュードは寝台から身を起こす。セルジーはその場から動けずにいた。ジュードを止めることも、馬を用意に走ることも出来ずに。
どこへ、と尋ねるのは愚問だ。彼のことは子供の頃からそばで仕えて、性格も知り尽くしている。
強情で努力家。愛想はなくて社交は得意ではない。他人の助言を耳に入れずに、いつも無理をしすぎてきた。
優秀な弟と己を比べて苦しんで、弟が死んでからはますます殻の中に閉じこもって。
自分の長所へ一度として目を向けたことがなかった。
「死んでしまわれます」
セルジーは静かに言った。
何度皆がそう訴えて、この人を止めようとしたことか。
いっそ死にたくて体を酷使してきたのは、誰もが知るところだ。
しかし、ジュードは意外な言葉を口にした。
「死ぬつもりはない」
寝台から足を下ろしたジュードは、着替えのために服を脱ぎ始めた。
「あれとの約束は守る。私は、伝えなければならないことがあるのだ」
しばし黙って主人の背中を見つめていたセルジーだったが、腰を折って一礼した。
「用意して参ります」
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