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番外編
汚れた私
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フィアリスは馬を走らせていた。
ジュードに許可を得て、一人での外出だ。リトスロード侯爵家に引き取られてから三年。
正確な年齢はわからないが、占い師や医者の意見を聞いて、今は十七歳だということになっている。
時折暇をもらっては、フィアリスは方々出かけて、魔石について調べていた。ジュードをどうにか一級石の呪縛から解き放つ方法がないかさがしているのだが、見つからずにいる。
自分が調整していれば石の作用は安定しているが、あと何年それでもつかもわからない。
ジュードは一級石に呪われているのだ。あんなものがなくても、彼の力は揺るぎないものであるにも関わらず。
どうにかして恩人を救いたかったが、手立ては発見できなかった。前例がなく、普通は一級石を体に入れれば生きていくことなど不可能だ。誰かに詳しく事情を明かすことも出来ないので、調べるにも骨が折れる。
(私はやはり、役立たずだ……)
失意の中、フィアリスは馬を駆る。思ったより遅くなってしまい、空は赤く染まって暮れつつあった。
森の近くを通りかかったところであるものが目に入り、思わず速度を緩める。見間違いではなかった。木立の奥に、ちらちらと明かりが動いている。
こんなところで、こんな時間に?
もちろん、誰か用事があって森に入ったりもするだろう。けれどフィアリスは、妙に胸騒ぎを覚えて、通り過ぎることができなかった。
馬を降りて、森の中へと足を進める。ローブのフードを深くかぶり直した。
気配を消して歩いていくと、誰かの泣き声のようなものが聞こえてきた。それと、複数の男が喋る声。
泣き声は――少女のものだ。
「さあ来い、立てよ!」
「いや……お願いします……許して……! いや、いやぁあっ!」
十五歳くらいの少女が、五人の男に囲まれてうずくまっている。一人に手首をつかまれて、無理矢理立たされようとしていた。
そばには十二かそこらの少女もいて、年かさの子にしがみついてすすり泣いていた。
「何をしている」
草を踏んでフィアリスが前に進み出ると、男達の視線がこちらに集中した。
「誰だてめぇは」
「何をしていると聞いている」
非難を込めた声を出しても、後ろめたさは一切ないのか男達が怯む様子はない。にやつきながら目を見交わしていた。
「おっと、ほうっておいてくれねぇかな。俺達は別に、この娘どもをさらってここへ連れてきたわけじゃない。ちゃんと了承済みだぜ」
「……とてもそのようには見えないが」
未だ泣き続けている少女を一瞥して、フィアリスは呟く。
「いいや、こいつらの『親』には許可を得ている。だから人さらいのように責め立てられるいわれはないってこと」
もう一人の男が前に出た。
「この娘達の父親はな、借金で首が回らなくなったのよ。どうしても勘弁してくれって泣いて頼まれたんだ。他に差し出せるものなら何でも出すって言うからな、娘の処女を貰おうか、とこっちは妥協したわけよ」
娘の泣き声が大きくなり、フィアリスはこぶしを強く握りしめた。
「父親はそれでいいなら、と娘二人を差し出したぜ。別に命を奪おうとしているのでもなし、何が悪い?」
「……なんてことだ……」
フィアリスは唇を噛んで、少女達に歩み寄る。姉妹は二人で抱き合って、震えながら泣いていた。顎から涙のしずくがしたたり落ちて、姉は妹を必死で抱きしめている。
フィアリスは膝をついて、姉の方に声をかけた。
「君、馬には乗れる?」
びくりと肩を震わせて、姉が顔を上げた。突然現れた男が何者かわからず、困惑して目を泳がせている。
しかし、ようやく言葉の意味を理解したのか、戸惑いながらも頷いた。
「もう少し行ったところに馬を繋いである。その子と馬に乗って逃げるんだ。これを」
懐から、銀貨の入った小袋をを取り出すと少女に握らせた。いくら入っていたか覚えていないが、少ない額ではないはずだ。
フィアリスが頷いて見せると、少女は虚ろだった瞳にわずかに理性の光を取り戻して立ち上がった。妹の手を引いて、よろめきながら歩き出す。
「おい、待て!」
男達が追いかけようとするので、フィアリスが立ちはだかる。
「邪魔だ、退きな。お前はどういう権限があって、借金の形を逃がそうとするんだ?」
「金を払えばいいんだろう。私が払う」
腕っ節自慢といった屈強な男揃いだ。いかにもひ弱そうな細身のフィアリスが強気でつっかかってくるのが、おかしくてたまらないという顔だった。
借金の額がいくらか知らないが、払って済むなら肩代わりするつもりだった。殴りかかってきても、反撃はできる。
「わかってないなぁ」
舌打ちをして男が、フィアリスの顔をのぞきこむように首を曲げた。
「俺達はあいつらの処女をいただくって話だから納得したんだぜ? 今日はお楽しみだったわけよ。それを台無しにしてくれてよ、どう責任を取ってくれるんだ? それとも、お前が俺達の相手をしてくれるのかよ?」
その言葉を聞いた瞬間、何故か一気に血の気が引いて、体が硬直した。
心臓がはねて、鼓動が速くなる。
「なあ、おい」
かぶっていたフードが取り払われた。
金の髪がこぼれてフィアリスの顔が露わになった途端に、男達の目の色が変わる。
「――お前、男か女か、どっちだ?」
ぞろぞろと男達が、フィアリスを取り囲む。
「えらい美人じゃねぇか。この顔なら、どっちでも構わねぇけどなぁ」
腕をつかまれたかと思うと、いきなり股間をさぐられた。
「……っ!」
「ついてやがる。男だぜ」
誰かが口笛を吹いた。
身をよじって逃げ出そうと頭では考えているのに、腕も足も動かない。まるで自分の体ではなくなったみたいに、上手く動かせなくなってしまった。それに動揺して、余計に拍動が速くなっていく。
「小僧、あの娘達を逃がした責任を取ってもらおうか? お前が体で払うんだよ。嫌とは言わせねぇ」
「犯すくらいで勘弁してやるんだから、ありがたいと思えよ」
左右から肩をつかまれて、歩かされる。
――逃げなくては。
簡単なことだ。手を振り払って、走り出せばいい。自分はもう無力な子供ではないし、魔法も使える。男五人程度を倒すなんて造作もない。
それなのに。どうして体が動かないのだろう。
――奪われる。また。
どうにか足を止めて抵抗しようと試みたが、リーダーとおぼしき男に胸倉をつかまれて凄まれた。
「他にどうやって俺達を満足させられるんだよ、ええ? お前は黙って足を開けばいんだ、わかったか!」
指先が冷えていく。思考が外側からだんだん凍りついていくような感じがして、まともにものが考えられなくなっていった。
いつだか、誰かが言った声が耳の奥によみがえってきて自分を苛む。幾重にも重なった、誰の声かも判然としないものだ。
――お前は、男を喜ばせるくらいしか、価値がないから、
――黙って、
――犯されてればいいんだよ!
「…………っ、……」
口を開けても声が出ない。拒否の言葉も悲鳴も罵声も何一つ。
人形にでもなってしまったかのように、男達に引きずられるまま、フィアリスはどこかへと連れて行かれた。
* * *
森の中にあった古い小屋の床に、フィアリスは突き倒された。
脚衣を脱がされて四つん這いの姿勢をとらされ、遠慮もなしに秘部へと指を突っ込まれる。自分の中で蠢く何本もの指の感触に、フィアリスは声をもらした。
「ん……、……っく、ひっ……う、あッ」
その呻き声の中に混じる甘いものを、男達は聞き逃さない。
「こいつ、ケツいじられて感じてるぜ」
「慣れてるんだ。大方男娼でもやってたんだろうさ」
「ひょっとしたら輪姦されたくて近づいてきたのかもしれねぇな。男のものが恋しくて仕方なかったんだろ」
下品な笑い声が小屋の中に響く。
前戯もそこそこに、後ろの男が自身のそり立ったものをねじこんできた。
「あっ、やぁ……! 痛……い……っ」
痛みで目に涙が滲み、乱暴に攻められて視界が揺れる。落ちた涙が点々と、床に染みを作っていった。
「ははあ、なるほど、男も案外悪くねぇな!」
突き上げられ続けて、逃げ出そうとするもやはり体に力が入らない。
「あ、あ、ぅんっ……や、ふあっ」
痛みの中にいつしか快楽が混じり始めて、弱々しい呻き声ははっきりとした嬌声へと変わる。
「え? どうだ、気持ち良いだろ? これが欲しかったんだよな? 気持ち良いって言ってみろ、ほら!」
髪をつかまれて引っ張られる。無理な体勢をさせられ、痛みと苦しさで呼吸が辛くなった。喘いで何か言葉を発しようとしたが、どんなことを口にしていいのかわからない。
床に仰向けに寝かされて、腰を持ち上げられまた別の誰かに挿入される。他の男達も好きなように体を愛撫してきた。
「はぁっ……ん、う……ッ……ああっ……やああっ」
もう誰にどこを触られているのかも感知できない。誰のものを挿れられているのかも知らない。
気持ち悪いのと気持ち良いのが混じって頭がおかしくなりそうだった。
異なる熱を持つ男達の手にいじられ、それに応じるようにフィアリスは体をよじる。聞こえるのは自分の淫らな声と男達の荒い呼吸の音、それに卑猥な水音だ。
懐かしい、と思った。
あの洞穴の中で、いつもこうして犯されていて、それがフィアリスに与えられた役目だった。
自分が男達の欲望を受け入れることで、その場は上手く収まるのだ。誰も不満など言わず、平和だった。
(そうだ。私が受け入れて誰も傷つかないのなら、そうした方がいい)
「どこが一番いいのか言ってみな」
(私が悪いんだ、私はこのくらいのことでしか誰かを喜ばせることができないし)
「自分が今どんな格好してるかわかってんのか? この淫乱野郎め。お前、犯されるのが好きなんだろ!」
(好き? そうかもしれない……私、は、こういうことをされても、平気だも、の……)
考えがまとまらなくて、言葉がみんな散っていく。体の揺れと一緒に、気持ちがバラバラになってどこかへ落ちていってしまうかのようだ。
フィアリスに挿入していた男がわざと腰の動きを浅くして焦らす。訪れそうで訪れない絶頂がもどかしかった。
「イキたいか? 上手におねだりしたら良くしてやるぜ」
「う……」
あの少女達はどうしただろう、とぼんやりした頭の隅でフィアリスは考える。
酷い仕打ちをした父親のもとに戻るだろうか。それとも姉妹二人で生きていくために逃げるのか。どちらの道を選んでも、茨の道だろう。
(可哀想に。あの子達が少しでも、幸せに生きられたらいいのだけど……)
息を切らして、フィアリスは自分の体を見下ろした。男達と自分の体液にまみれた体。今も股の間では、男が赤黒いものを出し入れしている。
「ん……欲しい……っ、もっと、奥に……」
喉をひくつかせて、フィアリスは声を振り絞った。
「奥に来て……っ、お願いだから……! はや、く、イキたい……」
男が満足そうにするのと、平気でそんな言葉を吐ける自分にフィアリスが失望したのは同時だった。
もっともっと汚されればいいんだ、と投げやりな怒りに支配される。
どうせ私は汚い人間で、これ以上汚れたところでなんだというのだろう。
* * *
霧の深い朝方だった。
蹄の跡を見つけて、ジュードは手綱を引いた。ごくわずかではあるが、フィアリスの魔力を感じる。この辺りを通ったという証拠だ。ジュードはこういった魔力の気配を感じ取るのが得意だった。
夕べ戻る予定だったフィアリスが夜中になっても戻らないのでさがしに出て来たのだ。性格から考えても、知らせもなしに予定を変更する人間ではない。何かあったのだろう。
気配を頼りに森の中へと進んでいく。
すると、流れの緩やかな浅い川が目に入った。
その川の、水がほとんど流れずたまったところに、誰かが仰向けに倒れている。
胸の辺りまで水に浸かって、金色の髪が水面に浮かんでいた。
「フィアリス」
呼吸をしているので、死んでいないのは遠目にもわかる。フィアリスは、酷く大儀そうにジュードの方へと視線を向けた。
「何をしている」
「……体を清めているんです。汚いから」
雑に服を身につけてはいるが、暴行されたあとが体中に生々しく刻まれていた。靴まで持ってくる気力がなかったのか、それともなくしてしまったのか、裸足だ。
「いつからそうしている」
「いつからだろう……」
「風邪をひくぞ」
「ひきませんよ……私、今まで一度も風邪なんてひいたことがないんです。子供の頃も、裸で一晩転がされたって平気でしたから」
力なく笑うフィアリスは、一向に起き上がろうとしない。
ジュードはマントを脱いで木の枝にかけておくと、水に入ってフィアリスの体を抱き上げた。
水に濡れて衣服が張りついたその姿は、哀れなほど煽情的だ。
蜜を求める虫を呼ぶ、花のような存在だった。一度火がついてしまえば、大抵の男は惑わされて冷静でいられなくなる。
彼は少しもそのような魅力を望んでいなかったのにも関わらず、天から付与されてしまったのだ。それがために、わけがわからず蹂躙され続けた。生来の気の優しさゆえに自分以外、誰も憎めない。あまりにも不幸な青年だった。
「濡れてしまいますよ、ジュード様」
マントでフィアリスをくるみ、横抱きにして川を離れる。マント越しにもわかるほど、フィアリスの全身は冷え切っていた。何時間もああしていたに違いない。
ついぞ見せたことがないほど虚ろな表情をしたフィアリスは、淡々と、自分の身に起きたことをかいつまんで説明した。
「本当に、いやらしい男なんですよ、私は。拒まなかったんですからね」
「フィアリス。お前は拒まなかったのではない。拒めなかったのだ」
ジュードがそう言っても、フィアリスはぼんやりとした表情で首を傾げるだけだった。意味がわかりかねる、といった顔だ。
「あなたはお優しいからそう仰いますけど、私はそうは思いませんね。これが本性なんですよ。その気になればあんな輩、どうとでもできたはずなのに。それに実際、少し気持ち良かったですからね。嫌だったら、快楽なんて感じないはずだ」
唇の端を曲げてフィアリスは自嘲する。
平素朗らかで笑みを絶やさないこの青年は、滅多にこんな顔を見せない。ごく稀に、ジュードの前だけで見せるのだ。おそらく信頼しているからなのだろう。
「私は汚らわしい。汚れきっている」
「聞きなさいフィアリス。お前は汚れてなどいない」
無表情で見上げるフィアリスは、ジュードの言葉を素直に聞き入れている様子はなかった。頭が正常に働いているかも怪しいところだ。まだ混乱状態に陥っているのかもしれない。
ふと、不安そうにフィアリスが眉根を寄せる。
「ジュード様、私を館から追い出すでしょうね……」
「何故そう思う」
「私がふしだらで……汚い人間だから。たくさん男を受け入れる、ろくでもない男だから……。あなただって、こんな私を抱くのはもうお嫌でしょう」
そんなことはない、と言うしかなかった。
するとフィアリスは懇願するような眼差しでジュードを見上げる。
「嫌ではないのですか? また私を抱いてくれますか?」
ジュードの服をつかみ、焦ったようにフィアリスは問いを重ねる。
「ああ」
ジュードが頷くと、途端にフィアリスはほっとしたような笑みを浮かべた。
「良かった……。じゃあ、今夜抱いて下さい」
「今日は休みなさい」
「嫌です! あなたはまた最近、お加減がよろしくないはずだ。あなたのために、出来ることをやらせて下さい。それくらいしか私に出来ることなんてないんだから!」
壊れかけている、とジュードは思った。
フィアリスは壊れかけているのだ。
ひび割れて砕けそうになった心を、罪悪感や自責の念というもので硬い殻を作って包み、補強している。その殻は全て透明で、ジュードにはフィアリスの脆い心が見えていた。
お前は間違っている、と叱責するのは簡単だった。
だが、今無理矢理その殻を取り去ってしまえば、確実にフィアリスの心はもたないだろう。
対応を少しでも誤れば、フィアリスは狂ってしまうのだ。
ジュードには彼を救ってやることができなかった。
殻を取り払っても心が砕けてしまわないように、代わりに包んでやれないのだ。
惜しみない愛を、与えてやれない。もう持っていないから。
ジュードは自分が心というものをほとんどなくしてしまったことを自覚していた。そんな男が誰かを救おうなんて、思うことすらおこがましい。
ジュードが彼にしてやれることは、彼を否定せず、好きなようにさせることだけだった。
「魔法で信号を送ったから、じきに馬車が来る。それに乗って今日は別邸へ行く。わかったな」
どこまで理解しているのか、フィアリスは曖昧に頷いた。
「……ジュード様。私、またエヴァンに会ってもいいですか?」
「お前はエヴァンの師ではないか」
「そうですけど……」
動揺しているのか、フィアリスの瞳が揺らいでいる。
ジュードの腕の中にいる青年は、まるで硝子細工のような壊れ物に見えた。美しいが、儚い。
「触ってもいいのかな。許されますか? 私が触ったら、清らかなあの子が汚れてしまわないかな?」
「汚れるわけがないだろう。エヴァンはお前になついている。お前が戻ったら、撫でてほしいとせがむに決まっているではないか。エヴァンを撫でてやりなさい」
フィアリスが少し戻らないと、エヴァンは寂しそうにして落ち着かなくなるのだ。そして戻れば駆け出して、しがみつく。
いつもの光景を思い出したのか、少しだけ嬉しそうにしてフィアリスは微笑んだ。ようやく普段の面影を取り戻す。
「エヴァン……」
悲しみの混じった笑みをそのままに、フィアリスは教え子の名前を呟いた。名前を口にするだけで幸福になるとでも言いたげに。
「エヴァンに、会いたい……」
そこでフィアリスは気を失った。
立ち止まり、ジュードは抱いている青年を見下ろす。
何て哀れな子供なのだろう。
そして、そんな子供一人救えない己は、どれだけ力を持ったところで、ろくな人間ではない。救えないどころか、傷つけ続けている。
私が悪い。全て私が。
ジュードの唇が動き、フィアリスに何かを囁こうとする。
けれど結局声にはならず、厳めしい顔を崩さないジュードは、若き魔術師を抱いたまま、再び歩き出したのだった。
ジュードに許可を得て、一人での外出だ。リトスロード侯爵家に引き取られてから三年。
正確な年齢はわからないが、占い師や医者の意見を聞いて、今は十七歳だということになっている。
時折暇をもらっては、フィアリスは方々出かけて、魔石について調べていた。ジュードをどうにか一級石の呪縛から解き放つ方法がないかさがしているのだが、見つからずにいる。
自分が調整していれば石の作用は安定しているが、あと何年それでもつかもわからない。
ジュードは一級石に呪われているのだ。あんなものがなくても、彼の力は揺るぎないものであるにも関わらず。
どうにかして恩人を救いたかったが、手立ては発見できなかった。前例がなく、普通は一級石を体に入れれば生きていくことなど不可能だ。誰かに詳しく事情を明かすことも出来ないので、調べるにも骨が折れる。
(私はやはり、役立たずだ……)
失意の中、フィアリスは馬を駆る。思ったより遅くなってしまい、空は赤く染まって暮れつつあった。
森の近くを通りかかったところであるものが目に入り、思わず速度を緩める。見間違いではなかった。木立の奥に、ちらちらと明かりが動いている。
こんなところで、こんな時間に?
もちろん、誰か用事があって森に入ったりもするだろう。けれどフィアリスは、妙に胸騒ぎを覚えて、通り過ぎることができなかった。
馬を降りて、森の中へと足を進める。ローブのフードを深くかぶり直した。
気配を消して歩いていくと、誰かの泣き声のようなものが聞こえてきた。それと、複数の男が喋る声。
泣き声は――少女のものだ。
「さあ来い、立てよ!」
「いや……お願いします……許して……! いや、いやぁあっ!」
十五歳くらいの少女が、五人の男に囲まれてうずくまっている。一人に手首をつかまれて、無理矢理立たされようとしていた。
そばには十二かそこらの少女もいて、年かさの子にしがみついてすすり泣いていた。
「何をしている」
草を踏んでフィアリスが前に進み出ると、男達の視線がこちらに集中した。
「誰だてめぇは」
「何をしていると聞いている」
非難を込めた声を出しても、後ろめたさは一切ないのか男達が怯む様子はない。にやつきながら目を見交わしていた。
「おっと、ほうっておいてくれねぇかな。俺達は別に、この娘どもをさらってここへ連れてきたわけじゃない。ちゃんと了承済みだぜ」
「……とてもそのようには見えないが」
未だ泣き続けている少女を一瞥して、フィアリスは呟く。
「いいや、こいつらの『親』には許可を得ている。だから人さらいのように責め立てられるいわれはないってこと」
もう一人の男が前に出た。
「この娘達の父親はな、借金で首が回らなくなったのよ。どうしても勘弁してくれって泣いて頼まれたんだ。他に差し出せるものなら何でも出すって言うからな、娘の処女を貰おうか、とこっちは妥協したわけよ」
娘の泣き声が大きくなり、フィアリスはこぶしを強く握りしめた。
「父親はそれでいいなら、と娘二人を差し出したぜ。別に命を奪おうとしているのでもなし、何が悪い?」
「……なんてことだ……」
フィアリスは唇を噛んで、少女達に歩み寄る。姉妹は二人で抱き合って、震えながら泣いていた。顎から涙のしずくがしたたり落ちて、姉は妹を必死で抱きしめている。
フィアリスは膝をついて、姉の方に声をかけた。
「君、馬には乗れる?」
びくりと肩を震わせて、姉が顔を上げた。突然現れた男が何者かわからず、困惑して目を泳がせている。
しかし、ようやく言葉の意味を理解したのか、戸惑いながらも頷いた。
「もう少し行ったところに馬を繋いである。その子と馬に乗って逃げるんだ。これを」
懐から、銀貨の入った小袋をを取り出すと少女に握らせた。いくら入っていたか覚えていないが、少ない額ではないはずだ。
フィアリスが頷いて見せると、少女は虚ろだった瞳にわずかに理性の光を取り戻して立ち上がった。妹の手を引いて、よろめきながら歩き出す。
「おい、待て!」
男達が追いかけようとするので、フィアリスが立ちはだかる。
「邪魔だ、退きな。お前はどういう権限があって、借金の形を逃がそうとするんだ?」
「金を払えばいいんだろう。私が払う」
腕っ節自慢といった屈強な男揃いだ。いかにもひ弱そうな細身のフィアリスが強気でつっかかってくるのが、おかしくてたまらないという顔だった。
借金の額がいくらか知らないが、払って済むなら肩代わりするつもりだった。殴りかかってきても、反撃はできる。
「わかってないなぁ」
舌打ちをして男が、フィアリスの顔をのぞきこむように首を曲げた。
「俺達はあいつらの処女をいただくって話だから納得したんだぜ? 今日はお楽しみだったわけよ。それを台無しにしてくれてよ、どう責任を取ってくれるんだ? それとも、お前が俺達の相手をしてくれるのかよ?」
その言葉を聞いた瞬間、何故か一気に血の気が引いて、体が硬直した。
心臓がはねて、鼓動が速くなる。
「なあ、おい」
かぶっていたフードが取り払われた。
金の髪がこぼれてフィアリスの顔が露わになった途端に、男達の目の色が変わる。
「――お前、男か女か、どっちだ?」
ぞろぞろと男達が、フィアリスを取り囲む。
「えらい美人じゃねぇか。この顔なら、どっちでも構わねぇけどなぁ」
腕をつかまれたかと思うと、いきなり股間をさぐられた。
「……っ!」
「ついてやがる。男だぜ」
誰かが口笛を吹いた。
身をよじって逃げ出そうと頭では考えているのに、腕も足も動かない。まるで自分の体ではなくなったみたいに、上手く動かせなくなってしまった。それに動揺して、余計に拍動が速くなっていく。
「小僧、あの娘達を逃がした責任を取ってもらおうか? お前が体で払うんだよ。嫌とは言わせねぇ」
「犯すくらいで勘弁してやるんだから、ありがたいと思えよ」
左右から肩をつかまれて、歩かされる。
――逃げなくては。
簡単なことだ。手を振り払って、走り出せばいい。自分はもう無力な子供ではないし、魔法も使える。男五人程度を倒すなんて造作もない。
それなのに。どうして体が動かないのだろう。
――奪われる。また。
どうにか足を止めて抵抗しようと試みたが、リーダーとおぼしき男に胸倉をつかまれて凄まれた。
「他にどうやって俺達を満足させられるんだよ、ええ? お前は黙って足を開けばいんだ、わかったか!」
指先が冷えていく。思考が外側からだんだん凍りついていくような感じがして、まともにものが考えられなくなっていった。
いつだか、誰かが言った声が耳の奥によみがえってきて自分を苛む。幾重にも重なった、誰の声かも判然としないものだ。
――お前は、男を喜ばせるくらいしか、価値がないから、
――黙って、
――犯されてればいいんだよ!
「…………っ、……」
口を開けても声が出ない。拒否の言葉も悲鳴も罵声も何一つ。
人形にでもなってしまったかのように、男達に引きずられるまま、フィアリスはどこかへと連れて行かれた。
* * *
森の中にあった古い小屋の床に、フィアリスは突き倒された。
脚衣を脱がされて四つん這いの姿勢をとらされ、遠慮もなしに秘部へと指を突っ込まれる。自分の中で蠢く何本もの指の感触に、フィアリスは声をもらした。
「ん……、……っく、ひっ……う、あッ」
その呻き声の中に混じる甘いものを、男達は聞き逃さない。
「こいつ、ケツいじられて感じてるぜ」
「慣れてるんだ。大方男娼でもやってたんだろうさ」
「ひょっとしたら輪姦されたくて近づいてきたのかもしれねぇな。男のものが恋しくて仕方なかったんだろ」
下品な笑い声が小屋の中に響く。
前戯もそこそこに、後ろの男が自身のそり立ったものをねじこんできた。
「あっ、やぁ……! 痛……い……っ」
痛みで目に涙が滲み、乱暴に攻められて視界が揺れる。落ちた涙が点々と、床に染みを作っていった。
「ははあ、なるほど、男も案外悪くねぇな!」
突き上げられ続けて、逃げ出そうとするもやはり体に力が入らない。
「あ、あ、ぅんっ……や、ふあっ」
痛みの中にいつしか快楽が混じり始めて、弱々しい呻き声ははっきりとした嬌声へと変わる。
「え? どうだ、気持ち良いだろ? これが欲しかったんだよな? 気持ち良いって言ってみろ、ほら!」
髪をつかまれて引っ張られる。無理な体勢をさせられ、痛みと苦しさで呼吸が辛くなった。喘いで何か言葉を発しようとしたが、どんなことを口にしていいのかわからない。
床に仰向けに寝かされて、腰を持ち上げられまた別の誰かに挿入される。他の男達も好きなように体を愛撫してきた。
「はぁっ……ん、う……ッ……ああっ……やああっ」
もう誰にどこを触られているのかも感知できない。誰のものを挿れられているのかも知らない。
気持ち悪いのと気持ち良いのが混じって頭がおかしくなりそうだった。
異なる熱を持つ男達の手にいじられ、それに応じるようにフィアリスは体をよじる。聞こえるのは自分の淫らな声と男達の荒い呼吸の音、それに卑猥な水音だ。
懐かしい、と思った。
あの洞穴の中で、いつもこうして犯されていて、それがフィアリスに与えられた役目だった。
自分が男達の欲望を受け入れることで、その場は上手く収まるのだ。誰も不満など言わず、平和だった。
(そうだ。私が受け入れて誰も傷つかないのなら、そうした方がいい)
「どこが一番いいのか言ってみな」
(私が悪いんだ、私はこのくらいのことでしか誰かを喜ばせることができないし)
「自分が今どんな格好してるかわかってんのか? この淫乱野郎め。お前、犯されるのが好きなんだろ!」
(好き? そうかもしれない……私、は、こういうことをされても、平気だも、の……)
考えがまとまらなくて、言葉がみんな散っていく。体の揺れと一緒に、気持ちがバラバラになってどこかへ落ちていってしまうかのようだ。
フィアリスに挿入していた男がわざと腰の動きを浅くして焦らす。訪れそうで訪れない絶頂がもどかしかった。
「イキたいか? 上手におねだりしたら良くしてやるぜ」
「う……」
あの少女達はどうしただろう、とぼんやりした頭の隅でフィアリスは考える。
酷い仕打ちをした父親のもとに戻るだろうか。それとも姉妹二人で生きていくために逃げるのか。どちらの道を選んでも、茨の道だろう。
(可哀想に。あの子達が少しでも、幸せに生きられたらいいのだけど……)
息を切らして、フィアリスは自分の体を見下ろした。男達と自分の体液にまみれた体。今も股の間では、男が赤黒いものを出し入れしている。
「ん……欲しい……っ、もっと、奥に……」
喉をひくつかせて、フィアリスは声を振り絞った。
「奥に来て……っ、お願いだから……! はや、く、イキたい……」
男が満足そうにするのと、平気でそんな言葉を吐ける自分にフィアリスが失望したのは同時だった。
もっともっと汚されればいいんだ、と投げやりな怒りに支配される。
どうせ私は汚い人間で、これ以上汚れたところでなんだというのだろう。
* * *
霧の深い朝方だった。
蹄の跡を見つけて、ジュードは手綱を引いた。ごくわずかではあるが、フィアリスの魔力を感じる。この辺りを通ったという証拠だ。ジュードはこういった魔力の気配を感じ取るのが得意だった。
夕べ戻る予定だったフィアリスが夜中になっても戻らないのでさがしに出て来たのだ。性格から考えても、知らせもなしに予定を変更する人間ではない。何かあったのだろう。
気配を頼りに森の中へと進んでいく。
すると、流れの緩やかな浅い川が目に入った。
その川の、水がほとんど流れずたまったところに、誰かが仰向けに倒れている。
胸の辺りまで水に浸かって、金色の髪が水面に浮かんでいた。
「フィアリス」
呼吸をしているので、死んでいないのは遠目にもわかる。フィアリスは、酷く大儀そうにジュードの方へと視線を向けた。
「何をしている」
「……体を清めているんです。汚いから」
雑に服を身につけてはいるが、暴行されたあとが体中に生々しく刻まれていた。靴まで持ってくる気力がなかったのか、それともなくしてしまったのか、裸足だ。
「いつからそうしている」
「いつからだろう……」
「風邪をひくぞ」
「ひきませんよ……私、今まで一度も風邪なんてひいたことがないんです。子供の頃も、裸で一晩転がされたって平気でしたから」
力なく笑うフィアリスは、一向に起き上がろうとしない。
ジュードはマントを脱いで木の枝にかけておくと、水に入ってフィアリスの体を抱き上げた。
水に濡れて衣服が張りついたその姿は、哀れなほど煽情的だ。
蜜を求める虫を呼ぶ、花のような存在だった。一度火がついてしまえば、大抵の男は惑わされて冷静でいられなくなる。
彼は少しもそのような魅力を望んでいなかったのにも関わらず、天から付与されてしまったのだ。それがために、わけがわからず蹂躙され続けた。生来の気の優しさゆえに自分以外、誰も憎めない。あまりにも不幸な青年だった。
「濡れてしまいますよ、ジュード様」
マントでフィアリスをくるみ、横抱きにして川を離れる。マント越しにもわかるほど、フィアリスの全身は冷え切っていた。何時間もああしていたに違いない。
ついぞ見せたことがないほど虚ろな表情をしたフィアリスは、淡々と、自分の身に起きたことをかいつまんで説明した。
「本当に、いやらしい男なんですよ、私は。拒まなかったんですからね」
「フィアリス。お前は拒まなかったのではない。拒めなかったのだ」
ジュードがそう言っても、フィアリスはぼんやりとした表情で首を傾げるだけだった。意味がわかりかねる、といった顔だ。
「あなたはお優しいからそう仰いますけど、私はそうは思いませんね。これが本性なんですよ。その気になればあんな輩、どうとでもできたはずなのに。それに実際、少し気持ち良かったですからね。嫌だったら、快楽なんて感じないはずだ」
唇の端を曲げてフィアリスは自嘲する。
平素朗らかで笑みを絶やさないこの青年は、滅多にこんな顔を見せない。ごく稀に、ジュードの前だけで見せるのだ。おそらく信頼しているからなのだろう。
「私は汚らわしい。汚れきっている」
「聞きなさいフィアリス。お前は汚れてなどいない」
無表情で見上げるフィアリスは、ジュードの言葉を素直に聞き入れている様子はなかった。頭が正常に働いているかも怪しいところだ。まだ混乱状態に陥っているのかもしれない。
ふと、不安そうにフィアリスが眉根を寄せる。
「ジュード様、私を館から追い出すでしょうね……」
「何故そう思う」
「私がふしだらで……汚い人間だから。たくさん男を受け入れる、ろくでもない男だから……。あなただって、こんな私を抱くのはもうお嫌でしょう」
そんなことはない、と言うしかなかった。
するとフィアリスは懇願するような眼差しでジュードを見上げる。
「嫌ではないのですか? また私を抱いてくれますか?」
ジュードの服をつかみ、焦ったようにフィアリスは問いを重ねる。
「ああ」
ジュードが頷くと、途端にフィアリスはほっとしたような笑みを浮かべた。
「良かった……。じゃあ、今夜抱いて下さい」
「今日は休みなさい」
「嫌です! あなたはまた最近、お加減がよろしくないはずだ。あなたのために、出来ることをやらせて下さい。それくらいしか私に出来ることなんてないんだから!」
壊れかけている、とジュードは思った。
フィアリスは壊れかけているのだ。
ひび割れて砕けそうになった心を、罪悪感や自責の念というもので硬い殻を作って包み、補強している。その殻は全て透明で、ジュードにはフィアリスの脆い心が見えていた。
お前は間違っている、と叱責するのは簡単だった。
だが、今無理矢理その殻を取り去ってしまえば、確実にフィアリスの心はもたないだろう。
対応を少しでも誤れば、フィアリスは狂ってしまうのだ。
ジュードには彼を救ってやることができなかった。
殻を取り払っても心が砕けてしまわないように、代わりに包んでやれないのだ。
惜しみない愛を、与えてやれない。もう持っていないから。
ジュードは自分が心というものをほとんどなくしてしまったことを自覚していた。そんな男が誰かを救おうなんて、思うことすらおこがましい。
ジュードが彼にしてやれることは、彼を否定せず、好きなようにさせることだけだった。
「魔法で信号を送ったから、じきに馬車が来る。それに乗って今日は別邸へ行く。わかったな」
どこまで理解しているのか、フィアリスは曖昧に頷いた。
「……ジュード様。私、またエヴァンに会ってもいいですか?」
「お前はエヴァンの師ではないか」
「そうですけど……」
動揺しているのか、フィアリスの瞳が揺らいでいる。
ジュードの腕の中にいる青年は、まるで硝子細工のような壊れ物に見えた。美しいが、儚い。
「触ってもいいのかな。許されますか? 私が触ったら、清らかなあの子が汚れてしまわないかな?」
「汚れるわけがないだろう。エヴァンはお前になついている。お前が戻ったら、撫でてほしいとせがむに決まっているではないか。エヴァンを撫でてやりなさい」
フィアリスが少し戻らないと、エヴァンは寂しそうにして落ち着かなくなるのだ。そして戻れば駆け出して、しがみつく。
いつもの光景を思い出したのか、少しだけ嬉しそうにしてフィアリスは微笑んだ。ようやく普段の面影を取り戻す。
「エヴァン……」
悲しみの混じった笑みをそのままに、フィアリスは教え子の名前を呟いた。名前を口にするだけで幸福になるとでも言いたげに。
「エヴァンに、会いたい……」
そこでフィアリスは気を失った。
立ち止まり、ジュードは抱いている青年を見下ろす。
何て哀れな子供なのだろう。
そして、そんな子供一人救えない己は、どれだけ力を持ったところで、ろくな人間ではない。救えないどころか、傷つけ続けている。
私が悪い。全て私が。
ジュードの唇が動き、フィアリスに何かを囁こうとする。
けれど結局声にはならず、厳めしい顔を崩さないジュードは、若き魔術師を抱いたまま、再び歩き出したのだった。
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