大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

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  葛城能吐かつらぎののとの引き起こした事件から、その後2週間が過ぎていた。

  葛城円かつらぎのつぶらも既に回復し、彼も無事に元通りの生活を送れるようになっていた。
  そんな父親を見て、韓媛からひめもとりあえずはひと安心している。

「やはり、能吐は処刑される事になってしまった。でもこれは、流石にどうする事も出来ない……」

  韓媛はそう言いながら、今回の事件の解決に使った剣を眺めていた。
  あの不思議な光景を見なければ、この事件は解決されないままで、父親も大変な事になっていたはずだ。

  また彼女はそれ以降、今回のような危機に合わないためにも、この剣は出来るだけ肌身離さず持ち歩く事にした。

  ちなみに普段は、剣は腰の紐の中に隠すようにして入れている。

「災いごとを断ち切るって、やはり今回のような事を意味していたのね」

  事件からすでに2週間が経ってはいたが、まだこの事件の興奮が収まっていない。それぐらいこの2週間はとても目まぐるしく、本当に気が休む日がなかったと彼女は思った。


  それと意外だったのが、今回の大泊瀬皇子おおはつせのおうじの敏速な対応である。

  彼は能吐を捕えた後、直ぐさま大和に毒の件を確認させた。
  ただでさえ今は雄朝津間大王おあさづまのおおきみの体調不良と、木梨軽皇子きなしのかるのおうじの問題が持ち上がっている。

  そんな中で、彼が能吐が毒を受け取った証拠を大和内で見つけるとは、なんて凄い人だろうと彼女は思った。
  恐らく、能吐と彼に協力した大和の人間も、大泊瀬皇子がここまで出来た人物だとは思っていなかったのであろう。

  こうした事があったため、ここまで早く対応出来た彼に関して、韓媛の中でかなり評価が上がった。

「でも、いくらお父様の事で動揺していたとはいえ、彼の前で散々泣いて本当にみっともない真似をしてしまった」

  ただ彼にあんな優しい一面があったとは、彼女からしてもとても意外だった。

「それと、彼にまだお礼をきちんと言えていない。皇子は今度いつここに来られるのかしら」

  そんな事を韓媛が考え込んでいると、彼女の部屋に誰かがやって来たようだ。

「韓媛、突然で悪い。俺だ、大泊瀬だ」

  いきなり彼女の部屋の外から、大泊瀬皇子の声が聞こえて来た。

「え、大泊瀬皇子?」

  何故突然に彼が自分の部屋にやって来たのだろう。韓媛は余りに突然すぎて、少し混乱した。

「円に、ここに来る許可はとってある。部屋の中に入っても良いか」

  彼が来た理由は分からないが、ひとまずは部屋に入って貰った方が良さそうだ。

  彼女は急いで剣をしまうと、外にいる皇子に返事をした。

「皇子、分かりました。では中に入っていただいて大丈夫です」

  韓媛はそう言って、彼を部屋の中に招き入れた。

  大泊瀬皇子は部屋の中に入って来ると、彼女の前に来て座った。

「韓媛、突然で済まない。どうやら円の体調も無事に回復したようだ。それに今回の事件では、お前にも危害が出なくて本当に良かった」

(皇子は、私の事も心配されてたのね)

  韓媛はそう思うと、何だかとても嬉しい気持ちになった。これが4年前、かなりの問題児だった少年だとは到底思えない。


「今回は大泊瀬皇子には本当に感謝してます。もし犯人が捕まらなかったら、今頃私の父はどうなっていた事か……」

  彼女はそう言うと、また感情が込み上げて来た。

「俺は別に、そんな対した事はしてない。元々円には、俺が小さい頃から色々と世話になっていた」

  大泊瀬皇子は特に何ともないような感じで、彼女にそう答えた。

「あの事件があって以降、私皇子にはずっとお礼を言いたいと思ってました。父を助けて下さって本当にありがとうございます」

  韓媛は彼に対して、ただただ感謝の思いでいっぱいだった。

  そんな彼女の態度を見て、大泊瀬皇子も少しやれやれと言った感じの表情を見せる。

  彼が思うに、韓媛はとても賢くて聡明な娘の印象である。そんな彼女がこんなにしおらしい態度を見せるのは、本当に意外だなと思った。
  出来る事なら、子供の頃にこんな彼女を見てみたかったと思う。

「まぁ、お前が元気そうで俺も安心した。所でちょっと、お前に聞きたい事がある」

  どうやら大泊瀬皇子がここに来たのは、その事を聞くのが目的のようだ。

「私に聞きたい事ですか?  皇子一体どのような事でしょう」

  韓媛は一体何の事だろうと思った。

「今回の件で、能吐相手にお前は毒の話しをしていた。しかも奴が俺に濡れ衣を着せようとしてた話しまで。どうしてお前はその事を知っていた?」

  それを聞いた韓媛は、内心「しまった!」と思った。あの時は自分も本当に必死で、そんな事を考えずに能吐に話していた。
  それにまさかあの場面で大泊瀬皇子が現れるなんて、誰が想像出来ただろうか。

(これは油断していたわ。とりあえず今はどうにかして彼に誤魔化さないと)

「大泊瀬皇子、申し訳ありません。私も父は何か毒を盛られたのではと、あの時考えてました。
  それで能吐を見て、何故か彼が怪しい気がしたもので……それで思わず彼にかまをかけてみました」

  大泊瀬皇子は、それを聞いてとても驚いた。まさか彼女が、そのような事をするとはとても想像がつかない。それ程までに、あの時は父親の事で気が動転していたのだろうか。

「ふーん、それは意外だな。お前がそんな行動に出るとは……まぁ、お前が何かしたとは全く思っていない。ただ俺が少し気になっただけだ」

  大泊瀬皇子にそう言われて、韓媛はとりあえず安心した。

(大泊瀬皇子に信じてもらえて、本当に良かったわ)

「でも、大泊瀬皇子もとてもご立派になられましたね。子供の時とは本当に別人だわ」

  韓媛は少し嬉しそうにしながら、彼に言った。これは彼女からしてみても本心である。
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