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29《秋の紅葉》
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季節もすっかり秋になり、大和やその付近の地域では紅葉がとても綺麗に見られるようになった。
そんなある日の事である。
葛城円が自身の部屋に娘の韓媛を呼び、ある提案を持ちかける。
「最近は良くない出来事が続いていたから、気分転換も兼ねて少し遠出をしてみないか?」
「え、お父様、遠出ですか?」
韓媛は父親からの突然の提案に対し、思わず目を丸くする。
確かに最近、大王の崩御や皇族内での内乱等、物騒な事が色々と続いていた。
また少し前に話しに出ていた、大泊瀬皇子と草香幡梭姫の婚姻の件も、彼女の兄の大草香皇子が穴穂大王に暗殺されてしまい、今は一旦保留状態になっている。
(こんな時期にお父様が遠出に誘うのは、少し意外ね……)
「あぁ、今は紅葉が綺麗だから、前々からお前が行ってみたいと言っていた吉野に行くのはどうかと思ってな」
吉野は大和からさらに南に下った所にある場所で、この時期はとても紅葉が綺麗に見られる。
そして韓媛は、その吉野にはまだ一度も行った事がなかった。
また吉野は大和の皇族が度々行っている場所だ。なので、そこまで道のりが悪いわけでもなく、韓媛でも十分に行けると円は考えた。
「まぁ、あの吉野にですか。お父様それは是非とも行ってみたいです!!」
韓媛は意外な父親からの提案を聞いて、とても心を踊らせた。
(吉野は一度行ってみたいと思ってたのよね)
韓媛は先日の大泊瀬皇子の婚姻の話しがあって以降、妙に気持ちが沈みがちだった。
そんな彼女からしてみれば、この遠出は良い気分転換になりそうだ。
「吉野なら朝早めに出かければ、その日の内に帰って来る事も出来る。だが折角だから、1日どこかに泊まってみても良いかもしれない」
円曰く、葛城もそれなりに大きな族であるので、吉野付近に住む者の住居に泊めてもらえるよう、手配をする事も可能なのだそうだ。
「泊まりがけでの遠出となると、本当に心が浮き立ちますね」
韓媛もとても嬉しそうにしながら、父親にそう答える。彼女の場合、日頃は中々遠出が出来ないので、願ってもない事だった。
父親の円も、そんな娘の嬉しそうな様子を見て、思わず目を細める。
円自身も妻が亡くなって以降、娘には寂しい思いをさせていないかと、常々心配していた。
そんな中での娘との久々の遠出である。父親としても、出来る限りの事を彼女にはしてやりたい。
(それと先日聞いた使用人達の話しで、韓媛が大泊瀬皇子の妃選びの話しを聞いてから、少し元気がないと聞く。もちろん皇子の事情は聞いているが、まぁ良い気分転換になるだろう)
「よし、では従者も数人連れて出かけるとしよう。こんな時にお前が馬に乗り慣れていて本当に良かった」
(娘に歩いて吉野まで行かせるのは、流石に大変なので、今回は馬に乗れる者だけで向かった方が良いだろう)
そして、今回の遠出の話しがまとまりかけた丁度その時だった。
急に部屋の外から、使用人の女性の声が聞こえてきた。
「円様、今丁度大泊瀬皇子が来られましたが、こちらにこのままお通しして宜しいでしょうか?」
どうやら今日は、大泊瀬皇子が来る予定の日のようだ。
「あぁ、そうだったな。ではこのままここに通してくれるか」
円は外にいる使用人に、そのまま返事を返した。皇子がもう来てるとなると、長く本人を待たせるのも申し訳ない。
「円様、分かりました。では大泊瀬皇子には、そのようにお伝えします」
使用人はそう言うと、いそいそと大泊瀬皇子を呼びに行くため、円のいる部屋を後にした。
(お父様と大泊瀬皇子がお話しされるのなら、私は部屋を出た方が良さそうね)
円と使用人の会話を聞いた韓媛は、そのまま立ち上がり、そして円に言った。
「お父様、大泊瀬皇子も来られるようなので、私は失礼しますね」
「あぁ、そうだな。韓媛、悪いが吉野の件はまた後ほど話しをしよう」
彼は少し申し訳なさそうにして、彼女にそう答えた。
「はい、大丈夫です。では私は一旦失礼させていただきます」
韓媛はそう言って父親の部屋を後にし、自身の部屋に戻る事にした。
(でも吉野に行くのは本当に楽しみね。きっと綺麗な紅葉が沢山見られるはず。お父様には本当に感謝しないと……)
そんなふうに彼女が吉野の紅葉の事をあれこれ考えながら歩いていると、丁度彼女の目先の向こうから、大泊瀬皇子がやって来るのが見えた。
(まぁ、大泊瀬皇子だわ)
前回の彼の妃選びの事があって以降、彼とは会っていなかったので、どう声をかければ良いか一瞬悩んだ。
草香幡梭姫との婚姻も一旦保留になったと聞いていたので、何とも気まずいと彼女は思った。
(彼には、先日の婚姻の事は余り触れずにおいた方が良いかしら?)
韓媛は大泊瀬皇子が近くに来るとふと彼を見る。
先日の大草香皇子の事件後とはいえ、彼は至って落ち着いた感じだ。
「これは、大泊瀬皇子。今日もわざわざ葛城まで、ご苦労様です」
韓媛はとりあえず、そう皇子に挨拶をした。こういう時は、普段と変わらずに接する方が良いだろう。
「あぁ、韓媛。お前も元気そうだな。円の部屋にいたのか?」
この先に葛城円の部屋があるので、きっと先程まで彼女は父親の所にいたのだろうと彼は思った。
「はい、父とは先ほどまで、少し話しをしておりました」
韓媛は、変に動揺するわけでもなく、彼に軽く笑みを見せながら答える。
そんな韓媛を目にして、大泊瀬皇子は少し不思議に思う。
(何やら、嬉しそうな表情で歩いてる感じだったが、何か良いことでもあったのか)
「そうか、そんな時に俺が来てしまって済まない」
大泊瀬皇子もそんな彼女の様子が少し気にはなるものの、円を待たせている事もあり、ひとまずその件は触れないでおく事にした。
「先日大変な事件があったのは、父から聞いております。皇子も余り思い詰めないで下さいね」
韓媛はとりあえず、大泊瀬皇子の今の心境を気遣ってそう言った。
「お前にも心配をかけて悪い。俺は特に気にやんではないので大丈夫だ」
(やっぱり彼は本当に強い人だわ)
そんな彼を見て、やはり彼は大和の皇子だなと少し感心した。
そんなある日の事である。
葛城円が自身の部屋に娘の韓媛を呼び、ある提案を持ちかける。
「最近は良くない出来事が続いていたから、気分転換も兼ねて少し遠出をしてみないか?」
「え、お父様、遠出ですか?」
韓媛は父親からの突然の提案に対し、思わず目を丸くする。
確かに最近、大王の崩御や皇族内での内乱等、物騒な事が色々と続いていた。
また少し前に話しに出ていた、大泊瀬皇子と草香幡梭姫の婚姻の件も、彼女の兄の大草香皇子が穴穂大王に暗殺されてしまい、今は一旦保留状態になっている。
(こんな時期にお父様が遠出に誘うのは、少し意外ね……)
「あぁ、今は紅葉が綺麗だから、前々からお前が行ってみたいと言っていた吉野に行くのはどうかと思ってな」
吉野は大和からさらに南に下った所にある場所で、この時期はとても紅葉が綺麗に見られる。
そして韓媛は、その吉野にはまだ一度も行った事がなかった。
また吉野は大和の皇族が度々行っている場所だ。なので、そこまで道のりが悪いわけでもなく、韓媛でも十分に行けると円は考えた。
「まぁ、あの吉野にですか。お父様それは是非とも行ってみたいです!!」
韓媛は意外な父親からの提案を聞いて、とても心を踊らせた。
(吉野は一度行ってみたいと思ってたのよね)
韓媛は先日の大泊瀬皇子の婚姻の話しがあって以降、妙に気持ちが沈みがちだった。
そんな彼女からしてみれば、この遠出は良い気分転換になりそうだ。
「吉野なら朝早めに出かければ、その日の内に帰って来る事も出来る。だが折角だから、1日どこかに泊まってみても良いかもしれない」
円曰く、葛城もそれなりに大きな族であるので、吉野付近に住む者の住居に泊めてもらえるよう、手配をする事も可能なのだそうだ。
「泊まりがけでの遠出となると、本当に心が浮き立ちますね」
韓媛もとても嬉しそうにしながら、父親にそう答える。彼女の場合、日頃は中々遠出が出来ないので、願ってもない事だった。
父親の円も、そんな娘の嬉しそうな様子を見て、思わず目を細める。
円自身も妻が亡くなって以降、娘には寂しい思いをさせていないかと、常々心配していた。
そんな中での娘との久々の遠出である。父親としても、出来る限りの事を彼女にはしてやりたい。
(それと先日聞いた使用人達の話しで、韓媛が大泊瀬皇子の妃選びの話しを聞いてから、少し元気がないと聞く。もちろん皇子の事情は聞いているが、まぁ良い気分転換になるだろう)
「よし、では従者も数人連れて出かけるとしよう。こんな時にお前が馬に乗り慣れていて本当に良かった」
(娘に歩いて吉野まで行かせるのは、流石に大変なので、今回は馬に乗れる者だけで向かった方が良いだろう)
そして、今回の遠出の話しがまとまりかけた丁度その時だった。
急に部屋の外から、使用人の女性の声が聞こえてきた。
「円様、今丁度大泊瀬皇子が来られましたが、こちらにこのままお通しして宜しいでしょうか?」
どうやら今日は、大泊瀬皇子が来る予定の日のようだ。
「あぁ、そうだったな。ではこのままここに通してくれるか」
円は外にいる使用人に、そのまま返事を返した。皇子がもう来てるとなると、長く本人を待たせるのも申し訳ない。
「円様、分かりました。では大泊瀬皇子には、そのようにお伝えします」
使用人はそう言うと、いそいそと大泊瀬皇子を呼びに行くため、円のいる部屋を後にした。
(お父様と大泊瀬皇子がお話しされるのなら、私は部屋を出た方が良さそうね)
円と使用人の会話を聞いた韓媛は、そのまま立ち上がり、そして円に言った。
「お父様、大泊瀬皇子も来られるようなので、私は失礼しますね」
「あぁ、そうだな。韓媛、悪いが吉野の件はまた後ほど話しをしよう」
彼は少し申し訳なさそうにして、彼女にそう答えた。
「はい、大丈夫です。では私は一旦失礼させていただきます」
韓媛はそう言って父親の部屋を後にし、自身の部屋に戻る事にした。
(でも吉野に行くのは本当に楽しみね。きっと綺麗な紅葉が沢山見られるはず。お父様には本当に感謝しないと……)
そんなふうに彼女が吉野の紅葉の事をあれこれ考えながら歩いていると、丁度彼女の目先の向こうから、大泊瀬皇子がやって来るのが見えた。
(まぁ、大泊瀬皇子だわ)
前回の彼の妃選びの事があって以降、彼とは会っていなかったので、どう声をかければ良いか一瞬悩んだ。
草香幡梭姫との婚姻も一旦保留になったと聞いていたので、何とも気まずいと彼女は思った。
(彼には、先日の婚姻の事は余り触れずにおいた方が良いかしら?)
韓媛は大泊瀬皇子が近くに来るとふと彼を見る。
先日の大草香皇子の事件後とはいえ、彼は至って落ち着いた感じだ。
「これは、大泊瀬皇子。今日もわざわざ葛城まで、ご苦労様です」
韓媛はとりあえず、そう皇子に挨拶をした。こういう時は、普段と変わらずに接する方が良いだろう。
「あぁ、韓媛。お前も元気そうだな。円の部屋にいたのか?」
この先に葛城円の部屋があるので、きっと先程まで彼女は父親の所にいたのだろうと彼は思った。
「はい、父とは先ほどまで、少し話しをしておりました」
韓媛は、変に動揺するわけでもなく、彼に軽く笑みを見せながら答える。
そんな韓媛を目にして、大泊瀬皇子は少し不思議に思う。
(何やら、嬉しそうな表情で歩いてる感じだったが、何か良いことでもあったのか)
「そうか、そんな時に俺が来てしまって済まない」
大泊瀬皇子もそんな彼女の様子が少し気にはなるものの、円を待たせている事もあり、ひとまずその件は触れないでおく事にした。
「先日大変な事件があったのは、父から聞いております。皇子も余り思い詰めないで下さいね」
韓媛はとりあえず、大泊瀬皇子の今の心境を気遣ってそう言った。
「お前にも心配をかけて悪い。俺は特に気にやんではないので大丈夫だ」
(やっぱり彼は本当に強い人だわ)
そんな彼を見て、やはり彼は大和の皇子だなと少し感心した。
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