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28《大草香皇子の悲運》
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こうして穴穂大王は、大泊瀬皇子の同意を得て、彼の妃に草香幡梭姫を希望する事にした。
そこで、草香幡梭姫の兄にあたる大草香皇子の許可を得るため、彼の元に根使主を遣わした。
大王からの指示を受けた根使主は、早速大草香皇子の元へと向かう事にした。
「草香幡梭姫は、先の大王の皇女だ。今まで中々嫁がせなかった姫だけに、そう上手く行くのだろうか」
根使主は大草香皇子の元へ馬で向かっている道中、そんな事を考えていた。
だが今回の件は、穴穂大王に信頼されての事なので、最善を尽くすほかない。
そして、いよいよ大草香皇子のいる宮にたどり着いた。
すると彼は、そのまま大草香皇子の元へ通される事となった。穴穂大王からの使いと説明したので、直ぐに皇子の元に行かせてもらえるようだ。
そして彼は大草香皇子の前にやって来た。皇子はいたって落ち着いた感じでその場に座っている。
そして皇子の許可をもらった後、彼もその場に座って挨拶をした。
「私は穴穂大王からの使いで来ました、根使主と申します」
彼はそう言うと、大草香皇子の前でお辞儀をした。
「わざわざ、ここまで出向いてもらってご苦労。それで、私に何の用事でしょう?」
そこで根使主はさっそく、穴穂大王からの伝言を伝える事にした。
「はい、実はですね。あなたの妹ぎみである草香幡梭姫を、大王の弟皇子である大泊瀬皇子の妃にしたいと申されてます。それでその許可をいただきたく、私が遣わされた次第です」
大草香皇子はそれまでは落ち着いて聞いていたが、その話しを聞いた途端、とても驚愕する。
「な、何! 草香幡梭姫を大泊瀬皇子の妃になどと!!」
大草香皇子は余りの衝撃に、思わずその場で叫んだ。
そして、何やら一人で急にあれこれと考え出した。
根使主も、そんな大草香皇子の慌てぶりをただただ呆然と眺めていた。
(あの大泊瀬皇子が、草香幡梭姫を妃に望むとは意外だったな。でも、こんな機会はそうそうやって来ないだろう)
「私は今重い病を抱えています。でもそれも寿命だと思う事にしてきました。
ただ妹の草香幡梭姫を残して逝くのが、どうも気がかりで……
そんな中、大泊瀬皇子の妃にして頂けるとは何と有難い事でしょう」
大草香皇子はそう言って、穴穂大王からの申し入れをとても喜んだ。
根使主はその後、今回の経緯や大泊瀬皇子の条件等も説明したが、それも大草香皇子は承諾すると言ってきた。
例え建前上だけの婚姻だとしても、それでも妹を嫁がせずにいるよりは良いだろうと彼は思った。
だが言葉だけでの返事では大変失礼だと思い、すぐさま妹の奉り物を持ってくる事にした。
そして彼は、家宝の【押木玉蘰】を根使主に見せ、これを献上すると言ってきた。
押木玉蘰とは、この時代の髪飾りで、形の良い木の枝に玉を付けたものである。
根使主はその奉り物である押木玉蘰を見て、その余りの見事さにとても感動する。
(これは、何と素晴らしい髪飾りだろう……)
そしてその後、根使主は大草香皇子からの返事と、この奉り物を持って穴穂大王の元に向かう事にした。
だが大草香皇子の宮の帰りの道中、彼はひどく考え込んでいた。
(大草香皇子から預かったこの奉り物は本当に見事な髪飾りだ。出来るなら自分の物にしてしまいたい……)
彼は帰りの道中、その事がずっと頭から離れることがなかった。
むしろその思いは、どんどん彼自身の中で膨れ上がっていった。
そしてその後、根使主はいよいよ穴穂大王の元に戻って来た。
「根使主、今回は本当にご苦労だった。それで叔父上は何と言っていたのだ?」
根使主は穴穂大王にそう聞かれて、どうしてもあの奉り物が諦めきれず、それで彼に偽りの事を言ってしまった。
「大草香皇子は勅命には従わず、私に申すに『例え同族であるとは言えど、私の妹をどうして差出すことができましょう』と言ってきました」
それを聞いた穴穂大王は、その場でとても激怒した。
「何だと! 叔父上はそんな事を言ってきたのか!!」
(叔父上のやつ……何て高慢なんだ。俺が大王になった事が、それ程までに気にくわないのか!)
「は、はい。大草香皇子は確かにそうおっしゃられました」
根使主は、そんな穴穂大王の様子を見て恐ろしくなり、思わず体を震わせながらそう答えた。
「叔父上は、俺に対して謀反の心があるやもしれない。よし、それならすぐに兵を送り込んで始末する」
それを聞いた根使主は、余りの事に血の気が一気に引いた。だが今さら本当の事をよう話す事も出来ない。
(まてよ、あそこには中磯皇女がいる。彼女はそのまま俺の元に連れてくるか)
彼の脳裏にある案が浮かんだ。
すると彼は少し、不適な笑みを浮かべた。
それから穴穂大王はすぐさま、大草香皇子の宮に兵を遣わす事にした。
そして大草香皇子の家を取り囲み、そのまま攻め殺してしまう。
その際に、大草香皇子に使えていた難波吉師日香蚊親子は、主人が罪なく殺された事を知る。
そんな父と彼の2人の子供は、殺された皇子の体を抱いてとても悲しんだ。
その後に彼ら親子は、亡き主人の後を追うべく、ためらわず自らの首をはねて一緒に死んでいった。
そんな親子を見た兵たちは、皆とても悲しみ涙を流した。
それから大草香皇子の妃であった中磯皇女は、穴穂大王の皇后としてその後召される事となる。
その際には、中磯皇女と大草香皇子との間に出来た息子の眉輪王も一緒であった。
こうして、大草香皇子の悲惨な事件は終わりを遂げる事となる。
そこで、草香幡梭姫の兄にあたる大草香皇子の許可を得るため、彼の元に根使主を遣わした。
大王からの指示を受けた根使主は、早速大草香皇子の元へと向かう事にした。
「草香幡梭姫は、先の大王の皇女だ。今まで中々嫁がせなかった姫だけに、そう上手く行くのだろうか」
根使主は大草香皇子の元へ馬で向かっている道中、そんな事を考えていた。
だが今回の件は、穴穂大王に信頼されての事なので、最善を尽くすほかない。
そして、いよいよ大草香皇子のいる宮にたどり着いた。
すると彼は、そのまま大草香皇子の元へ通される事となった。穴穂大王からの使いと説明したので、直ぐに皇子の元に行かせてもらえるようだ。
そして彼は大草香皇子の前にやって来た。皇子はいたって落ち着いた感じでその場に座っている。
そして皇子の許可をもらった後、彼もその場に座って挨拶をした。
「私は穴穂大王からの使いで来ました、根使主と申します」
彼はそう言うと、大草香皇子の前でお辞儀をした。
「わざわざ、ここまで出向いてもらってご苦労。それで、私に何の用事でしょう?」
そこで根使主はさっそく、穴穂大王からの伝言を伝える事にした。
「はい、実はですね。あなたの妹ぎみである草香幡梭姫を、大王の弟皇子である大泊瀬皇子の妃にしたいと申されてます。それでその許可をいただきたく、私が遣わされた次第です」
大草香皇子はそれまでは落ち着いて聞いていたが、その話しを聞いた途端、とても驚愕する。
「な、何! 草香幡梭姫を大泊瀬皇子の妃になどと!!」
大草香皇子は余りの衝撃に、思わずその場で叫んだ。
そして、何やら一人で急にあれこれと考え出した。
根使主も、そんな大草香皇子の慌てぶりをただただ呆然と眺めていた。
(あの大泊瀬皇子が、草香幡梭姫を妃に望むとは意外だったな。でも、こんな機会はそうそうやって来ないだろう)
「私は今重い病を抱えています。でもそれも寿命だと思う事にしてきました。
ただ妹の草香幡梭姫を残して逝くのが、どうも気がかりで……
そんな中、大泊瀬皇子の妃にして頂けるとは何と有難い事でしょう」
大草香皇子はそう言って、穴穂大王からの申し入れをとても喜んだ。
根使主はその後、今回の経緯や大泊瀬皇子の条件等も説明したが、それも大草香皇子は承諾すると言ってきた。
例え建前上だけの婚姻だとしても、それでも妹を嫁がせずにいるよりは良いだろうと彼は思った。
だが言葉だけでの返事では大変失礼だと思い、すぐさま妹の奉り物を持ってくる事にした。
そして彼は、家宝の【押木玉蘰】を根使主に見せ、これを献上すると言ってきた。
押木玉蘰とは、この時代の髪飾りで、形の良い木の枝に玉を付けたものである。
根使主はその奉り物である押木玉蘰を見て、その余りの見事さにとても感動する。
(これは、何と素晴らしい髪飾りだろう……)
そしてその後、根使主は大草香皇子からの返事と、この奉り物を持って穴穂大王の元に向かう事にした。
だが大草香皇子の宮の帰りの道中、彼はひどく考え込んでいた。
(大草香皇子から預かったこの奉り物は本当に見事な髪飾りだ。出来るなら自分の物にしてしまいたい……)
彼は帰りの道中、その事がずっと頭から離れることがなかった。
むしろその思いは、どんどん彼自身の中で膨れ上がっていった。
そしてその後、根使主はいよいよ穴穂大王の元に戻って来た。
「根使主、今回は本当にご苦労だった。それで叔父上は何と言っていたのだ?」
根使主は穴穂大王にそう聞かれて、どうしてもあの奉り物が諦めきれず、それで彼に偽りの事を言ってしまった。
「大草香皇子は勅命には従わず、私に申すに『例え同族であるとは言えど、私の妹をどうして差出すことができましょう』と言ってきました」
それを聞いた穴穂大王は、その場でとても激怒した。
「何だと! 叔父上はそんな事を言ってきたのか!!」
(叔父上のやつ……何て高慢なんだ。俺が大王になった事が、それ程までに気にくわないのか!)
「は、はい。大草香皇子は確かにそうおっしゃられました」
根使主は、そんな穴穂大王の様子を見て恐ろしくなり、思わず体を震わせながらそう答えた。
「叔父上は、俺に対して謀反の心があるやもしれない。よし、それならすぐに兵を送り込んで始末する」
それを聞いた根使主は、余りの事に血の気が一気に引いた。だが今さら本当の事をよう話す事も出来ない。
(まてよ、あそこには中磯皇女がいる。彼女はそのまま俺の元に連れてくるか)
彼の脳裏にある案が浮かんだ。
すると彼は少し、不適な笑みを浮かべた。
それから穴穂大王はすぐさま、大草香皇子の宮に兵を遣わす事にした。
そして大草香皇子の家を取り囲み、そのまま攻め殺してしまう。
その際に、大草香皇子に使えていた難波吉師日香蚊親子は、主人が罪なく殺された事を知る。
そんな父と彼の2人の子供は、殺された皇子の体を抱いてとても悲しんだ。
その後に彼ら親子は、亡き主人の後を追うべく、ためらわず自らの首をはねて一緒に死んでいった。
そんな親子を見た兵たちは、皆とても悲しみ涙を流した。
それから大草香皇子の妃であった中磯皇女は、穴穂大王の皇后としてその後召される事となる。
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