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(仕方ない、こうなったら全てここで聞いてしまおう……)
こうして意を決した彼女は、大泊瀬皇子に例の婚姻の件を聞く事にした。
「そう言えば、先日噂で聞いたのですが、大泊瀬皇子の妃選びが始まってるそうですね。さらに候補も既に決まっているとか?」
それを聞いた大泊瀬皇子は、少し驚いた表情をするも、その後にため息をついて見せた。
(まさか、こんなに早く伝わっているとは)
「あぁ、その話しは本当だ。先日兄上から提案があって、相手は草香幡梭姫と言う皇女だ。俺も相手が皇女なら良いだろうと思い承諾している。それで彼女の兄の大草香皇子に、これから伺いを立てる予定だ」
大泊瀬皇子は、そう淡々と韓媛に説明した。
韓媛はそれを聞いて少なからず動揺する。つまり彼は、自分の妃には皇女を希望していたのだ。
「まぁ、それでは、大泊瀬皇子は皇女を妃に考えられていたのですね……」
韓媛は、何ともいえない胸の苦しさを感じた。彼のこう言った話しは、今まで噂でも全く聞いた事がなかったため、衝撃もかなり大きい。
「まぁ、あくまで建前上の婚姻だがな」
大泊瀬皇子は少し肩を落として言った。
自分から承諾した割には、どうも面倒臭さそうな感じに見える。
(た、建前上の婚姻?)
「大泊瀬皇子、それは一体どういう意味でしょうか?」
韓媛は彼の言っている事の意味がいまいち理解出来ない。何故婚姻に建前なんてものがあるのだろうか。
「草香幡梭姫は俺の叔母にあたる人で、俺とは親子ぐらい歳が離れている。そんな2人が本当の夫婦になれると思うか?」
それを聞いた韓媛も良く良く考えてみる。彼女の記憶では、確か草香幡梭姫はあの大雀大王の唯一の皇女である。
となると、今は確かにそれなりの年齢になっているはずだ。
「大泊瀬皇子、妃を選ぶのにどうしてその方にされたのですか」
「俺は、正妃は出来れば皇女を娶りたいと以前から考えていた。だがその皇女を愛するつもりはさらさらない。
つまり形だけ正妃におさまってくれる人を希望していた。なので、草香幡梭姫ならそれも可能かと考えた」
(大泊瀬皇子は一体どうして、そのような事を考えてるのかしら?)
韓媛は大泊瀬皇子の言っている事に対して、どうも理解出来ずにいた。
「豪族の姫を正妃に娶れば、その豪族の権力が強くなる可能性がある。だがそれもずっととは考えていない。それでは俺も逆に都合が悪い……」
大泊瀬皇子の意図している事は分かった。今葛城が権力を握っているのは、葛城の磐之媛が大雀大王に嫁いだのも原因の1つだ。大泊瀬皇子が豪族の権力が強くなる事を懸念したくなるのは理解出来る。
だが最後の、都合が悪いとは一体どう言う事なのだろうか。
「とりあえず、大泊瀬皇子の言いたい事は分かりました。ただ最後の方の都合が悪くなるとは一体どういう事ですか?」
大泊瀬皇子もそれは聞いて来るだろうと思っていたので、続けて彼女に答えた。
「俺は元々他に心に決めている女性がいる。だから正妃ではなく、その女性を愛して大事にしたいと思ってる。
ただ現状としては、ひとまずは皇女を娶るほかない」
大泊瀬皇子は少し切なそうな表情で、韓媛に言った。
(だが将来的には、この問題は絶対に解決させる……)
だがこれは韓媛からしてみれば、かなり驚く話しである。今まで彼に浮いた話が全く聞こえて来なかったのは、もしかするとその女性のためだったのかもしれない。
「大泊瀬皇子の浮いた話しは、今まで噂でも全く聞いた事がありません。もしかして、その女性の事があったからですか」
「あぁ、今まではわざとそうしてきた。どこぞの権力者の姫を勧められたり、女自身から言い寄られても、俺自身は全て断ってきた。
そうする事で、意中の女性に俺の変な噂が伝わらないようにするために……」
韓媛は先程よりも、さらに複雑な気持ちになってきた。正妃は建前上の婚姻で、彼の本命は別にいたと言うのだ。
そしてその女性のために、自分に言い寄って来る女性を、全て断り続けるとは中々出来る事ではない。それだけ彼は、その女性を一途に想い続けているのだ。
(きっと皇子は、葛城に来なくなった4年間の間に、その女性に出会ったのだわ)
そんな話しを聞くと、韓媛は大泊瀬皇子が自分よりもかなり大人に思えてくる。
1人の女性のために、彼はここまでの事をしていたのだから。
「大泊瀬皇子、その女性が誰なのかは教えてもらえないのですよね」
韓媛からしてみれば、相手の女性が誰なのかは全く想像がつかない。でも何故だか、それが誰なのか知りたくないとも思った。
「そうだな、今は草香幡梭姫との事もあるので、それは言えない。
韓媛も、今日俺が話した事は他には言わないでくれるか」
大泊瀬皇子は韓媛にそう言って、少し遠くの景色に目をやった。
(今は、こうするしかない。少なくとも草香幡梭姫との件が終わるまでは……)
「まぁ実際、草香幡梭姫との婚姻が本当に決まるかもまだ分からない。元々俺の条件はかなり特殊だ」
「まさか、大泊瀬皇子がそんな恋をしてるとは思ってもみませんでした。私なんて本当に父親任せでしたから」
韓媛はそう言うと、何故か少し涙が出てきた。これが何の涙なのかは本人にも分からない。
「あれ、何で涙が出て来るのかしら。何故か急に悲しくなってきて……」
そんな彼女を見た大泊瀬皇子は、思わず彼女を抱き締めた。
そして彼は、韓媛の艶やかな髪の感触を感じながら、小さな声で彼女に囁いた。
「韓媛、お前にこんな話しをして本当に済まない。いつかは全てをちゃんと話してやる」
それを聞いた韓媛は、そのまま大泊瀬皇子の胸に思いっきり顔を埋めた。
そして今は、ただただ彼に抱き締められていたかった。
(この感情は一体何なの?私は彼にどうしてもらいたいの)
こうして韓媛は、しばらくの間大泊瀬皇子の腕の中で、涙を流し続けた。
こうして意を決した彼女は、大泊瀬皇子に例の婚姻の件を聞く事にした。
「そう言えば、先日噂で聞いたのですが、大泊瀬皇子の妃選びが始まってるそうですね。さらに候補も既に決まっているとか?」
それを聞いた大泊瀬皇子は、少し驚いた表情をするも、その後にため息をついて見せた。
(まさか、こんなに早く伝わっているとは)
「あぁ、その話しは本当だ。先日兄上から提案があって、相手は草香幡梭姫と言う皇女だ。俺も相手が皇女なら良いだろうと思い承諾している。それで彼女の兄の大草香皇子に、これから伺いを立てる予定だ」
大泊瀬皇子は、そう淡々と韓媛に説明した。
韓媛はそれを聞いて少なからず動揺する。つまり彼は、自分の妃には皇女を希望していたのだ。
「まぁ、それでは、大泊瀬皇子は皇女を妃に考えられていたのですね……」
韓媛は、何ともいえない胸の苦しさを感じた。彼のこう言った話しは、今まで噂でも全く聞いた事がなかったため、衝撃もかなり大きい。
「まぁ、あくまで建前上の婚姻だがな」
大泊瀬皇子は少し肩を落として言った。
自分から承諾した割には、どうも面倒臭さそうな感じに見える。
(た、建前上の婚姻?)
「大泊瀬皇子、それは一体どういう意味でしょうか?」
韓媛は彼の言っている事の意味がいまいち理解出来ない。何故婚姻に建前なんてものがあるのだろうか。
「草香幡梭姫は俺の叔母にあたる人で、俺とは親子ぐらい歳が離れている。そんな2人が本当の夫婦になれると思うか?」
それを聞いた韓媛も良く良く考えてみる。彼女の記憶では、確か草香幡梭姫はあの大雀大王の唯一の皇女である。
となると、今は確かにそれなりの年齢になっているはずだ。
「大泊瀬皇子、妃を選ぶのにどうしてその方にされたのですか」
「俺は、正妃は出来れば皇女を娶りたいと以前から考えていた。だがその皇女を愛するつもりはさらさらない。
つまり形だけ正妃におさまってくれる人を希望していた。なので、草香幡梭姫ならそれも可能かと考えた」
(大泊瀬皇子は一体どうして、そのような事を考えてるのかしら?)
韓媛は大泊瀬皇子の言っている事に対して、どうも理解出来ずにいた。
「豪族の姫を正妃に娶れば、その豪族の権力が強くなる可能性がある。だがそれもずっととは考えていない。それでは俺も逆に都合が悪い……」
大泊瀬皇子の意図している事は分かった。今葛城が権力を握っているのは、葛城の磐之媛が大雀大王に嫁いだのも原因の1つだ。大泊瀬皇子が豪族の権力が強くなる事を懸念したくなるのは理解出来る。
だが最後の、都合が悪いとは一体どう言う事なのだろうか。
「とりあえず、大泊瀬皇子の言いたい事は分かりました。ただ最後の方の都合が悪くなるとは一体どういう事ですか?」
大泊瀬皇子もそれは聞いて来るだろうと思っていたので、続けて彼女に答えた。
「俺は元々他に心に決めている女性がいる。だから正妃ではなく、その女性を愛して大事にしたいと思ってる。
ただ現状としては、ひとまずは皇女を娶るほかない」
大泊瀬皇子は少し切なそうな表情で、韓媛に言った。
(だが将来的には、この問題は絶対に解決させる……)
だがこれは韓媛からしてみれば、かなり驚く話しである。今まで彼に浮いた話が全く聞こえて来なかったのは、もしかするとその女性のためだったのかもしれない。
「大泊瀬皇子の浮いた話しは、今まで噂でも全く聞いた事がありません。もしかして、その女性の事があったからですか」
「あぁ、今まではわざとそうしてきた。どこぞの権力者の姫を勧められたり、女自身から言い寄られても、俺自身は全て断ってきた。
そうする事で、意中の女性に俺の変な噂が伝わらないようにするために……」
韓媛は先程よりも、さらに複雑な気持ちになってきた。正妃は建前上の婚姻で、彼の本命は別にいたと言うのだ。
そしてその女性のために、自分に言い寄って来る女性を、全て断り続けるとは中々出来る事ではない。それだけ彼は、その女性を一途に想い続けているのだ。
(きっと皇子は、葛城に来なくなった4年間の間に、その女性に出会ったのだわ)
そんな話しを聞くと、韓媛は大泊瀬皇子が自分よりもかなり大人に思えてくる。
1人の女性のために、彼はここまでの事をしていたのだから。
「大泊瀬皇子、その女性が誰なのかは教えてもらえないのですよね」
韓媛からしてみれば、相手の女性が誰なのかは全く想像がつかない。でも何故だか、それが誰なのか知りたくないとも思った。
「そうだな、今は草香幡梭姫との事もあるので、それは言えない。
韓媛も、今日俺が話した事は他には言わないでくれるか」
大泊瀬皇子は韓媛にそう言って、少し遠くの景色に目をやった。
(今は、こうするしかない。少なくとも草香幡梭姫との件が終わるまでは……)
「まぁ実際、草香幡梭姫との婚姻が本当に決まるかもまだ分からない。元々俺の条件はかなり特殊だ」
「まさか、大泊瀬皇子がそんな恋をしてるとは思ってもみませんでした。私なんて本当に父親任せでしたから」
韓媛はそう言うと、何故か少し涙が出てきた。これが何の涙なのかは本人にも分からない。
「あれ、何で涙が出て来るのかしら。何故か急に悲しくなってきて……」
そんな彼女を見た大泊瀬皇子は、思わず彼女を抱き締めた。
そして彼は、韓媛の艶やかな髪の感触を感じながら、小さな声で彼女に囁いた。
「韓媛、お前にこんな話しをして本当に済まない。いつかは全てをちゃんと話してやる」
それを聞いた韓媛は、そのまま大泊瀬皇子の胸に思いっきり顔を埋めた。
そして今は、ただただ彼に抱き締められていたかった。
(この感情は一体何なの?私は彼にどうしてもらいたいの)
こうして韓媛は、しばらくの間大泊瀬皇子の腕の中で、涙を流し続けた。
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