大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

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  そして次の大和の大王を、いよいよ決めなくてはならない頃になっていた。

  そんな中、数名の者が大和の1人の皇子の元にやってきていた。彼らが会いに行ったのは葛城筋にあたる市辺皇子いちのへのおうじである。

「俺に一体何の用事だ」

  市辺皇子は少し怪しみながら、彼の元にやってきた者達にたずねる。

  するとその者達の1人が代表して話しを始めた。

「はい、市辺皇子もご存知と思いますが、穴穂大王あなほのおおきみ眉輪まよわに殺されてしまいました。 
 そこで我々としては市辺皇子、是非ともあなたに次の大王になってもらいたい」

  市辺皇子はそれを聞いてとても驚く。確かに自分も大和の皇子ではあるが、母親が葛城の姫ということもあり、血筋的に優先順位は下がると思っている。

「俺は葛城筋の皇子だぞ。それに比べて皇女の母を持つ大泊瀬おおはつせの方が、血筋的には有利なはずだ」

(こいつらはなぜ俺を大王に押したがるんだ)

「私達は元々穴穂大王に支えていた者です。穴穂大王は生前に自分にもしものことがあれば、次の大王はあなたにしたいといっておられました」

「何、あの穴穂がそのようなことを?」

  市辺皇子は少し意外に思えた。彼は弟の大泊瀬皇子おおはつせのおうじと割りと仲が良いように見えた。なので自身の次は弟の大泊瀬を指名しそうなものである。

「はい、本当です。それに大泊瀬皇子はまだ若いうえに、少し行動にも問題が見られます。今後の大和のことを考えるなら、やはりあなたに大王になっていただく方が懸命です」

(なるほど、そういうことか……)

  確かに大泊瀬皇子の行動には市辺皇子も難色を示していた。穴穂大王が殺害されたのち、彼は2人の兄弟を殺して、さらに眉輪とあの葛城円かつらぎのつぶらまでもを自害に追いつめた。
  葛城と縁の深い市辺皇子にとって、葛城の衰退はとても喜べるものではなかった。

「だがそうはいっても大泊瀬の優位性に変わりはない。それなのにどうやって俺が大王になれるんだ?」

「はい、市辺皇子が無事大王になったとしても、大泊瀬皇子の存在はとても危険です。今度は市辺皇子の身に危険がくるやもしれません。
  であれば彼には何らかの方法で消えてもらった方が宜しいかと」

  市辺皇子はそれを聞いて、この者達の意図していることにようやく気付いた。

「なるほど、大泊瀬を殺して大王になれということか。
  確かに大泊瀬がいなくなれば、俺が大王になる可能性はかなり高くなる。
  それに穴穂が俺を次の大王にと考えていたのであれば尚更だ」

「はい、このことは皇后の中磯皇女なかしのひめみこにも穴穂大王は話されています。もしかするとそれ意外にも、話しを聞いている者がいるかもしれません」

(確かに今の大泊瀬を大王にするのは少し危ない気がする。それにこの者達のいうように次は俺が狙われる可能性だってある)

  また市辺皇子は自分だけでなく、妃の荑媛はえひめと2人の息子にも危害がでないかと懸念した。特に彼の2人の息子は大和の大事な皇子だ。




  そこまで考えると彼は大きな決断をすることにした。

「確かに今の大泊瀬が大王になるのは危険だ。それに俺は自分だけでなく、自身の大事な家族も守りたい。であれば大泊瀬には消えてもらうほかない」

「市辺皇子、ではご決断して頂けるのですね」

  市辺皇子の元にやってきた彼らは、それを聞いて思わず歓喜の声を上げる。

「だが俺は十分な兵も持っておらず、それに大泊瀬を討つ明確な理由がない。なので直接大泊瀬を殺しにいくほかないだろう」

市辺皇子には大泊瀬皇子ほどの権限や力は持ち合わせていない。それに今は葛城を頼るのも厳しい状況である。

「では方法はこれから考えるとする。だがその方法もお前達には教えられない。どこで情報が漏れるか分からないからな」

  この話が大泊瀬や他の大和の者の耳にでも入れば、自分は恐らく殺されてしまうだろう。

「はい、それで構いません。我々もここにはそれなりに覚悟をして参りました。もし何か協力できることがあればぜひおっしゃって下さい」

  市辺皇子と彼の前にいる者達は今同じ立場に立たされている。

「あぁ、分かった。では何かあればお願いする」

  それを聞いた訪問者たちは、その後「ではこれで失礼します」といって市辺皇子の元を後にした。


  それから市辺皇子は1人になると今回の件について考えを巡らせた。

「とりあえず大泊瀬が1人になった所で仕掛けるしかない。その方法に関してはこれから考えるとしよう」

  そして市辺皇子の脳裏にある人物の顔が浮かんだ。

(忍坂姫おしさかのひめ、あなたの息子を殺すことになって本当にすまない。だがこれも今後の大和のためだ)

  こうして市辺皇子の恐ろしい計画が始まることとなった。
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