56 / 78
56《阿佐津姫》
しおりを挟む
大泊瀬皇子は遠飛鳥宮の中を歩いていた。
まだ大王が決まってない中、大和の皇族と大臣達との協力で、今はこの国をまとめている。
今日は彼の母親である忍坂姫から、自分の部屋に来るよういわれていた。
「くそ、今のままでは母上の負担が多くなってしまう。もっとしっかりとした体制を整えていかなければ。
そうしないと、いずれ母上の無理がたたってしまうかもしれない」
大泊瀬皇子はそんな自身の母親のことを心配した。
今大王が不在の上に、大臣も変わったばかりだ。そう考えると葛城円の存在は本当に大きかった。
彼が今後の政り事をどうしていくべきか、あれこれと考えながら歩いていると、ようやく忍坂姫の部屋の前までくる。
(とりあえず、まずは母上の話を聞いてみよう)
大泊瀬皇子はそう思って、部屋の外から声をかけた。
「母上、大泊瀬です。中に入っても良いですか」
すると中にいた忍坂姫から返事が返ってくる。
「大泊瀬、やっと来たのね。良いからそのまま中に入ってきてちょうだい」
大泊瀬皇子は忍坂姫にそう言われたので、そのまま何も言わずに中に入っていく。
彼が中に入ると、忍坂姫とは別にもう一人女性がやってきていた。どうやらその2人は雑談をしていたようだ。
大泊瀬皇子は、もう一人の女性の顔を見る。
少しふわっとした髪を櫛等で優雅に纏めていて、顔立ちもとても整っている。そしてこの女性とは彼も面識があった。
「見覚えがあると思ったら、阿佐津姫か。どうしてこちらに?」
大泊瀬皇子はそう言いながら、2人の元にやってきた。
彼女は亡き瑞歯別大王の唯一の皇女で、今は物部の元へ嫁いでいる。
歳は大泊瀬皇子よりも10数歳年上だ。
そして大泊瀬皇子とは従姉同士の関係になる。
「今日久々に阿佐津姫が私の所に会いにきてくれたの。最近大和も色々と物騒なことが続いてるから、彼女も少し気にしていたみたい」
忍坂姫はそう大泊瀬皇子に説明する。
彼女は阿佐津姫との会話でかなり盛り上がっていたようで、とても機嫌が良い。
「本当にそうなの。それで叔母様の顔を見るために、物部の者に連れてきてもらったわ」
阿佐津姫は少し愉快そうにしながら、大泊瀬皇子につげる。
(この人はどうも上から目線で話しかけてくる所がある。見た目は割りと良いのだが、この性格はどうにかならないのか……)
彼は自身の事を全く棚に上げておきながら、そのように彼女の事を思っていた。
阿佐津姫はどうやら少し気の強い女性のようだ。
だが忍坂姫と彼女は割りと話しが合うようで、頻繁とはいかないがたまに会うと、いつもこうやって雑談等をして楽しんでいた。
「それで叔母様から聞いたけど。大泊瀬、あなた最近葛城の姫の元に通ってるそうね」
阿佐津姫はとても興味津々そうにして彼に聞いてきた。
それを聞いて大泊瀬皇子は思った。
今この2人がこれほど盛り上がっているのは、恐らく自分の話を話題にしていたのであろう。
「そうなの。これには本当に驚いたわ。だって、大泊瀬の恋がやっと報われたのだから」
忍坂姫も自身の息子のことではあるが、余りに面白いのか、少し笑いを堪えながらそう話す。
「と言うより母上、どうして阿佐津姫にそのことを話したのだ。まだこの件については、余り話さないで欲しいといったはずだが……」
大泊瀬皇子は少し苛立ちながらいった。
草香幡梭姫との婚姻の件もあるので、彼的には余り騒ぎ立てはしたくなかった。
だがその割りに、頻繁に韓媛の元に通っているので、少々説得力にかける所はある。
「まぁ、それは悪いとは思ってるわよ。ただ今日は、阿佐津姫と最近あったことを色々を話していたら、ついついその話しをするはめになってね……
でも私と阿佐津姫は気心しれた仲だから大丈夫よ。別に2人の邪魔をする気もさらさらないし」
忍坂姫は少し申し訳無さそうにしながらいった。
「そうよ大泊瀬。私も特に周りにいいふらすなんてことはしないから、安心して」
阿佐津姫もそう彼にいう。
だが余り悪びれてる感じには見えない。
大泊瀬皇子もそれを聞いて思わず肩を落とした。どのみちここまで話されていたのであれば、もうどうすることも出来ない。
ここは阿佐津姫の言葉を信じるほかないだろう。
それまで必死で笑いを堪えて話していた忍坂姫も、そんな彼を見て急に表情を変える。
「大泊瀬、前回の眉輪の件に関してあなたが起こした行動について、今回は目をつぶることにしました。亡くなった2人に関しても、抵抗しなければあなたが殺されていたのだから。
それに大王の暗殺を子供だからといって許していたのでは、また同じようなことが起きるかもしれない……」
忍坂姫からすれば、亡くなった2人の皇子と大泊瀬皇子、どちらも大事な自身の息子である。どちらが亡くなったとしてもきっと同じように彼女は涙を流して、酷く悲しんでいたはずだ。
「でも、あなたも今は大切な姫が出来た。そんな彼女を守るためにも、今後は余り無茶なことはしないでちょうだい」
大泊瀬皇子は母親である忍坂姫にそう言われて、思わず言葉が出なくなってしまった。
韓媛は絶対に自分が守って幸せにする。彼女の前でそう誓っていった。
それは彼女の父親を死なせてしまった償いと、そして彼女のことが他の誰よりも大切な存在だからだ。
まだ大王が決まってない中、大和の皇族と大臣達との協力で、今はこの国をまとめている。
今日は彼の母親である忍坂姫から、自分の部屋に来るよういわれていた。
「くそ、今のままでは母上の負担が多くなってしまう。もっとしっかりとした体制を整えていかなければ。
そうしないと、いずれ母上の無理がたたってしまうかもしれない」
大泊瀬皇子はそんな自身の母親のことを心配した。
今大王が不在の上に、大臣も変わったばかりだ。そう考えると葛城円の存在は本当に大きかった。
彼が今後の政り事をどうしていくべきか、あれこれと考えながら歩いていると、ようやく忍坂姫の部屋の前までくる。
(とりあえず、まずは母上の話を聞いてみよう)
大泊瀬皇子はそう思って、部屋の外から声をかけた。
「母上、大泊瀬です。中に入っても良いですか」
すると中にいた忍坂姫から返事が返ってくる。
「大泊瀬、やっと来たのね。良いからそのまま中に入ってきてちょうだい」
大泊瀬皇子は忍坂姫にそう言われたので、そのまま何も言わずに中に入っていく。
彼が中に入ると、忍坂姫とは別にもう一人女性がやってきていた。どうやらその2人は雑談をしていたようだ。
大泊瀬皇子は、もう一人の女性の顔を見る。
少しふわっとした髪を櫛等で優雅に纏めていて、顔立ちもとても整っている。そしてこの女性とは彼も面識があった。
「見覚えがあると思ったら、阿佐津姫か。どうしてこちらに?」
大泊瀬皇子はそう言いながら、2人の元にやってきた。
彼女は亡き瑞歯別大王の唯一の皇女で、今は物部の元へ嫁いでいる。
歳は大泊瀬皇子よりも10数歳年上だ。
そして大泊瀬皇子とは従姉同士の関係になる。
「今日久々に阿佐津姫が私の所に会いにきてくれたの。最近大和も色々と物騒なことが続いてるから、彼女も少し気にしていたみたい」
忍坂姫はそう大泊瀬皇子に説明する。
彼女は阿佐津姫との会話でかなり盛り上がっていたようで、とても機嫌が良い。
「本当にそうなの。それで叔母様の顔を見るために、物部の者に連れてきてもらったわ」
阿佐津姫は少し愉快そうにしながら、大泊瀬皇子につげる。
(この人はどうも上から目線で話しかけてくる所がある。見た目は割りと良いのだが、この性格はどうにかならないのか……)
彼は自身の事を全く棚に上げておきながら、そのように彼女の事を思っていた。
阿佐津姫はどうやら少し気の強い女性のようだ。
だが忍坂姫と彼女は割りと話しが合うようで、頻繁とはいかないがたまに会うと、いつもこうやって雑談等をして楽しんでいた。
「それで叔母様から聞いたけど。大泊瀬、あなた最近葛城の姫の元に通ってるそうね」
阿佐津姫はとても興味津々そうにして彼に聞いてきた。
それを聞いて大泊瀬皇子は思った。
今この2人がこれほど盛り上がっているのは、恐らく自分の話を話題にしていたのであろう。
「そうなの。これには本当に驚いたわ。だって、大泊瀬の恋がやっと報われたのだから」
忍坂姫も自身の息子のことではあるが、余りに面白いのか、少し笑いを堪えながらそう話す。
「と言うより母上、どうして阿佐津姫にそのことを話したのだ。まだこの件については、余り話さないで欲しいといったはずだが……」
大泊瀬皇子は少し苛立ちながらいった。
草香幡梭姫との婚姻の件もあるので、彼的には余り騒ぎ立てはしたくなかった。
だがその割りに、頻繁に韓媛の元に通っているので、少々説得力にかける所はある。
「まぁ、それは悪いとは思ってるわよ。ただ今日は、阿佐津姫と最近あったことを色々を話していたら、ついついその話しをするはめになってね……
でも私と阿佐津姫は気心しれた仲だから大丈夫よ。別に2人の邪魔をする気もさらさらないし」
忍坂姫は少し申し訳無さそうにしながらいった。
「そうよ大泊瀬。私も特に周りにいいふらすなんてことはしないから、安心して」
阿佐津姫もそう彼にいう。
だが余り悪びれてる感じには見えない。
大泊瀬皇子もそれを聞いて思わず肩を落とした。どのみちここまで話されていたのであれば、もうどうすることも出来ない。
ここは阿佐津姫の言葉を信じるほかないだろう。
それまで必死で笑いを堪えて話していた忍坂姫も、そんな彼を見て急に表情を変える。
「大泊瀬、前回の眉輪の件に関してあなたが起こした行動について、今回は目をつぶることにしました。亡くなった2人に関しても、抵抗しなければあなたが殺されていたのだから。
それに大王の暗殺を子供だからといって許していたのでは、また同じようなことが起きるかもしれない……」
忍坂姫からすれば、亡くなった2人の皇子と大泊瀬皇子、どちらも大事な自身の息子である。どちらが亡くなったとしてもきっと同じように彼女は涙を流して、酷く悲しんでいたはずだ。
「でも、あなたも今は大切な姫が出来た。そんな彼女を守るためにも、今後は余り無茶なことはしないでちょうだい」
大泊瀬皇子は母親である忍坂姫にそう言われて、思わず言葉が出なくなってしまった。
韓媛は絶対に自分が守って幸せにする。彼女の前でそう誓っていった。
それは彼女の父親を死なせてしまった償いと、そして彼女のことが他の誰よりも大切な存在だからだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる