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そんな忍坂姫の話を横で聞いていた阿佐津姫も、とても共感した感じで聞いていた。
「私もお母様が亡くなった時、お父様は私のことをとても心配していた。私はお母様の実家の吉備とは縁が薄く、とても頼れる様子ではなかったそう」
阿佐津姫は少し悲しそうな表情をしながら話した。あの強大な豪族吉備の血を引いていると言っても、彼女には何の繋がりも持ち合わせていない。
「そこでお父様は、物部筋の伊莒弗のお祖父様にお願いされたみたい。自分にもしものことがあったら、どうか娘を助けてやって欲しいと……」
阿佐津姫の話では、彼女の母親は物部伊莒弗の娘であった。なので唯一頼れたのが物部筋だったのだ。
「あの時はお母様が亡くなったこともあって、お父様も相当必死だったのでしょうね」
阿佐津姫はそう言うと少し涙目になる。
彼女は10代の時にたて続けに両親を亡くしている。それは当時の彼女にとっても酷く悲しい出来事だったはずだ。
それを聞いた大泊瀬皇子は、阿佐津姫のいいたいことを理解し、静かに口を開いていった。
「もちろん、俺もそう簡単に命を粗末にするつもりはない」
大泊瀬皇子は阿佐津姫の話しがまるで自分のことのように感じられた。韓媛が自身の父親を失った時に自分に見せた表情は、一生忘れることはできないだろう。
大泊瀬皇子がそういうと、部屋の中は一瞬とても重たい空気に包まれた。
すると忍坂姫は、その空気を壊すかのようにしていった。
「はい、この話はもうここまでにしましょう!大泊瀬、あなたはとにかく韓媛を大事にしなさい。要はそれがいいたかったの」
忍坂姫はわざと明るくして2人にそういった。もう亡くなってしまった人達のことを悔やんでも仕方ない。彼女はきっとそういいたかったのだろう。
そして忍坂姫は急に話しを変えるようにして、別の話しを始めることにした。
「ねぇ、最近良くないことばかり続いていたことだし、少し気分転換してみない?」
「え、気分転換ですか?」
阿佐津姫は忍坂姫にそういわれて、少し不思議そうな顔をする。
「そう、私は子供の頃ずっと息長に住んでいたのだけど、久々に息長に帰ってみようかと思ってね。
それに近くでは狩りも出来るから、大泊瀬、あなたは誰かを誘ってそっちに行ったら良いわ」
それを聞いて大泊瀬皇子は思った。どうやら忍坂姫は、自分も息長に同行させようと考えているようだ。
「あら、叔母様。それは楽しそうですね。私は息長には行ったことがないので、私も是非行ってみたいわ……あ、それなら大泊瀬、あなたは韓媛も誘ってみたらどう?」
「はぁ!?」
大泊瀬皇子は思わず、叫んでいった。
「私は彼女とは会ったことがないから一度見てみたいわ。あなたがここまでのめり込んだ相手なのだから」
阿佐津姫はそういって急にニヤニヤし出した。どうやら彼女は韓媛に興味があるようだ。
(どうして、韓媛をこんなことのために誘わないといけないんだ……)
大泊瀬皇子は明らかに嫌そうな表情をして見せた。
「あぁ、それは良いわね。大泊瀬、是非そうしなさいよ。私も韓媛とは一度じっくり話してみたいと思っていたの。それにあなたが相手となると、彼女も色々と気苦労を抱えてるかもしれないし……」
忍坂姫も阿佐津姫に同調してそういった。
だが大泊瀬皇子はそれに対して、少し異議をとなえる。
「そんなことをしたら、むしろ韓媛の方が、母上達に対して気を遣わせて大変だ」
それを聞いた忍坂姫は思わず腹を立てる。そして彼に怒鳴り声を上げていった。
「大泊瀬、あなた母親に向かってなんて口の聞き方をするのよ!!あなたがそんなだから韓媛が心配になるのでしょう!!
もう良いから、つべこべいわずに彼女を誘いなさい。これは私の命令です!!」
大泊瀬皇子もそんな母親の気迫に思わず怖じけついてしまう。
ここまで彼女にいわれてしまうと、彼もよう逆らうことが出来ない。
(しまった。うっかり母上を怒らせてしまったようだ。これはもう諦めるしかないか……)
大泊瀬皇子は韓媛に対して心の中で詫びた。こうなってしまっては韓媛を誘わないと、母親の機嫌はとても収まりそうにない。
「はぁー仕方ない……では韓媛に声をかけてみる。母上それで良いのだな」
大泊瀬皇子は少しため息をついていった。
自身の夫である雄朝津間大王が亡くなったと言うのに、どうして彼女はこんなにも元気なのかと彼は少し呆れた。
と言うより、女性とは元々こういう生き物なのだろうか。
「でも、叔母様。それなら狩りは誰を誘うべきかしら。大泊瀬の周りにそんな気軽に誘える人がいるようには思えないわ」
阿佐津姫は横から話しかけてきた。阿佐津姫から見ると大泊瀬皇子は従弟になるが、彼女も彼が昔かなりの問題児だったことは知っている。
「そうよね、誰が良いかしら……あ、そうだわ。大泊瀬と阿佐津姫がいるのだし、誘うのは市辺皇子にしましょう!!」
忍坂姫はふと閃いていった。
「はぁ、市辺皇子!!」
大泊瀬皇子と阿佐津姫は途端に酷く嫌そうな表情をして叫んだ。
市辺皇子の父親と、大泊瀬皇子や阿佐津姫の父親は兄弟になる。よってこの2人と市辺皇子も従兄同士の関係だ。
「あら、良いじゃない。昔から知っている仲なのだから。いい加減大人になりなさい2人とも」
忍坂姫は何ら悪気もなく2人にそういった。彼女からしてみれば市辺皇子は自身の甥で、昔長らく一緒に住んでいた。
また彼は、そんな彼女の大のお気に入りの青年でもある。
大泊瀬皇子と阿佐津姫は一瞬互いに顔を見合わせた。そしてこれはどうしようもないといった表情を見せる。
(これはきっと母上が考えた配慮なのだろう……こうやって交流を図ることで、互いのわだかまりをなくすために。だが市辺皇子と仲良くするなど俺には到底無理な話だ)
「私もお母様が亡くなった時、お父様は私のことをとても心配していた。私はお母様の実家の吉備とは縁が薄く、とても頼れる様子ではなかったそう」
阿佐津姫は少し悲しそうな表情をしながら話した。あの強大な豪族吉備の血を引いていると言っても、彼女には何の繋がりも持ち合わせていない。
「そこでお父様は、物部筋の伊莒弗のお祖父様にお願いされたみたい。自分にもしものことがあったら、どうか娘を助けてやって欲しいと……」
阿佐津姫の話では、彼女の母親は物部伊莒弗の娘であった。なので唯一頼れたのが物部筋だったのだ。
「あの時はお母様が亡くなったこともあって、お父様も相当必死だったのでしょうね」
阿佐津姫はそう言うと少し涙目になる。
彼女は10代の時にたて続けに両親を亡くしている。それは当時の彼女にとっても酷く悲しい出来事だったはずだ。
それを聞いた大泊瀬皇子は、阿佐津姫のいいたいことを理解し、静かに口を開いていった。
「もちろん、俺もそう簡単に命を粗末にするつもりはない」
大泊瀬皇子は阿佐津姫の話しがまるで自分のことのように感じられた。韓媛が自身の父親を失った時に自分に見せた表情は、一生忘れることはできないだろう。
大泊瀬皇子がそういうと、部屋の中は一瞬とても重たい空気に包まれた。
すると忍坂姫は、その空気を壊すかのようにしていった。
「はい、この話はもうここまでにしましょう!大泊瀬、あなたはとにかく韓媛を大事にしなさい。要はそれがいいたかったの」
忍坂姫はわざと明るくして2人にそういった。もう亡くなってしまった人達のことを悔やんでも仕方ない。彼女はきっとそういいたかったのだろう。
そして忍坂姫は急に話しを変えるようにして、別の話しを始めることにした。
「ねぇ、最近良くないことばかり続いていたことだし、少し気分転換してみない?」
「え、気分転換ですか?」
阿佐津姫は忍坂姫にそういわれて、少し不思議そうな顔をする。
「そう、私は子供の頃ずっと息長に住んでいたのだけど、久々に息長に帰ってみようかと思ってね。
それに近くでは狩りも出来るから、大泊瀬、あなたは誰かを誘ってそっちに行ったら良いわ」
それを聞いて大泊瀬皇子は思った。どうやら忍坂姫は、自分も息長に同行させようと考えているようだ。
「あら、叔母様。それは楽しそうですね。私は息長には行ったことがないので、私も是非行ってみたいわ……あ、それなら大泊瀬、あなたは韓媛も誘ってみたらどう?」
「はぁ!?」
大泊瀬皇子は思わず、叫んでいった。
「私は彼女とは会ったことがないから一度見てみたいわ。あなたがここまでのめり込んだ相手なのだから」
阿佐津姫はそういって急にニヤニヤし出した。どうやら彼女は韓媛に興味があるようだ。
(どうして、韓媛をこんなことのために誘わないといけないんだ……)
大泊瀬皇子は明らかに嫌そうな表情をして見せた。
「あぁ、それは良いわね。大泊瀬、是非そうしなさいよ。私も韓媛とは一度じっくり話してみたいと思っていたの。それにあなたが相手となると、彼女も色々と気苦労を抱えてるかもしれないし……」
忍坂姫も阿佐津姫に同調してそういった。
だが大泊瀬皇子はそれに対して、少し異議をとなえる。
「そんなことをしたら、むしろ韓媛の方が、母上達に対して気を遣わせて大変だ」
それを聞いた忍坂姫は思わず腹を立てる。そして彼に怒鳴り声を上げていった。
「大泊瀬、あなた母親に向かってなんて口の聞き方をするのよ!!あなたがそんなだから韓媛が心配になるのでしょう!!
もう良いから、つべこべいわずに彼女を誘いなさい。これは私の命令です!!」
大泊瀬皇子もそんな母親の気迫に思わず怖じけついてしまう。
ここまで彼女にいわれてしまうと、彼もよう逆らうことが出来ない。
(しまった。うっかり母上を怒らせてしまったようだ。これはもう諦めるしかないか……)
大泊瀬皇子は韓媛に対して心の中で詫びた。こうなってしまっては韓媛を誘わないと、母親の機嫌はとても収まりそうにない。
「はぁー仕方ない……では韓媛に声をかけてみる。母上それで良いのだな」
大泊瀬皇子は少しため息をついていった。
自身の夫である雄朝津間大王が亡くなったと言うのに、どうして彼女はこんなにも元気なのかと彼は少し呆れた。
と言うより、女性とは元々こういう生き物なのだろうか。
「でも、叔母様。それなら狩りは誰を誘うべきかしら。大泊瀬の周りにそんな気軽に誘える人がいるようには思えないわ」
阿佐津姫は横から話しかけてきた。阿佐津姫から見ると大泊瀬皇子は従弟になるが、彼女も彼が昔かなりの問題児だったことは知っている。
「そうよね、誰が良いかしら……あ、そうだわ。大泊瀬と阿佐津姫がいるのだし、誘うのは市辺皇子にしましょう!!」
忍坂姫はふと閃いていった。
「はぁ、市辺皇子!!」
大泊瀬皇子と阿佐津姫は途端に酷く嫌そうな表情をして叫んだ。
市辺皇子の父親と、大泊瀬皇子や阿佐津姫の父親は兄弟になる。よってこの2人と市辺皇子も従兄同士の関係だ。
「あら、良いじゃない。昔から知っている仲なのだから。いい加減大人になりなさい2人とも」
忍坂姫は何ら悪気もなく2人にそういった。彼女からしてみれば市辺皇子は自身の甥で、昔長らく一緒に住んでいた。
また彼は、そんな彼女の大のお気に入りの青年でもある。
大泊瀬皇子と阿佐津姫は一瞬互いに顔を見合わせた。そしてこれはどうしようもないといった表情を見せる。
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