大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

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66《韓媛の不安》

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  その頃、韓媛からひめ達は大泊瀬皇子おおはつせのおうじ達が帰って来るのを今か今かと待っていた。

  狩りは早朝に出掛けていったので、恐らくお昼過ぎ頃までには帰って来るだろう。

  そうして彼女らが待っていると、何故か大泊瀬皇子と市辺皇子いちのへのおうじの従者達だけが先に帰ってくるのが見えた。

  何かあったのかと気になり、忍坂姫おしさかのひめが帰ってきた従者に訪ねた。
  彼らの話しによれば、どうやら2人の皇子とははぐれてしまったとのこと。

  だが市辺皇子の従者曰く、2人は一緒に行動しているのと、2人とも山での狩りは慣れているので、問題はないとのことだった。

  それを聞いた忍坂姫は、とりあえず2人の皇子はもう暫く様子を見てみようと話す。

  だが韓媛はあの仲の悪い2人がずっと一緒に行動して大丈夫なのかと、少し心配になる。

(あの2人本当に大丈夫なのかしら……)

  韓媛がそんな心配をしながら外を歩いていると、数名の男達の話し声がきこえてきた。

「あれは市辺皇子の従者の人達だわ?」

  韓媛は思わず気になって、彼らの会話を盗み聞きする。

「とりあえず、今は市辺皇子が大泊瀬皇子を無事始末することを願うしかない。我々まで行ってしまったら、怪しまれてしまうからな」

  1人の男が他の男達にそう話す。

「そうだな大泊瀬皇子と市辺皇子を一緒のままにして、怪しまれずにここまで戻ってくるのだけで精一杯だった」

  どうやら彼らは大泊瀬皇子と市辺皇子の話をしているようだ。

  だがこの内容からして、大泊瀬皇子の暗殺が計画されていたことを韓媛は初めて知ることとなった。

(何ですって、市辺皇子が大泊瀬皇子を殺そうとしている……)

  韓媛は彼らの話しを聞いて、余りのことに頭が真っ青になる。そして体をぶるぶると震わせた。

  大泊瀬皇子の暗殺など絶対に止めさせないといけない。


  韓媛は震える体を必死で抑えて、彼らに気付かれないようにして、そっとその場を離れた。

(ほ、本当に何とかしないと)

  そして暫く離れた場所までくると、韓媛はまず大泊瀬皇子の災いを消せないかと思い、剣を取り出して祈ってみることにした。
  今2人がどこにいるかも分からない状況では、直ぐに大泊瀬皇子を助けることが出来ない。

「お願い、大泊瀬皇子の災いを絶ちきって!!」

  韓媛は目をつぶって、剣に祈りを込める。

  すると彼女の脳裏に不思議な光景が見えてきた。これは恐らく山の中なのであろう、市辺皇子と大泊瀬皇子が剣をぶつけ合っていた。

  2人からはかなりの気迫が伝わってくる。2人とも本気で相手を倒そうとしてるようだ。

  辺りの景色を見る限り、2人はそこまで高い位置にはおらず、横に小さな湧き水が流れている。

「早く、何とかしないと2人のどちらかが死んでしまうわ……」

  そしてさらに祈っていると、大泊瀬皇子と市辺皇子の間に糸のようなものがあり、それが2人の間で繋がっている。

(これを切れば良いのね)

  韓媛がそう思って剣を振ろうかと思った丁度その時、何故か彼らの横にもう1人女性が現れた。それはなんと阿佐津姫だった。

  何故2人の皇子の横に阿佐津姫あさつひめが出てくるのか分からなかったが、もしかすると今回の大泊瀬皇子達の災いを断ち切るには、彼女が必要なのかもしれない。

「どうして阿佐津姫が出てくるの……でもここに出てくるということは、きっと何か意味があるのだわ。とりあえずこの糸をまずは切らないと」

  韓媛はそういってから、2人の皇子に絡みついた糸を切るため、剣を振りかざした。

  すると『プチンッ』と音のようなものが聞こえて、糸は無事に切れたようだ。

(良かった糸は何とか切れたわ……)

  韓媛がそう思った瞬間にその光景はどんどんと消えていき、彼女が目を開けると先ほどの場所に立っていた。


「災いの糸が切れたとはいえ、安心は出来ない……それに湧き水が流れていたから、そこを見つけて向かっていくのが早いはず」

  韓媛はこれまでの経験から、きっとこの剣が自分を2人の皇子のいる所まで導いてくれると信じていた。

(今はこの剣を信じるしかない)

  とりあえず今は全く猶予がない状況だ。急いで2人の皇子の元に急がないといけない。

「あと、阿佐津姫にも一緒に来てもらわないと。理由は分からないけど、彼女が2人をとめるきっかけを作ってくれるのかもしれない」

  韓媛はそう思うと、急いで阿佐津姫の元に走り出した。

  幸い阿佐津姫は直ぐに見つかり、彼女のとなりには忍坂姫もいた。

  韓媛はもうこれは仕方ないと考え、忍坂姫も一緒にいる中で話をすることにした。

「皇后様、阿佐津姫、大変なことになりました!」

  忍坂姫と阿佐津姫は韓媛が凄い慌ててやってきたので、2人とも一体何事かと少し驚いた表情を見せる。

「韓媛、一体そんなに慌ててどうかしたの」

  忍坂姫は韓媛にふと尋ねた。

「実は先ほど市辺皇子の従者の人達の話しを聞いて、今回市辺皇子は大泊瀬皇子を殺そうと計画していたようです。
  それで狩りの途中で2人だけになるように仕向けたみたいで……とにかく早く何とかしないと大泊瀬皇子と市辺皇子のどちらかが死んでしまいます!」

  それを聞いた忍坂姫と阿佐津姫も、みるみる表情を強ばらせていった。

「な、何ですって!韓媛、それは本当なの」

  阿佐津姫がいきなり血相を変えて韓媛にいいよった。

「ほ、本当です。そこで阿佐津姫にお願いがあります。私が馬に乗って一緒に向かうので、市辺皇子を止めて貰えませんか」

  阿佐津姫はなぜ自分なのかと、少し疑問に思った。

「確かに馬には、2人乗るのが限界だわ。それなら私よりも阿佐津姫の方が若いから良いかもしれない。
  私は他の者と後から一緒に向かうわ。それに他の従者達にも指示を出しておかないといけないし」

  忍坂姫は自分が皇后と言う立場のことも考えて、少し冷静に考えてるようだ。

  韓媛としても、今は阿佐津姫に一緒に来てもらうことが絶対に必要だったので、その辺りの事情はこの際気にしないことにした。

「では、阿佐津姫。急いで行きましょう!!」

  阿佐津姫は何が何だかといった感じだが、2人の従兄弟達の命に関わることなので、ここはおとなしく韓媛のいうことに従った。

「でも韓媛、2人がいる場所は分かってるの?」

「はい、湧き水が流れている場所の近くにいるようなので、そこを頼りに進もうと思ってます」

  それを聞いた阿佐津姫は「分かったわ」と一言だけいって韓媛についていくことにした。
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