さかなのみるゆめ

ruki

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それは何の涙だったのか。僕にも分からなかった。
とにかくあの日以来初めて智明の姿が見れて、僕は謝らずにはいられなかった。止まらない涙で顔をグシャグシャにしながら、僕はずっと『ごめんね』と呟き続けてた。
だけど智明は、そんな僕の傍に来て涙を拭ってくれた。

『佐奈、泣かないで。僕は今日、佐奈にお願いがあって来たんだ』

上体を起こしてベッドに座っていた僕の横に腰を下ろし、智明は僕の目を見た。

『佐奈。佐奈のこれからの人生を、僕と一緒に歩んで欲しい。僕を佐奈の傍にいさせてくれ』

少し緊張したような面持ちで、そう告げる智明の言葉の意味がよく分からない。

人生を一緒に歩む?それじゃまるでプロポーズみたいだ。

あまりに突拍子もない事を言われて涙も止まり、その言葉の意味をもう一度考える。

やっぱりプロポーズだよね?

だとしたら、僕はその言葉を受ける資格があるのだろうか・・・?

だけどそんな事を考えながらも、僕は無意識に頷いていた。
なぜだか分からない。本当だったら断るべきだったのだと思う。だって、僕は智明にあんなことをしてしまったのだら。だけど、智明の言葉から僕に対する怒りは感じられず、むしろ好意すら感じてしまって、僕の不安な心がそんな智明にすがってしまったのだと思う。

僕は再び流れ出した涙もそのままに何度も頷いた。そんな僕に微笑んで、智明がまた涙を拭ってくれる。

この時僕が冷静であったなら、それが智明の本心だったのか、それとも親たちに言われて従っただけなのか考えたと思う。でもこの時の僕はそんなことを思う余裕もないくらい不安で、心が疲れていた。僕はただただ言葉の通りを受け取り、嬉しさと安堵で涙が止まらなかった。

だけど僕たちがそう決めても、僕の両親はいい顔をしなかった。
なんと言ってもまだ15才。親から見たらまだまだ子供だ。こんなに早く将来を決めてしまっても、いつ気が変わるか分からない。もし後になって気が変わったり、誰か別の人を好きになってしまったら、その時はどうするのか。

アルファの智明はいい。アルファと言うだけで、いくつになっても仕事や人間関係、そしてパートナーには困らないだろう。だけど、オメガの僕は、きっとそこからの再スタートは難しい。なぜなら僕はもう子供が産めないからだ。子供を産めないオメガなんて、ただの淫乱な生き物だ。それに加え高校受験にも失敗し、学歴も持たない。そんな僕が人生の途中で智明から見捨てられてしまったら、ただでさえ身も心も傷ついた僕はさらに傷つき、その先どうなってしまうのか・・・。

親としては、僕の人生を見ることは厭わないと思う。おそらく智明からこんな申し出がなかったら、当然そうするつもりだったのだろう。だけど、心の傷はいくら親でもどうすることも出来ない。もう既に傷だらけの息子がさらに傷つくかもしれないと思うと、容易に承諾できなかったのだと思う。

だけど、どんな話し合いがあったのか、僕が退院する頃には僕と智明の事は許され、僕達は一緒に住むことになった。

こうして僕達は、新年度を二人でスタートさせた。

もともと僕と智明の家はさほど離れていない。だけど、僕のことを考えた親たちは少し離れた場所に新居を用意してくれた。僕達を知る人がいない街の方がいいと配慮してくれたのだ。

まだ高校生なのだから、と思うかもしれないけれど、アルファとオメガの間ではどうしても発情期が入ってくる。この二性の場合、清いお付き合いはありえないのだ。そのため、どんな若いカップルの場合でもパートナーになったら親から独立するのが一般的だった。

そうやって僕達は二人で生活をし始めた。

智明は僕の心配をよそにちゃんと志望校に受かり、晴れて高校生になった。だけど僕は、高校を受け直すことも無く、家にいることになった。

身体がまだ本調子でないこともあるけど、心が酷く疲れてしまったのだ。あまりにも色々なことが起きすぎて、外に出るのが怖い。あの受験の日も結局は失敗した上に、救急車で運ばれてしまった。

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