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あまりにあっけらかんと言うので、僕の方が何も言えなくなってしまう。
「なんの問題もないよ」
にっこり笑ってそう言うけど、それでも僕はまだ、智明への思いを断ち切れていない。
智明の顔が頭に浮かんでくる。
困ってしまって下を向いた僕の頭を、木佐さんがそっと撫でてくれる。
「ごめん。困らせる気はないんだ。僕ももう少し時間をかけて君の心に近づきたいと思ってたんだけど、この子の存在を知ったら、もっと傍で助けてあげたくなったんだ」
木佐さんは少し遠慮がちに僕のお腹にそっと手をあてた。
「今日の様子を見ると悪阻が酷そうだし、だけど君は一人暮らしで傍には親しい人がいないみたいだし・・・僕が君の傍で支えてあげたいんだ」
僕の傍で・・・。
智明も、同じことを言った。
「どんな事情で君が一人なのかは分からないけど、君はまだ、この子の父親が好きなんだね」
その言葉に、僕は木佐さんを見る。
「でもね。僕は君が好きだよ。本気でパートナーになって欲しいと思うし、この子の父親になりたいと思ってる」
『好きだよ』
その言葉を言ってもらうのを、僕はずっと待ってた。ずっと待ってたけど・・・。
僕の目から涙が零れた。
この人は智明じゃない・・・。
「この涙は、僕に告白されてのうれし涙じゃないね」
そう言うと木佐さんは僕の涙を指で掬った。
「あなたは、僕が欲しくて仕方がなかった言葉をいとも容易く言うんですね」
10年かかっても言ってもらえなかったその言葉を・・・。
「簡単じゃないよ。これでも恥ずかしいくらい必死なのさ」
その余裕の笑顔のどこが必死なのか。
「これでもね、僕はもてたから恋人を切らしたことは無いんだよ。いつもそれなりに相手を好きになって、大事にしてきたつもりだ。でも、君に初めて会った時、僕の中で何かが起こったんだ。目が離せなかった。君のことは何も知らないのに、直感・・・というか、なんだろうね?僕にも説明できないけど、とにかく君は特別だった。君の経歴もデザインも見る前に、採用を決めてしまったくらいにね」
僕が木佐さんと初めて会ったのは会社の面接のときだ。その場で採用されたけど、そんなことを思われていたなんて・・・。
「君自身に惹かれて、そのあと見た君のデザインにも惚れた。君のデザインはとても良い。これは僕だけじゃなくて、社内みんなの意見も一致しているから、君を採用したのは僕だけの私見だけじゃないから安心してね」
茶目っ気たっぷりにそう笑うと、木佐さんはまた僕の頭を撫でた。その時、また涙が流れる。あまりにも止まらない涙に、木佐さんはハンカチを取り出して僕の頬を拭ってくれる。
「妊娠すると、涙脆くなるらしいよ」
そう言って丁寧に頬を拭いてくれると、そのまま目元にハンカチを当ててくれる。
今日泣いてばかりいるのは妊娠のせい?悪阻もだけど、こんなに突然?今日急に?涙脆くなって、ピザまんも食べられなくなっちゃうの?
「・・・ピザまん好きなのに・・・」
あの匂いを思い出して、また胸のむかつきが強くなる。
今日は朝から特に変わった日じゃなかった。
朝起きて、仕事に行ってお昼食べて、午後も普通に仕事して、そろそろ帰ろうかと言う時に残業を引き受けて、そして差し入れのピザまんを食べようとして・・・。
「僕は肉まんもピザまんも好きです。なのに食べられない」
胸のむかつきに口を手で押さえる。
すると、少し笑いを含んだ声が聞こえる。
「あれ?僕のために肉まんを取って置いてくれたんじゃないの?」
その言葉に横を向くと、目からハンカチが離れた。
ふわりと目を細めて笑う木佐さんの顔に、智明の笑顔が重なる。
やっぱり僕は智明が好きなんだ。
「ごめんなさい。僕は木佐さんの思いに応えられません」
笑顔の木佐さんに申し訳なくて、僕は視線を外して下を向いた。
「両方食べればいいよ」
「え?」
僕は木佐さんを見た。相変わらず笑ってる。
「肉まんもピザまんも好きなら両方食べたらいい。君は僕のこと嫌い?」
木佐さんを嫌い?
「いえ、嫌いじゃないです。好きです」
「じゃあ、両方食べちゃえばいいよ。お腹の子の父親も好き。僕のことも好き。両方好きでいいんじゃない?」
その突拍子も無い言葉に、僕はぽかんとしてしまった。
「なんの問題もないよ」
にっこり笑ってそう言うけど、それでも僕はまだ、智明への思いを断ち切れていない。
智明の顔が頭に浮かんでくる。
困ってしまって下を向いた僕の頭を、木佐さんがそっと撫でてくれる。
「ごめん。困らせる気はないんだ。僕ももう少し時間をかけて君の心に近づきたいと思ってたんだけど、この子の存在を知ったら、もっと傍で助けてあげたくなったんだ」
木佐さんは少し遠慮がちに僕のお腹にそっと手をあてた。
「今日の様子を見ると悪阻が酷そうだし、だけど君は一人暮らしで傍には親しい人がいないみたいだし・・・僕が君の傍で支えてあげたいんだ」
僕の傍で・・・。
智明も、同じことを言った。
「どんな事情で君が一人なのかは分からないけど、君はまだ、この子の父親が好きなんだね」
その言葉に、僕は木佐さんを見る。
「でもね。僕は君が好きだよ。本気でパートナーになって欲しいと思うし、この子の父親になりたいと思ってる」
『好きだよ』
その言葉を言ってもらうのを、僕はずっと待ってた。ずっと待ってたけど・・・。
僕の目から涙が零れた。
この人は智明じゃない・・・。
「この涙は、僕に告白されてのうれし涙じゃないね」
そう言うと木佐さんは僕の涙を指で掬った。
「あなたは、僕が欲しくて仕方がなかった言葉をいとも容易く言うんですね」
10年かかっても言ってもらえなかったその言葉を・・・。
「簡単じゃないよ。これでも恥ずかしいくらい必死なのさ」
その余裕の笑顔のどこが必死なのか。
「これでもね、僕はもてたから恋人を切らしたことは無いんだよ。いつもそれなりに相手を好きになって、大事にしてきたつもりだ。でも、君に初めて会った時、僕の中で何かが起こったんだ。目が離せなかった。君のことは何も知らないのに、直感・・・というか、なんだろうね?僕にも説明できないけど、とにかく君は特別だった。君の経歴もデザインも見る前に、採用を決めてしまったくらいにね」
僕が木佐さんと初めて会ったのは会社の面接のときだ。その場で採用されたけど、そんなことを思われていたなんて・・・。
「君自身に惹かれて、そのあと見た君のデザインにも惚れた。君のデザインはとても良い。これは僕だけじゃなくて、社内みんなの意見も一致しているから、君を採用したのは僕だけの私見だけじゃないから安心してね」
茶目っ気たっぷりにそう笑うと、木佐さんはまた僕の頭を撫でた。その時、また涙が流れる。あまりにも止まらない涙に、木佐さんはハンカチを取り出して僕の頬を拭ってくれる。
「妊娠すると、涙脆くなるらしいよ」
そう言って丁寧に頬を拭いてくれると、そのまま目元にハンカチを当ててくれる。
今日泣いてばかりいるのは妊娠のせい?悪阻もだけど、こんなに突然?今日急に?涙脆くなって、ピザまんも食べられなくなっちゃうの?
「・・・ピザまん好きなのに・・・」
あの匂いを思い出して、また胸のむかつきが強くなる。
今日は朝から特に変わった日じゃなかった。
朝起きて、仕事に行ってお昼食べて、午後も普通に仕事して、そろそろ帰ろうかと言う時に残業を引き受けて、そして差し入れのピザまんを食べようとして・・・。
「僕は肉まんもピザまんも好きです。なのに食べられない」
胸のむかつきに口を手で押さえる。
すると、少し笑いを含んだ声が聞こえる。
「あれ?僕のために肉まんを取って置いてくれたんじゃないの?」
その言葉に横を向くと、目からハンカチが離れた。
ふわりと目を細めて笑う木佐さんの顔に、智明の笑顔が重なる。
やっぱり僕は智明が好きなんだ。
「ごめんなさい。僕は木佐さんの思いに応えられません」
笑顔の木佐さんに申し訳なくて、僕は視線を外して下を向いた。
「両方食べればいいよ」
「え?」
僕は木佐さんを見た。相変わらず笑ってる。
「肉まんもピザまんも好きなら両方食べたらいい。君は僕のこと嫌い?」
木佐さんを嫌い?
「いえ、嫌いじゃないです。好きです」
「じゃあ、両方食べちゃえばいいよ。お腹の子の父親も好き。僕のことも好き。両方好きでいいんじゃない?」
その突拍子も無い言葉に、僕はぽかんとしてしまった。
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