さかなのみるゆめ

ruki

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その後内診を終えると再び問診に戻り、妊娠初期の話をしてくれた。それから母(父)子手帳を取りに行くこととかの事務的な話と、今後の診察の流れ、それから最後にエコー写真をくれた。そこには黒い歪な楕円の中に白い小さな丸いものが写っている。

「この黒いのが子宮で、白いのが赤ちゃんだよ」

医師の説明に僕の目からはまた涙が零れた。

本当に赤ちゃんがいるんだ。

そんな僕に医師は真剣な顔になった。

「水森くん。確かに君は今妊娠している。だけど、これで君の身体が普通に妊娠できる身体に戻ったのかと言うと、そうではないんだ。だから・・・」

とても言い難そうに言う医師に僕は微笑んだ。

「分かってます。この子だけかもしれないんですよね。でも僕にとってはこの子だけでも奇跡なんです。だから大丈夫です。この子がいればそれ以上は望みません」

僕はお腹に手をあてる。
僕に限らず、普通の妊婦(夫)さんでも流産の可能はある。だから、このお腹に宿ってくれたとしても、無事に産まれてきてくれるとは限らない。だけど・・・。

「この子が無事に産まれてくれるように頑張ります」

絶対にこのお腹で大きくする。そして無事に産みたい。

「そうだね。一緒に頑張ろう。それにパートナーもしっかりした人だし、安心だね。診察日に関係なく少しでも何かおかしなことがあったら、今日みたいにここにおいで。僕は大抵いるから」

そう優しい言葉をかけてくれるけど・・・。

パートナー?

その言葉に一瞬言葉が詰まる。すると横から声がする。

「実はまだパートナーじゃないんですよ、医師。これから申し込もうと思ってるんです。もちろん子供の父親にも立候補するつもりです」

驚いて横を見ると微笑みながら、けれど真剣な眼差しで木佐さんが僕を見ている。

「あれ?そうなの?僕余計なこと言っちゃったかな?」

そんな僕達に申し訳なさそうな医師の声。

「いえ、大丈夫ですよ。却って僕も言いやすくなりました」

木佐さんは別に困る風もなくそう答え、今日の診察は終わった。

本当だったらこのあと会計なんだけど、今日は誰もいないから後日来てもらえる?と医師に言われ、僕達はそのまま帰ることになった。

そう言えば尿検査や母(父)子手帳の話なんかは普通は医師がしたりしない。もしかして、今日は休診日で誰もいなかったから医師自らやってくれたのかな?
そう思うとなんだか申し訳ない。医師は何かあったらいつでもおいで、と言ってくれたけど、なるべく休診日は来ないようにしようと思った。

そんなことを思っていると、突然木佐さんが僕に声をかけた。

「妊娠おめでとう」

その急な言葉に僕は驚きつつ、お礼を言った。

「ありがとうございます」

本当に僕、妊娠したんだ。ここに赤ちゃんがいるんだね。

なんだか、ふわふわぽかぽかした気持ちで心が満たされる。絶対に出来ないと言われた赤ちゃん。
僕はうれしくなってお腹を撫でる。

すると車は僕のマンションに着いた。

「水森くん、少し話していい?」

当然このままお礼を言って帰ろうとした僕を、木佐さんが引き止める。そんな木佐さんに、僕はシートベルトを外してドアにかけた手を戻し、身体を木佐さんに向ける。

「さっき話してたことだけど」

木佐さんが柔らかく目を細めながら言うのを、僕は黙って聞く。

「パートナーの話、僕は本気なんだ。僕とパートナーになってくれないかな?」

さっき突然出たパートナーの話。その場のジョークかと思ったけど・・・いや、思いたかったけど、この木佐さんの真剣さに触れるとやっぱり本気の話みたい。

「木佐さん。さっきの医師との話、聞いてましたよね?」

「聞いてたよ」

「だったら、分かってるはずです。僕は子供ができません」

今回のは奇跡。これから先は望めない。なのに、木佐さんはその僕の言葉にきょとんとする。

「子供なら今お腹にいるだろ?」

と、僕のお腹を指さす。

「この子は・・・いや、違いますよ。僕はあなたの子が産めないと言ってるんです」

「だから?」

「え?」

「今お腹にいる子の父親になるんじゃダメなのかい?」

きょとんとしたままそう言う。

「だって・・・この子はあなたの子じゃないですよ」

「もちろん」

「この子の父親は気にならないんですか?」

その言葉になんでもない事のように首を傾げる。

「どうして?君の子だろ?」

確かに僕の子だけど・・・あれ?僕の方がおかしなこと言ってるの?

「産まれてきた子が父親似だったらどうするんですか?」

そっくりだったら?

「僕はその人を知らないから、似てるも何も分からないよ?」
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