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「多分あの時、とてつもない恐怖に襲われた佐奈は、自分の心を守るためにその時の記憶を消したんだ。だけどそれは、佐奈の心に深い傷を残し、同じシチュエーションになる度にフラッシュバックを起こしてしまったのだと思う」
ショックだった。
僕のことなのに、僕は全然自分の事を分かってなかった。
僕の心にはそんな傷があるなんて、知らなかった。
「佐奈は少しずつ心を開いてくれて、僕に笑顔を向けてくれるようになってきた。だけどその笑顔も、あの時を覚えてないからだ。もしあの時を思い出してしまったら、この笑顔は消えて僕の傍からいなくなってしまう」
苦しげに話す智明に、僕は何も言えなかった。いつも柔らかい笑顔で僕を見守ってくれていた智明の心が、こんなにも怯えていたなんて・・・。
「佐奈がフラッシュバックを起こすのはいつも意識のない時だった。それがもし、意識のある時に起こったら、そしてあの時のことを思い出してしまったら・・・」
僕に必要以上に近づかなかったのも、いつも変わらず笑顔でいたのも、少しでも僕が怯えてしまったら、それが引き金になってフラッシュバックを起こしてしまうかもしれない。そう思って智明はずっと変わらぬ笑顔で同じ距離を保っていた。
クリスマスを一度も祝わなかったのも、この日が僕たちの始まりの日だからだ。あの日あの時を迎えるまで、僕達はクリスマスパーティをしていたのだから・・・。
それがどんなに辛いことだったか・・・。
「本当はもっと近づきたかった。佐奈に触れて、抱きしめて、その唇にキスしたかった・・・。外に出られない佐奈をずっと部屋に閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくなかった。たとえ近づくことが出来なくても、僕だけの佐奈にしておきたかったんだ。だけど、佐奈はいつの間にか心を治し、僕から離れようとしていた」
僕はそんな智明の心を知らず、智明から早く自立しなければならないと思っていた。早く一人でも生きられるようになって、僕という呪縛から智明を解放してあげたかった。
「佐奈を閉じ込めておくなんて、僕のエゴでしかない。本当はどんどん外の世界へと向かって行く佐奈に喜び、応援しなくてはいけなかったんだ。だけど、僕の心はどんどん歪んで、いつしかまた佐奈を傷つけてしまうんじゃないかと怖くなった。だから極力、佐奈のことを見ないようにした。今何をしているのか、これから何をしようとしているのか。もしそれが僕からますます離れるような事だったとしたら、僕はきっと佐奈を本当に閉じ込めてしまう」
僕はそれを、ただ関心がないからだと思った。
好きの反対は無関心。
僕は智明の嫌いの対象にもなれなかったのかと、本当に責任感だけで傍にいるのだと思っていた。
それがどんなに辛かったか。
「だからクリスマスのあの日、佐奈に言われた通りポストから手紙を受け取ったあの時、そこから鍵が出てきて、僕の心臓は止まるかと思った。急いで入った部屋には誰もいなくて、佐奈の部屋はもぬけの殻だった。佐奈はついに、僕の元からいなくなってしまった。きっとあの日のことを思い出してしまったんだ。だから何も言わずにいなくなってしまったんだと思った」
僕はあの時、本当の自分の気持ちを手紙に書こうと思っていた。だけど、書こうと思えば思うほど、僕だけが一方的に智明を好きになり、そして智明は最後まで僕を好きになってくれなかった事実を突きつけられて惨めになった。そしてそれはいつしか智明を責めるような文面になり、書くことを諦めた。
惨めな自分を晒すのも、智明を責めてしまうのも嫌だった。だから一言『さようなら』とだけ書いたんだ。
それだけで伝わると思った。クリスマスプレゼントと言って、さよならの手紙と部屋の鍵。僕達の関係を考えたら、僕から智明へのプレゼントが『自由』であるという意味以外ないと思った。
だけど、その根本が違ったのだ。
智明は、僕は心の底では無意識に智明を怖がっていると思っていて、僕は智明に関心すら持ってもらえず、責任を取るためだけに僕の傍にいるのだと思っていた。
だから、僕のメッセージは伝わるはずがなかった。
「佐奈を探せないと思った。本当はすぐに探したい。実家や会社に電話して聞きたい。・・・でも出来なかった。夜遅いからだけじゃない。佐奈があの日を思い出して僕から離れたのなら、佐奈はきっと僕が怖いはずだ。せっかく僕から逃げたのにまた現れたら、きっと佐奈はさらに僕に恐怖し、また逃げるだろう」
逃げたわけじゃなかった。ただ智明に、智明の人生を返してあげたかっただけなのに、思いは通じていなかった。
ショックだった。
僕のことなのに、僕は全然自分の事を分かってなかった。
僕の心にはそんな傷があるなんて、知らなかった。
「佐奈は少しずつ心を開いてくれて、僕に笑顔を向けてくれるようになってきた。だけどその笑顔も、あの時を覚えてないからだ。もしあの時を思い出してしまったら、この笑顔は消えて僕の傍からいなくなってしまう」
苦しげに話す智明に、僕は何も言えなかった。いつも柔らかい笑顔で僕を見守ってくれていた智明の心が、こんなにも怯えていたなんて・・・。
「佐奈がフラッシュバックを起こすのはいつも意識のない時だった。それがもし、意識のある時に起こったら、そしてあの時のことを思い出してしまったら・・・」
僕に必要以上に近づかなかったのも、いつも変わらず笑顔でいたのも、少しでも僕が怯えてしまったら、それが引き金になってフラッシュバックを起こしてしまうかもしれない。そう思って智明はずっと変わらぬ笑顔で同じ距離を保っていた。
クリスマスを一度も祝わなかったのも、この日が僕たちの始まりの日だからだ。あの日あの時を迎えるまで、僕達はクリスマスパーティをしていたのだから・・・。
それがどんなに辛いことだったか・・・。
「本当はもっと近づきたかった。佐奈に触れて、抱きしめて、その唇にキスしたかった・・・。外に出られない佐奈をずっと部屋に閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくなかった。たとえ近づくことが出来なくても、僕だけの佐奈にしておきたかったんだ。だけど、佐奈はいつの間にか心を治し、僕から離れようとしていた」
僕はそんな智明の心を知らず、智明から早く自立しなければならないと思っていた。早く一人でも生きられるようになって、僕という呪縛から智明を解放してあげたかった。
「佐奈を閉じ込めておくなんて、僕のエゴでしかない。本当はどんどん外の世界へと向かって行く佐奈に喜び、応援しなくてはいけなかったんだ。だけど、僕の心はどんどん歪んで、いつしかまた佐奈を傷つけてしまうんじゃないかと怖くなった。だから極力、佐奈のことを見ないようにした。今何をしているのか、これから何をしようとしているのか。もしそれが僕からますます離れるような事だったとしたら、僕はきっと佐奈を本当に閉じ込めてしまう」
僕はそれを、ただ関心がないからだと思った。
好きの反対は無関心。
僕は智明の嫌いの対象にもなれなかったのかと、本当に責任感だけで傍にいるのだと思っていた。
それがどんなに辛かったか。
「だからクリスマスのあの日、佐奈に言われた通りポストから手紙を受け取ったあの時、そこから鍵が出てきて、僕の心臓は止まるかと思った。急いで入った部屋には誰もいなくて、佐奈の部屋はもぬけの殻だった。佐奈はついに、僕の元からいなくなってしまった。きっとあの日のことを思い出してしまったんだ。だから何も言わずにいなくなってしまったんだと思った」
僕はあの時、本当の自分の気持ちを手紙に書こうと思っていた。だけど、書こうと思えば思うほど、僕だけが一方的に智明を好きになり、そして智明は最後まで僕を好きになってくれなかった事実を突きつけられて惨めになった。そしてそれはいつしか智明を責めるような文面になり、書くことを諦めた。
惨めな自分を晒すのも、智明を責めてしまうのも嫌だった。だから一言『さようなら』とだけ書いたんだ。
それだけで伝わると思った。クリスマスプレゼントと言って、さよならの手紙と部屋の鍵。僕達の関係を考えたら、僕から智明へのプレゼントが『自由』であるという意味以外ないと思った。
だけど、その根本が違ったのだ。
智明は、僕は心の底では無意識に智明を怖がっていると思っていて、僕は智明に関心すら持ってもらえず、責任を取るためだけに僕の傍にいるのだと思っていた。
だから、僕のメッセージは伝わるはずがなかった。
「佐奈を探せないと思った。本当はすぐに探したい。実家や会社に電話して聞きたい。・・・でも出来なかった。夜遅いからだけじゃない。佐奈があの日を思い出して僕から離れたのなら、佐奈はきっと僕が怖いはずだ。せっかく僕から逃げたのにまた現れたら、きっと佐奈はさらに僕に恐怖し、また逃げるだろう」
逃げたわけじゃなかった。ただ智明に、智明の人生を返してあげたかっただけなのに、思いは通じていなかった。
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