さかなのみるゆめ

ruki

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「智がいい。僕は智の傍にいたいし、子どもの父親も智がいい。僕と番になって。結婚して。あの子の父親になって」

その瞬間、智明の目からまた涙がこぼれ落ちた。

「僕も、佐奈を誰にも渡したくない。佐奈も子供も僕が守るよ。佐奈、結婚しよう。今度こそ、ちゃんと番になろう」

その言葉に、今度は僕の目から涙がこぼれた。

「うん」

僕達はこの時、発情期以外で初めての抱き合い、キスをした。それは触れ合うだけの軽いキスだったけど、まるで結婚式の誓のキスのように神聖な気がした。

「佐奈、僕ちょっと出てきてもいいかな?」

唇を話すと、急に智明が出かける準備を始めた。

「今日があの子の出生の日になるだろ?僕達の入籍の日があの子の誕生よりあとになるのは嫌なんだ。せめて同じ日にしたい」

僕達は番関係にも婚姻関係にもなっていない。このままだとあの子は婚姻届を出すまでの間私生児になってしまう。

今から婚姻届を取りに行って今日中に出すってこと?
そこまでしなくても・・・とは思ったけど、真面目な智明らしくて微笑ましい。

「僕も、木佐さんにちゃんと思いを伝えるよ。そしてちゃんと智と結婚できるようにする」

僕の言葉に一瞬動きを止めた智明は、だけどいつものように微笑んだ。

「うん。じゃあ行ってくるね」

「いってらっしゃい」

病室を出ていく智明を見送って、僕は木佐さんにメッセージを送った。

今日のお礼と、無事に産まれたことと、そして、話があるので来て欲しいことを伝えた。

すると直ぐに既読がつき、今から来てくれるという返事が返ってきた。そしてその返信の通り、木佐さんはすぐに来てくれた。

「水森くん、おめでとう」

入ってくるなり笑顔で言ってくれる木佐さんに、僕はお礼を言いながらベッド脇の椅子を勧めた。

「ありがとうございます。木佐さんにはいつも助けてもらって、今日も木佐さんがいてくれたから無事に産むことが出来ました」

「そんなことないよ。一番頑張ったのは水森くんだからね。僕は僕のしたいことをしただけだよ」

そう言ってくれる木佐さんに胸が痛くなる。

「そんな顔をしないで。僕がしたいって言ってしだしたことなんだから。君に見返りは一切求めないって言っただろ?・・・君の心から彼を消すことが出来なかったのは僕の力不足であって、君のせいじゃない」

最後まで僕を悪者にしない木佐さんは、なんて優しいんだろう。

「だけど・・・」

「君が幸せになることが僕の幸せだよ。少しだけだけど三守くんと話して、とても好青年なのが分かった。水森くんが好きになるのも分かるね。それに彼からは痛いくらいに君への思いが伝わって来たよ」

智明の僕への思い。
そんなことまで分かってしまうの?

「アルファ同士は見えないところで牽制し合ってるからね。君の幸せを願って必死に抑えていたけど、溢れる思いがかなりのプレッシャーになって僕に向けられていたよ」

ふふふ、と笑ってそういう木佐さんに、僕は改めて向き直った。

「木佐さんの思いに応えられなくてごめんなさい」

そして頭を下げる。

「水森くんは真面目だね。こういうのは誰が悪いとかないんだよ。だから謝る必要はないんだ。君が精一杯幸せになること。それでいいんだよ。・・・まさか僕を気にして仕事辞めたりしないよね?今辞められると困るな」

そう言っておどけたように口元に手をやる木佐さんに、僕はにっこり笑った。

「辞めませんよ。まだ入ったばかりだし。まだこれからお休みもらわなきゃいけないけど、在宅の仕事ならいつからでも始められますよ」

僕に罪悪感を持たせないようにしてくれる木佐さんに、僕は感謝しながら話に乗る。

「良かった。今じゃ水森くんも立派な戦力だから辞められると困っちゃうよ。でも産休中はしっかり休まないとダメだよ。そのあと無理のないように在宅でちゃんと仕事してもらうから」

「はい。これからもよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」

僕達はそう言って笑いあった。そして、木佐さんはそのまま笑顔で帰っていった。

本当に木佐さん、ありがとうございました。

僕は心の中でもう一度呟いた。 

木佐さんが帰ってから程なくすると、智明が戻ってきた。

「話せた?」

「うん」

誰ととは言わなかったけど、僕達にはそれで十分だった。
そんな僕に微笑みながら、智明はもらってきた薄い紙をテーブルに広げる。するとその保証人の欄に、木佐さんと医師の署名がすでにされていた。

びっくりして智明を見ると、さっきそこで書いてもらったのだという。

たまたま帰る木佐さんと出くわした智明が外出の理由を訊かれて婚姻届を取りに行ったと話すと、その保証人になっていいかと言われたらしい。断る理由もないし、今回かなりお世話になっているのでお願いすると、さらに通りかかった医師も木佐さんが捕まえて書いてもらったらしいのだ。

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