まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第二章:壊せ、偽りの楽園――不夜城に咲く嫉妬と誘惑の花

第47話:朧月に散る

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薄闇に満ちた《紅孔雀楼》の最上階――

天女の間に、ふたりの影が静かに対峙していた。

片や、王国第二王女にして現代最強の剣士、レン・アルセリオン。

片や、百年前に火刑に処され、いまは魔女として蘇った女郎蜘蛛、ミリアム・エクスコミュニカ。

静寂を切り裂くように、一陣の風が吹く。

________________________________________

レンの踏み込みは、まさに風のようだった。

靴音すら残さぬ鋭いステップ――

銀の刃が月光のように煌めく。

――「月華一刀げっかいっとう」

速さに特化した水平斬り。

それを、ミリアムは迷いなく“旗”で受け止めた。

その旗は、かつて戦場で民を導いた象徴。

今や鋼のごとき硬さと、鞭のような柔軟さを併せ持つ武器となっている。

________________________________________

「これでも、まだ届かないのか……楽しいじゃないか!」

「姫と聞いて油断しました。昨日の“ポンコツ王子”のような軟弱な剣だとばかり思って――私も未熟でした。ならば、こちらも本気でいきます」

ミリアムが旗を槍のように構え、突きを放つ。

――「ペネトレイト・スティング」

鋭く、重く、正確な一撃。

空気が弾け飛び、レンは紙一重でそれをかわす。

________________________________________

「危ないっ! よくも……マサキ兄を!」

「殺してはいません。まだ、ね。私を裏切った王家の血とその眷属は……みな、私と同じように正式に炎に焼かれるべきです。百年前から決まっていたこと」

レンが深く踏み込み、月影をまとった剣が奔る。

――「影月翔えいげつしょう」

縦横無尽に舞う斬撃。月の影のような連撃を、

ミリアムは旗を風車のように回してすべて受け流す。

________________________________________

「あなたも私と同じ。優れた女であるがゆえに、周囲の男どもから嫉妬され、傷つけられたでしょう?」

「……それは」あの日、剣に敗れた兄の嘲りが、レンの頭をよぎった

「王子は言っていましたよ。“化け物”だと。――そんな男のために、なぜ、そこまで」

レンの剣がわずかに鈍る。

ミリアムはその隙を見逃さなかった。

――「スレッド・ジャマー」

周囲から放たれた粘着糸が視界を遮り、脚に絡みつく。

「くっ、ネバネバして……切れにくい……!」

「男どもは愚かで醜い。こんなくだらない罠に落ち、みっともなく死ぬ。百年、何度も見てきた光景です」

________________________________________

ミリアムが跳躍。上段から突き下ろす――

――「ファントム・ダイブ」

レンは咄嗟に腕一本で身体を回転させ、回避。

その勢いのまま、左肘を突き上げ、構えを切り替える。

「俺が二刀流にしなかった理由、教えてやる!」

膝蹴り、掌底、連撃。

「格闘技……!?」

「一流の剣士は、剣を失ったときの術も身につけているものさ」

________________________________________

ふたりの間合いが、僅かに開いた。

レンの気配が変わる。

――「満月斬華まんげつざんか」

まるで満月のように、広がる一撃。

ミリアムは跳躍し、直上へ退避する。

だが――

――「煌月落とし(こうげつおとし)」

天から放たれる、一直線の斬閃。

ミリアムは旗で受け止めるが、わずかに体勢が揺らぐ。

________________________________________

「俺は兄にも、師匠にも、その剣の才能を恐れられた。

 それでも、俺は高潔な戦士として生きたいと思った。

 剣を諦めない。兄を見捨てない。――それが俺の“剣”だ!」

「詭弁です。私は――王国を、あの人たちを、絶対に許さない!」

________________________________________

ミリアムが距離を取り、糸が渦巻く。

まるで羽衣のように身体を包み――

――「シルク・ミラージュ」

姿が複数に分裂する。幻か、擬態か。

だが、レンは迷わない。

「剣を交えた今なら分かる。あなたが本当に憎んでいたのは、何だったのか」

________________________________________

レンは静かに剣を鞘に収める。

一歩、また一歩。踏み込みながら、深く息を吸い――

全身の力を、ただ一点に込める。

――「秘剣・朧月おぼろづきの舞まい」

抜刀。

月を割くような一閃が、すべての幻影と糸を断ち、

《紅孔雀楼》すらも斬り裂いた――

 「あなたは。誇り高き戦士として死ねなかったことをなにより憎かった」

________________________________________

静寂。

舞い落ちる糸、揺れる白旗。

その向こうで、ミリアムの身体が、ゆっくりと崩れ落ちる。

(……そうでした。私は、魔女でも聖女でもなく――

 高潔な戦士として死にたかったのですね)
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