まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き

第58話:その手を離した日――マリの懺悔

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私の家は、どこにでもあるような農村の、貧しい農家だった。

代々、地主の貴族様に頭を下げ、畑を耕して、どうにか家を持てていた。

父と母、それに子どもが七人。私は長女だった。

弟や妹の面倒を見ながら、いずれ誰かの嫁になって――

そうして、母の人生をなぞる。それが、当たり前の未来だと思っていた。

でも、カズキ王が“学校”を作った。

平民でも、貧乏でも、学べる場所。スキルがもらえる場所。

授業料もいらない。ご飯も出る。

……一人分、家の口が減るなら、それで十分だと思った。

だから、私は入学した。

――そして、あの子に出会った。

「はじめまして。セリナと申します。今日からお世話になります」

元・奴隷の少女、セリナ。

どこにでもいそうな、少しぼんやりした子。

けれど、その笑顔は無邪気すぎて……私は、妹たちと重ねてしまった。

彼女とは同室になった。

だから私は、彼女を――自然と、妹みたいに思ってしまった。



「字が読めるようになりたいんです。……まだ、全然分からないけれど」

「このままじゃ、私はダメだって思うんです。

 図書館で掃除していると、皆さんが楽しそうに本を読んでいて……

 でも私には、それが壁みたいに感じられる。届かない世界のようで……」

「やめときなよ」

私は、つい言ってしまった。

「どうせ私たちは、卒業しても使用人。字を覚えても、使う機会なんてないんだから」

「……いいえ、本を読めば、人は変われるって……お母さんが、そう言ってました」

まったく、本当に――どうしようもない妹分だ。

読み書きなんて、貴族のものでしかない。

そんなの、私たちに教えてくれる人がいるわけ――



……と思っていた、その夜。

「ふふっ♪」

彼女は、嬉しそうに本を抱えて帰ってきた。

なんでも、魔法使いの男の人が教えてくれたらしい。

あやしいヤツじゃないだろうな?と何度も聞いたけれど、

どうやら、ちょっと変わった“お貴族様”らしい。

なら、――いっそお嫁にでも行ってくれたら

そう思った。

姉としてじゃなく、たぶん、親心のつもりだった。

でも……幸せな時間なんて、いつも長くは続かない。



「号外号外! 聖剣泥棒はメイド!? 王都で大事件です!」

ある日突然、セリナが“聖剣泥棒”として王都で話題になった。

あっという間に、貴族からの圧力が学校に押し寄せる。

「その聖剣を盗んだ者、御校の生徒ではないか?」

「いえ、そのような者は存じません。我が校の名を騙る、不埒な者でしょう」

校長先生は、貴族に頭を下げた。

「セリナという生徒は、我が校にはいなかった。……いいな?」

「違反した者は、彼女と同じ末路を辿ってもらう」

……そう脅されて、先生たちも、生徒たちも、皆、口を閉ざした。

私も……。

……怖かった。

セリナの味方をしたら、次は私だと思った。

私の家には、まだ幼い弟や妹がいる。両親も、高齢だ。

もし私が学校を追われたら――家族が、生きていけなくなる。

だから、私は逃げた。

ごめん、セリナ。

私は……あなたを守る勇気がなかった。

私は、平凡で、臆病な姉だった。

せめてもの償いに、私の全財産を私の部屋に残した。

慣れない字を町の看板を見よう見まねで書いた手紙も置いていた。

でも――

罪悪感は、消えなかった。



それからというもの、あの子が夢に出てくるようになった。

「なんで助けてくれなかったですか?」「お姉ちゃんだって思ったのに……」

そんな声が、眠るたび、耳に刺さる。

苦しくて、うなされた、私は教会でボランティアを始めた。

せめて、セリナみたいな子を助けられれば――

そうすれば、少しだけ、私の心が救われる気がした。

……そんな中で、彼に出会った。

「よく見かけますね。よほど、この仕事が好きなのでしょう。

 僕は、シエノ。よろしく、優しきレディ」

それが、私の……“運命の人”だった。

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