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第四章:勝者も敗者も、恋を知る――月下の武闘会は乙女を育てる
第76話:魂の一閃、誇りの双掌
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「マサキ兄様は無事か!?」
「慌てるな。セリナが衝突の直前で落下を留めた。ただの気絶だ。――下半戦は君の番だ、レン。気持ちを切り替えろ。セリナを“目覚めさせる”のは、君だろう?」
マオウの言葉に、レンはようやく気持ちを落ち着けた。
「でも……あれは、セリナじゃない。優しかったあの子が……」
「いいや、あれもセリナだ。陰陽学で言えば、人には“陰”と“陽”の面がある。陽だけを見て、陰から目を背けているようじゃ――たとえ勝っても、彼女を救うことはできないぞ」
________________________________________
*
「すごい試合でしたね。私は元帝国人ですが、手に汗握ってしまいました」
「同感です。まさか女戦士があそこまでの実力とは……王国人も帝国を見習って、女性戦士の地位を見直すべきです!」
「まあまあ、それはさておき! ついに来ました、今年最大の注目カード!」
「帝国 vs 王国、勝者がほぼ今年の覇者を決める運命の一戦!」
「勝てば、決勝戦はどちらが勝っても“王国の勝利”になりますね」
「では、戦場に上がるはこの二人……!」
観客たちの歓声が渦巻くなか、ふたりの因縁深き戦士が、リングに立った。
________________________________________
「ダーリン♡ 小梅のこと見てなかった数日間、寂しかったあるか?」
「王小梅。俺は――前に進むために、ここであんたを倒す」
毛玉になったマオウのために。
そして、道を見失ったあの子のために。
俺は、負けられない。
「だからダーリンの本気、小梅に見せて欲しいある♡」
「試合開始!」
合図と同時に、戦場が閃いた。
________________________________________
「――月下千華げっかせんか!」
レンの剣が、音速の花を咲かせる。千を超える連撃が一瞬で放たれ、刃が小梅に襲いかかる!
「双龍旋掌そうりゅうせんしょう!」
小梅は両手を広げ、高速回転で全ての斬撃を“気”で弾く。
続けざまに――
「朱雀幻炎舞すざくげんえんぶ!」
幻影が無数に舞い、反撃の構えに転じる!
「月下幻影・連斬!」
レンも負けじと幻影を展開、剣技の残像で幻を斬り伏せていく。
幻と幻、影と影――やがて本体同士が交錯する!
「――一閃・月輪穿ち(いっせん・げつりんうがち)!」
「――陰陽裂界拳いんようれっかいけん!!」
剣と拳が激突した。光と爆風が闘技場を包み、轟音が天を割る。
両者、譲らず。
リングの上で、睨み合いながら息を整える。
会場は逆に、静まり返っていた。
その凄まじい攻防に、誰もが息を飲み、誰もが両者の強さに敬意を抱いていた。
しかし――戦況は、静かに傾いていく。
“気”による自己回復ができる小梅は、持久戦で優位に立ち始める。
「――円月無明斬えんげつむみょうざん!」
決定的の瞬間、レンが大技の連発で体力を落ち、そのわざを決めた後の一瞬の隙を、小梅は逃さなかった。
「六合震掌りくごうしんしょう」重い掌撃をレンにぶち込んだ。
「――玄武化勁陣!!」
逆に、小梅の体が崩れた。
「なっ……!? それ、小梅の――!」
観客がざわつく。
その技は、小梅がかつてレンに使った“気の逆流カウンター”。
「あり得ないある……あれは気が使えないとできないはず……まさか」
レンは、深く息を吸い――
その身体から傷がゆっくりと消えていく。
そして――いつの間にか、彼女は女の子の姿に戻っていた。
皆さん、忘れていたかもしれませんが……レンは、十歳で剣聖に勝利した“武の天才”だ!
観客席が騒然とする。
彼女はあの日、小梅に敗れたときから、あらゆる技を観察し、盗み続けていたのだ――
局面、逆転!
今は、レンのターンだ!
________________________________________
「――白虎貫撃掌!」
気を整える暇もなく、小梅に拳が迫る。
しかもこれは、小梅自身の得意技……!
息を乱す小梅に、さらに追撃が飛ぶ!
「月華一刀! 青龍流転脚! 月閃! 銀月斬! 太極穿心打!」
剣と拳、連撃と強撃――
容赦のない攻撃が、隙間を与えず小梅を追い詰めていく。
「――月滅一刀!」
最後の一閃。
小梅が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
――沈黙。
その直後、歓声が爆発する!
王国の勝利だ! これで決勝は――!
……だが。
「小梅……は……まだ、負けてないある!!」
静まり返った場に、小梅の声が響く。
彼女はふらつきながら立ち上がり、その拳を再び構えた。
「小梅は、誇り高き帝国の戦士……!
この町に根付いた“戦敗の民”として、王国人に舐められるわけにはいかないある!」
その背に、百年の屈辱と悲しみを背負って。
祖国に捨てられ、王国に差別され、誇りすら奪われてきた者たちのために――彼女は立ち上がった。
その姿に、誰もが声を呑んだ、歓声は静まり、王国人たちも拳を握る。
「……わかった、小梅。
あんたは誇りある戦士だ。――なら、最後まで付き合う」
レンが剣を構え、小梅が拳を構える。
二人の戦士、最後の一合!
「八卦連掌破はっけれんしょうは!!」
「満月終刃まんげつしゅうじん!!」
衝突――そして、勝負が決まった。
「ありがと……やっぱり、大好きある……
……次は、もっと本気で勝つからね」
小梅が、笑った。
「慌てるな。セリナが衝突の直前で落下を留めた。ただの気絶だ。――下半戦は君の番だ、レン。気持ちを切り替えろ。セリナを“目覚めさせる”のは、君だろう?」
マオウの言葉に、レンはようやく気持ちを落ち着けた。
「でも……あれは、セリナじゃない。優しかったあの子が……」
「いいや、あれもセリナだ。陰陽学で言えば、人には“陰”と“陽”の面がある。陽だけを見て、陰から目を背けているようじゃ――たとえ勝っても、彼女を救うことはできないぞ」
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「すごい試合でしたね。私は元帝国人ですが、手に汗握ってしまいました」
「同感です。まさか女戦士があそこまでの実力とは……王国人も帝国を見習って、女性戦士の地位を見直すべきです!」
「まあまあ、それはさておき! ついに来ました、今年最大の注目カード!」
「帝国 vs 王国、勝者がほぼ今年の覇者を決める運命の一戦!」
「勝てば、決勝戦はどちらが勝っても“王国の勝利”になりますね」
「では、戦場に上がるはこの二人……!」
観客たちの歓声が渦巻くなか、ふたりの因縁深き戦士が、リングに立った。
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「ダーリン♡ 小梅のこと見てなかった数日間、寂しかったあるか?」
「王小梅。俺は――前に進むために、ここであんたを倒す」
毛玉になったマオウのために。
そして、道を見失ったあの子のために。
俺は、負けられない。
「だからダーリンの本気、小梅に見せて欲しいある♡」
「試合開始!」
合図と同時に、戦場が閃いた。
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「――月下千華げっかせんか!」
レンの剣が、音速の花を咲かせる。千を超える連撃が一瞬で放たれ、刃が小梅に襲いかかる!
「双龍旋掌そうりゅうせんしょう!」
小梅は両手を広げ、高速回転で全ての斬撃を“気”で弾く。
続けざまに――
「朱雀幻炎舞すざくげんえんぶ!」
幻影が無数に舞い、反撃の構えに転じる!
「月下幻影・連斬!」
レンも負けじと幻影を展開、剣技の残像で幻を斬り伏せていく。
幻と幻、影と影――やがて本体同士が交錯する!
「――一閃・月輪穿ち(いっせん・げつりんうがち)!」
「――陰陽裂界拳いんようれっかいけん!!」
剣と拳が激突した。光と爆風が闘技場を包み、轟音が天を割る。
両者、譲らず。
リングの上で、睨み合いながら息を整える。
会場は逆に、静まり返っていた。
その凄まじい攻防に、誰もが息を飲み、誰もが両者の強さに敬意を抱いていた。
しかし――戦況は、静かに傾いていく。
“気”による自己回復ができる小梅は、持久戦で優位に立ち始める。
「――円月無明斬えんげつむみょうざん!」
決定的の瞬間、レンが大技の連発で体力を落ち、そのわざを決めた後の一瞬の隙を、小梅は逃さなかった。
「六合震掌りくごうしんしょう」重い掌撃をレンにぶち込んだ。
「――玄武化勁陣!!」
逆に、小梅の体が崩れた。
「なっ……!? それ、小梅の――!」
観客がざわつく。
その技は、小梅がかつてレンに使った“気の逆流カウンター”。
「あり得ないある……あれは気が使えないとできないはず……まさか」
レンは、深く息を吸い――
その身体から傷がゆっくりと消えていく。
そして――いつの間にか、彼女は女の子の姿に戻っていた。
皆さん、忘れていたかもしれませんが……レンは、十歳で剣聖に勝利した“武の天才”だ!
観客席が騒然とする。
彼女はあの日、小梅に敗れたときから、あらゆる技を観察し、盗み続けていたのだ――
局面、逆転!
今は、レンのターンだ!
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「――白虎貫撃掌!」
気を整える暇もなく、小梅に拳が迫る。
しかもこれは、小梅自身の得意技……!
息を乱す小梅に、さらに追撃が飛ぶ!
「月華一刀! 青龍流転脚! 月閃! 銀月斬! 太極穿心打!」
剣と拳、連撃と強撃――
容赦のない攻撃が、隙間を与えず小梅を追い詰めていく。
「――月滅一刀!」
最後の一閃。
小梅が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
――沈黙。
その直後、歓声が爆発する!
王国の勝利だ! これで決勝は――!
……だが。
「小梅……は……まだ、負けてないある!!」
静まり返った場に、小梅の声が響く。
彼女はふらつきながら立ち上がり、その拳を再び構えた。
「小梅は、誇り高き帝国の戦士……!
この町に根付いた“戦敗の民”として、王国人に舐められるわけにはいかないある!」
その背に、百年の屈辱と悲しみを背負って。
祖国に捨てられ、王国に差別され、誇りすら奪われてきた者たちのために――彼女は立ち上がった。
その姿に、誰もが声を呑んだ、歓声は静まり、王国人たちも拳を握る。
「……わかった、小梅。
あんたは誇りある戦士だ。――なら、最後まで付き合う」
レンが剣を構え、小梅が拳を構える。
二人の戦士、最後の一合!
「八卦連掌破はっけれんしょうは!!」
「満月終刃まんげつしゅうじん!!」
衝突――そして、勝負が決まった。
「ありがと……やっぱり、大好きある……
……次は、もっと本気で勝つからね」
小梅が、笑った。
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