まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第四章:勝者も敗者も、恋を知る――月下の武闘会は乙女を育てる

第77話:ブラックセリナと純白の月夜

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準決勝が終わり、ついに決勝戦の組み合わせが決まった。

銀の閃光・ユウキ。そして――当代の勇者・セリナ。

王小梅の敗北により、今年のチャンピオンが王国側から出ることは確定した。

だが、あの死闘を目にした今となっては――

王国とか帝国とか、そんなものを気にしている者はもういない。

観客たちの関心は、ただひとつ。

「明日の決勝、どちらが勝つんだ?」

それだけだった。

________________________________________

――一方その頃。

「戻ったァーッ!! 俺のチンコ、帰ってきたァーッ!! ……相棒、会いたかったぞ! もう離さねぇからなッ!!」

「マサキ兄……下品。そんなものが自分の股間に生えてたと思うと……なんか、汚された気がする」

マサキが雄叫びを上げていた。

そう――王小梅が約束通り、レンとの再戦の報酬として、彼を“マサコ”から“マサキ”に戻してくれたのだ。

だがその横で、ふわふわの毛玉のままのマオウが、困ったように眉たぶんを寄せていた。

「ごめんある……この子は“ダーリンの気”で毛玉になったから、小梅にはどうにもできないあるよ」

「戻せぇぇええええッ!!」

レンは涙目で叫んだが、いくら“気”を流しても、マオウは元の姿に戻らない。

……いや、正確には――「戻っていない」のではなく、「戻っていないフリをしている」だけだった。

なぜかって?

この姿のほうが、楽だから。人間のあなたも人間の姿が一番落ち着くだろう?この祭りが終わる前に、まだこの姿でいたい、これは魔王の少しのわがままだ。

――そして、今夜はこの“毛玉の姿”で、果たすべき役目があった。

________________________________________

その夜。

セリナはいつものように、みんなのためにご飯を作り、洗い物を片付け、部屋を整えてから――静かに自分の部屋へ戻った。

明日の決勝戦に備えて、休むつもりだった。

しかし、そこには先客がいた。

ふわふわした、小さな毛玉。

「……マオウさん? ……いえ、マオウさんならきっとレン君のそばにいるはずです。

今の私の所へ来ませんよね…

あなたは……あの時、セルペンティナで出会った……」――」

セリナは、はっとして思い出す。

かつてセルペンティナで出会った、“ちょっと特別な毛玉”。

その姿を見た途端、懐かしさと安心感がふわりと胸に広がり、彼女の表情が少しだけ和らいだ。

静かに膝の上へ毛玉を抱き寄せ、優しく撫でる。

「……私、ひどいことをしましたよね」

ぽつりと落とされたその言葉は、どこまでも静かだった。

「マサコさんを……殺しかけました。

大切な人たちを、傷つけてしまいました……

私、勇者なのに……勇者なのに……っ」

毛玉の上に、ぽたりと温かな雫が落ちる。

彼女は泣いていた。

太極は陰と陽。

陽の中にも陰があり、陰の中にも陽がある。

かつてのセリナに“黒い感情”があったように――

今の“ブラックセリナ”にも、確かに優しさは残っていた。

それが、人間というものだ。

「私は……マオウさんのそばに、ずっといたかっただけなのに」

少女の声が震える。

抱きしめる腕に、少しずつ力がこもる。

困惑しただろう。戸惑っただろう。後悔もしただろう。

初めて知る感情ばかりで、純粋すぎた彼女には――まだうまく、処理しきれない。

毛玉は、黙って彼女の涙を拭った。

そして、部屋の片隅――彼女が日記をつけている机へ、ぺたぺたと歩いていく。

短い足で、ぐらりとバランスを取りながら筆を持ち上げ、ひとことだけ書き記す。

『人生の最短道は、まわり道。急がなくていい』

セリナは、その文字をじっと見つめ――やがて、微笑んだ。

「……やっぱり、あなたはマオウさんですね」

もう一度、そっと毛玉を抱きしめる。

まるで、大切なものを壊さないように。

「いつも難しいことばっかり言って、私を困らせて……」

文句のようでいて、その声にはやさしさと愛情が滲んでいた。

「……でも、セリナは――

そんなマオウさんのことを、愛しています」

そして――月明かりの中で。

少女は、毛玉の唇に、小さなキスを落とした。

毛玉の王子は、キスでは人間に戻ることはない。

けれど、たしかに。

ほんの少しだけ、“人間らしく”なった気がした。

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