まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
86 / 169
第四章:勝者も敗者も、恋を知る――月下の武闘会は乙女を育てる

第78話:空から船が降ってきた日

しおりを挟む
武闘会最終日。祭りの最後とあって、町中が沸き立っていた。



開始の何時間も前から客席はすでに満席。本来、王国人と元帝国人は別々に座るのが大会の暗黙のルールだったが、今日ばかりはそんなことを気にする者はいない。



「俺は銀色の閃光に賭けるね。昨日の準決勝、小梅様との試合を見ただろ? 今年の優勝はあれで決まりだよ」



「いや、僕は勇者を信じる! なんたって天使様にもなったんだぞ。あれなら魔王を倒せるのも納得だよ!」



こんなふうに、誰が勝つかで熱く語り合い、交流する声があちこちに響く。



そして、ついに試合の時間が来た。



「いよいよやってまいりました! 最強武闘会、最終日です! 泣いても笑っても、今日がラスト!」



「そして驚くべきは、決勝の両選手の年齢! なんと、まだ十四歳! 若さの暴力です!」



「若さなら私も負けてませんわ。絶賛彼氏募集中♡ ユウキ様、私をもらってください!」



「おばさん何言ってるのよ……あの年齢に手を出したら犯罪よ? というわけで、変なノイズは無視して、最終戦に移りましょう!」



「「ルキエル様に宣誓! この戦いで勝利する者こそ、今年の最強の戦士!」」



司会二人の宣言とともに、決勝戦が始まる。



リングに立つのは――



一方、王家の血を引き、十歳で剣聖に勝利した少女。



一方、平凡な出自ながら、聖剣に選ばれた勇者。



――さあ、ルキエルは、どちらに微笑むのか。



だがその前に、セリナが口を開いた。



「ユウ……いえ、レン君。マオウさんのこと、好きですよね?」



「は? なに急に……そ、そりゃ好きだけど! なんで今ここで聞く!? バカッ!」



唐突な問いにレンは顔を赤くして動揺したが、否定はしなかった。



それに対してセリナは――



「私も、大好きです。レン君に負けないくらい。だから、負けません。この戦いも、この気持ちも」



そのまなざしは真っ直ぐで、力強く――けれど、どこか優しかった。



ただの純粋無垢なセリナでもなく、前日のブラックセリナでもない。



(……これが、"本当のセリナ"か)



レンは昨日、マオウの言った言葉を思い出していた。



自分は、勝手にセリナを理想化しすぎていた。



そうだよな。セリナも、ただの一人の女の子だ。



(……俺も、まだまだだな)



「いいだろ、その挑戦状、受けて立つ。戦士としても、女としても」



レンは構えを取り、気を切り替えた――いよいよ、本番だ。



先に動いたのはレン。



彼女の得意とする高速の一閃。



「――月閃!」



だが――



「聖剣戦略! 私、再改造!」



セリナは即座に天使化し、空へと飛翔して避ける。



彼女は知っている。レンの剣速に、足では到底ついていけない。



だが、飛行能力を得た今なら、機動力でカバーできる。



もちろんレンも甘くはない。すぐに次の構えに入る。



「――月下千華げっかせんか!」



無数の斬撃が空を裂き、セリナを包囲する――!



「――聖解の光輪ディスアーム・レイ!」



しかしセリナはそれを、光のリングで無効化した。



レンは思い出す――あのとき、山賊たちが一斉にパンツ一丁になったあの技だ。



(やばい……あれは食らいたくない)



だがレンは知っている。あの技には長いクールダウンがある。今が好機――!



そのときだった。



空から巨大な影が落ちてきた。



「なんだ!? 船が空から落ちてくる!?」



観客席がざわめく中、レンは困惑した。



聖剣との契約により、セリナが装備したあらゆる武器は聖剣に変化してしまう。これは一種の呪いのような特性だった。



だから――



「まさか、船を『装備』したのか、あの娘は……」



そして手から離れると元に戻る。装備した時は軽い聖剣のままだが、手放した瞬間に元の重量に戻る。



これはマオウが教えた、聖剣の特性を逆手に取る戦術だった。



巨大な船がリングに激突し、足場を破壊する。



レンが得意とする地上での高速移動が封じられた。自慢の速度を半分も削がれたのも当然だった。



だが、セリナは空中にいる。そんな制約に影響されない。



(俺じゃなかったら今ので死んでたぞ……あの娘、やっぱり本気だな)



しかしレンに考える余裕は与えられなかった。



前方から無数の聖剣が雨のように降り注いでくる。



(まだ投げてくるのか、あの娘……!)



船に積まれていた物資を次々と聖剣に変化させ、投擲武器として使用している。



その物体が元に戻る時間差を狙って、ダメージを与える戦術だ。



(くそ、全部聖剣に見えるから、どれが本物でどれが囮かわからない……!)



「朧月斬おぼろづきざん」



力で弾くのではなく、飛んでくる聖剣の軌道を逸らして回避する。



おかげで、短時間ですべてを捌くことができた。



(あの娘は、聖剣が元に戻るまでの時間差を考えれば、そんなに遠くないはず……上か?)



レンが空を見上げた瞬間――



(……いた! 真下だ!!)



船の甲板が割れ、そこから聖剣を振るうセリナが現れた。



レンは下からくる一撃に気づき、この攻撃を防いだが、セリナは止まらない。



(聖剣を手放した……まさかマサキ兄の時と同じ、体術で来るのか?)



しかし違った。



セリナは周囲の破片を適当に装備し、それを聖剣へと変化させる。



そして再び斬撃を放つ。レンに防がれれば、再び聖剣を放棄し、新たな聖剣を作る。



次々と武器を使い捨て、斬りかかる。“終わらない剣の連打”――それこそが無限聖剣エーヴィヒカイト・シュヴェルトだ。



こんな戦い方、見たことがない。



今まで、レンは様々な相手と戦ってきたが、みんな限りある武器で戦ってきた。



だからこそ、その太刀筋は大体読めた。



しかし、こんな無茶苦茶な使い捨て戦術、どう読めというのか!



だが、これもまだフェイクだった。



本命は――



「しまった!」



セリナがレンの剣身を掴んだ。



セリナが装備した武器は――みんな聖剣になる。



すぐにレンの剣は変化し、聖剣となってセリナの手に渡った。



普通なら、ここで勝負が決まる。



だが――



今のレンには"気"がある。



(小梅、ありがとう。あんたと戦わなかったら、俺はここまでかもしれない)



レンは大きく息を吸った。



「朱雀幻炎舞すざくげんえんぶ!」



昨日の小梅のように、レンは無数の幻影を作り出した。



そして――



「白虎貫撃掌びゃっこかんげきしょう!」



「青龍流転脚せいりゅうるてんきゃく!」



「太極穿心打たいきょくせんしんだ!」



幻影のレンたちは、それぞれ違う技でセリナに攻めかかる。



セリナ絶体絶命!



しかしセリナは聖剣を構えた。



あれは――



(斬撃は決定打になりにくい。だから突きが有効)



レンの教えだ。



今、セリナは突きの構えを取った。



「一閃・月輪穿ち(いっせん・げつりんうがち)!」



すべての幻影を無視し、ただその中の本体だけを突き刺した。



「陰陽裂界拳いんようれっかいけん!」



聖剣は人を傷つけない。



だが、なぜセリナはそんな自信満々に勝負を決めに来るのか。



まだ裏があるのか!



レンの考えは正解だった。



「聖解の光輪ディスアーム・レイ!」



これまでの一連の攻撃は、クールダウン時間を稼ぎ、レンを避けられない空中へ誘うためのものだった。



結果は――レンが想像した通り。



装備がすべて吹き飛ばされた。



だが、その前にセリナは翼で彼女を隠した。



もう見る影もないレンに、ただ翼に包まれた小さな影があるだけだった。



「どうですか、レン君。負けを認めますか? それなら、こちらに予備の服がありますけど」



翼の中で、セリナはレンに取引を持ちかけた。



「脅迫!? あんた、いつの間にそんな娘になったの……やっぱりあいつか、あの毛玉のせいね……わかったけど」



「私は別に、レン君がパンツ一丁で戦い続けてもいいですよ。見られてもいいですか? お嫁に行けませんよ」



「ああああ、もう、わかったよ! 負けました、俺の負けです! これでいいでしょう!」



「よくできました。これを差し上げます」



「一体どうなっているのでしょうか! 先ほどから翼はピクリとも動きません。中はどうなったのでしょうか!」



「出ました! あれは……少年メイド! ユウキ様素敵!」



いつかのあの時の銀髪のメイド、まさかの再登場。



よかったね。メイド服でも、性別の方はまだ男として皆信じているようで。



「俺の負けだ。降参」



こうして、決勝戦はレンの恥ずかしい思い出と、その女装に悶える女性ファンの歓声の中で終わった。



めでたし、めでたし。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

処理中です...