まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第四章:勝者も敗者も、恋を知る――月下の武闘会は乙女を育てる

第78話:空から船が降ってきた日

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武闘会最終日。祭りの最後とあって、町中が沸き立っていた。



開始の何時間も前から客席はすでに満席。本来、王国人と元帝国人は別々に座るのが大会の暗黙のルールだったが、今日ばかりはそんなことを気にする者はいない。



「俺は銀色の閃光に賭けるね。昨日の準決勝、小梅様との試合を見ただろ? 今年の優勝はあれで決まりだよ」



「いや、僕は勇者を信じる! なんたって天使様にもなったんだぞ。あれなら魔王を倒せるのも納得だよ!」



こんなふうに、誰が勝つかで熱く語り合い、交流する声があちこちに響く。



そして、ついに試合の時間が来た。



「いよいよやってまいりました! 最強武闘会、最終日です! 泣いても笑っても、今日がラスト!」



「そして驚くべきは、決勝の両選手の年齢! なんと、まだ十四歳! 若さの暴力です!」



「若さなら私も負けてませんわ。絶賛彼氏募集中♡ ユウキ様、私をもらってください!」



「おばさん何言ってるのよ……あの年齢に手を出したら犯罪よ? というわけで、変なノイズは無視して、最終戦に移りましょう!」



「「ルキエル様に宣誓! この戦いで勝利する者こそ、今年の最強の戦士!」」



司会二人の宣言とともに、決勝戦が始まる。



リングに立つのは――



一方、王家の血を引き、十歳で剣聖に勝利した少女。



一方、平凡な出自ながら、聖剣に選ばれた勇者。



――さあ、ルキエルは、どちらに微笑むのか。



だがその前に、セリナが口を開いた。



「ユウ……いえ、レン君。マオウさんのこと、好きですよね?」



「は? なに急に……そ、そりゃ好きだけど! なんで今ここで聞く!? バカッ!」



唐突な問いにレンは顔を赤くして動揺したが、否定はしなかった。



それに対してセリナは――



「私も、大好きです。レン君に負けないくらい。だから、負けません。この戦いも、この気持ちも」



そのまなざしは真っ直ぐで、力強く――けれど、どこか優しかった。



ただの純粋無垢なセリナでもなく、前日のブラックセリナでもない。



(……これが、"本当のセリナ"か)



レンは昨日、マオウの言った言葉を思い出していた。



自分は、勝手にセリナを理想化しすぎていた。



そうだよな。セリナも、ただの一人の女の子だ。



(……俺も、まだまだだな)



「いいだろ、その挑戦状、受けて立つ。戦士としても、女としても」



レンは構えを取り、気を切り替えた――いよいよ、本番だ。



先に動いたのはレン。



彼女の得意とする高速の一閃。



「――月閃!」



だが――



「聖剣戦略! 私、再改造!」



セリナは即座に天使化し、空へと飛翔して避ける。



彼女は知っている。レンの剣速に、足では到底ついていけない。



だが、飛行能力を得た今なら、機動力でカバーできる。



もちろんレンも甘くはない。すぐに次の構えに入る。



「――月下千華げっかせんか!」



無数の斬撃が空を裂き、セリナを包囲する――!



「――聖解の光輪ディスアーム・レイ!」



しかしセリナはそれを、光のリングで無効化した。



レンは思い出す――あのとき、山賊たちが一斉にパンツ一丁になったあの技だ。



(やばい……あれは食らいたくない)



だがレンは知っている。あの技には長いクールダウンがある。今が好機――!



そのときだった。



空から巨大な影が落ちてきた。



「なんだ!? 船が空から落ちてくる!?」



観客席がざわめく中、レンは困惑した。



聖剣との契約により、セリナが装備したあらゆる武器は聖剣に変化してしまう。これは一種の呪いのような特性だった。



だから――



「まさか、船を『装備』したのか、あの娘は……」



そして手から離れると元に戻る。装備した時は軽い聖剣のままだが、手放した瞬間に元の重量に戻る。



これはマオウが教えた、聖剣の特性を逆手に取る戦術だった。



巨大な船がリングに激突し、足場を破壊する。



レンが得意とする地上での高速移動が封じられた。自慢の速度を半分も削がれたのも当然だった。



だが、セリナは空中にいる。そんな制約に影響されない。



(俺じゃなかったら今ので死んでたぞ……あの娘、やっぱり本気だな)



しかしレンに考える余裕は与えられなかった。



前方から無数の聖剣が雨のように降り注いでくる。



(まだ投げてくるのか、あの娘……!)



船に積まれていた物資を次々と聖剣に変化させ、投擲武器として使用している。



その物体が元に戻る時間差を狙って、ダメージを与える戦術だ。



(くそ、全部聖剣に見えるから、どれが本物でどれが囮かわからない……!)



「朧月斬おぼろづきざん」



力で弾くのではなく、飛んでくる聖剣の軌道を逸らして回避する。



おかげで、短時間ですべてを捌くことができた。



(あの娘は、聖剣が元に戻るまでの時間差を考えれば、そんなに遠くないはず……上か?)



レンが空を見上げた瞬間――



(……いた! 真下だ!!)



船の甲板が割れ、そこから聖剣を振るうセリナが現れた。



レンは下からくる一撃に気づき、この攻撃を防いだが、セリナは止まらない。



(聖剣を手放した……まさかマサキ兄の時と同じ、体術で来るのか?)



しかし違った。



セリナは周囲の破片を適当に装備し、それを聖剣へと変化させる。



そして再び斬撃を放つ。レンに防がれれば、再び聖剣を放棄し、新たな聖剣を作る。



次々と武器を使い捨て、斬りかかる。“終わらない剣の連打”――それこそが無限聖剣エーヴィヒカイト・シュヴェルトだ。



こんな戦い方、見たことがない。



今まで、レンは様々な相手と戦ってきたが、みんな限りある武器で戦ってきた。



だからこそ、その太刀筋は大体読めた。



しかし、こんな無茶苦茶な使い捨て戦術、どう読めというのか!



だが、これもまだフェイクだった。



本命は――



「しまった!」



セリナがレンの剣身を掴んだ。



セリナが装備した武器は――みんな聖剣になる。



すぐにレンの剣は変化し、聖剣となってセリナの手に渡った。



普通なら、ここで勝負が決まる。



だが――



今のレンには"気"がある。



(小梅、ありがとう。あんたと戦わなかったら、俺はここまでかもしれない)



レンは大きく息を吸った。



「朱雀幻炎舞すざくげんえんぶ!」



昨日の小梅のように、レンは無数の幻影を作り出した。



そして――



「白虎貫撃掌びゃっこかんげきしょう!」



「青龍流転脚せいりゅうるてんきゃく!」



「太極穿心打たいきょくせんしんだ!」



幻影のレンたちは、それぞれ違う技でセリナに攻めかかる。



セリナ絶体絶命!



しかしセリナは聖剣を構えた。



あれは――



(斬撃は決定打になりにくい。だから突きが有効)



レンの教えだ。



今、セリナは突きの構えを取った。



「一閃・月輪穿ち(いっせん・げつりんうがち)!」



すべての幻影を無視し、ただその中の本体だけを突き刺した。



「陰陽裂界拳いんようれっかいけん!」



聖剣は人を傷つけない。



だが、なぜセリナはそんな自信満々に勝負を決めに来るのか。



まだ裏があるのか!



レンの考えは正解だった。



「聖解の光輪ディスアーム・レイ!」



これまでの一連の攻撃は、クールダウン時間を稼ぎ、レンを避けられない空中へ誘うためのものだった。



結果は――レンが想像した通り。



装備がすべて吹き飛ばされた。



だが、その前にセリナは翼で彼女を隠した。



もう見る影もないレンに、ただ翼に包まれた小さな影があるだけだった。



「どうですか、レン君。負けを認めますか? それなら、こちらに予備の服がありますけど」



翼の中で、セリナはレンに取引を持ちかけた。



「脅迫!? あんた、いつの間にそんな娘になったの……やっぱりあいつか、あの毛玉のせいね……わかったけど」



「私は別に、レン君がパンツ一丁で戦い続けてもいいですよ。見られてもいいですか? お嫁に行けませんよ」



「ああああ、もう、わかったよ! 負けました、俺の負けです! これでいいでしょう!」



「よくできました。これを差し上げます」



「一体どうなっているのでしょうか! 先ほどから翼はピクリとも動きません。中はどうなったのでしょうか!」



「出ました! あれは……少年メイド! ユウキ様素敵!」



いつかのあの時の銀髪のメイド、まさかの再登場。



よかったね。メイド服でも、性別の方はまだ男として皆信じているようで。



「俺の負けだ。降参」



こうして、決勝戦はレンの恥ずかしい思い出と、その女装に悶える女性ファンの歓声の中で終わった。



めでたし、めでたし。
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