まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
94 / 171
第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い

第85話:黒真珠は、海の涙――海賊王と自由の記憶

しおりを挟む
「吐け!海賊王の財宝はどこにある!」

「知らない、俺は本当に何も知らないんだ!」

今日もやって来た、楽しくない尋問タイム。

発見した海賊船の周囲の海を氷で閉じ、逃げられないようにする。 そして、私が加減した魔法をひたすら撃ち続ける、奴らが降伏するか、心が折れるまで。ずっとだ。 そのおかげで、捕虜になってからの抵抗はめっきり弱くなった。

だが、妙だ。 彼らの大半には賞金がかかっていない。その割には行動が妙に慣れている。駆け出しには見えない。

「君が吐けば、君だけは見逃してもいい。でも、君の仲間が喋って、君が何も話さないなら――サメ釣りの餌になってもらうぞ」

「本当に知らないんだ。あいつらだって何も話せない。俺たちは何も聞いていない」 
「……いいのか? あいつら、保身でお前を売るぞ。

それに、早く話さねぇとな。後で皆バラバラに自白しても、結局は全員牢屋行きだぞ。」

「拷問でもかければいいさ。でも、知らないもんは知らない」

さらに、圧に対する耐性が高い。一一人ずつ『囚人のジレンマ』を仕掛けてるのに、この強情さ。

海賊よりも、兵士に近いかもね。

本当に知らないのか? まあ、それもあり得るが。にしてもあの口の堅さは異常だ。

普通の海賊なら、嘘でもついて命乞いするものだ。

これが連続に続けると思わせるようになる。

グルだね。

この公海に「本物の」海賊はいない。いるのは、一つの軍隊と、バカ三人だけだ。

「どうした? ビビったか?」

「マゾにご褒美を与える趣味はない。賞金も懸かっていない以上、生かしておく意味はない。――約束通り、サメの餌コースだ」 私は指先に電流を走らせ、その“海賊”の一生を終わらせた。

「まさか殺せないと思ったか? こちらは“海賊”だぞ。脅しと思われたら困る。次だ」



「おやじ、あいつらやばいって……」

「ラブリー、我々には選択肢はない。祖先の意志を貫くためにも、こうするしかない。ナマズ、“あれ”はどうした?」

「うん、あったよ。見つけた前に全部逃がしたから大丈夫」

「それでよい。万が一のために、お前たちは先に逃げて――あの小舟を使えば」

「……逃げられると思ったか?」



三バカは、私を見た瞬間、まるで悪魔でも見たかのような顔をした。

「尋問だ。次は君たちの番だ。ルーがお腹を空かせる前に終わらせよう」

「兄ちゃん……先の海賊たち、全部部屋に入って……」

「そういえば忘れていた。最初に捕まえた海賊も、尋問をかけるべきだったな。セリナ君たちが居たせいで、すっかり抜けていた。……さて、お話ししようか。シーサイレン一家」



逃げられないと悟ったデンジャラスは、諦めたように部屋に入った。

「ひっ……!」 ナマズが部屋の中に転がる死体の数々を目にし、絶句した。 死んだ海賊たちの表情はどれも苦悶に満ち、生前の苦しみを訴えている。 この部屋は、まるで地獄だった。

「座っても構わんぞ。楽にしな。素直に話してくれれば、これはただの雑談で終わる」 魔王の声はいつも通りだったが、その圧はまるで三人の首を締めつけているように重かった。

(魔王だ。人間じゃない。俺には分かる。満足できない答えを出したら、俺たちも“あれ”になる)

選択肢など、最初からなかった。 部屋に入った時点で、運命は決まっていた。

「……全部話します」



この世界の真珠は、貝の中から生まれたものではない。 人魚少女の涙から生まれる“海の雫”だ。 その感情の純度が高ければ高いほど、真珠は大きく、美しく輝く。

どの宝石よりも価値のあるもの。 だからこそ――人魚の狩りは、どの時代でも終わらなかった。

……あの男が現れるまでは。

テンペスト・タイラント。 かつては悪名高き海賊だった彼は、嵐で船ごと遭難した際、一人の人魚少女に助けられた。

テンペストは彼女に恋をし、そして結ばれた。

その後、テンペストは人魚の敵となる商人船のみを襲う義賊のような海賊に変わった。

「人魚は、この海のように自由であるべきだ。真珠も、彼女たち自身のものだ」

彼女の歌声に魅せられ、命を救われたテンペストは、ただの略奪者から守護者へと変わっていった。

だが、商人たちから見れば、テンペストは自分たちの“最も高価な商品”を奪う極悪海賊しかなかった。

――人魚も、真珠も、彼がいる限り略奪できない。

だからこそ彼は、“海賊王”とまで謳われた。



「なるほど。それで急に“新しい真珠”が大量に現れたということは、帝国はまだ人魚狩りを続けているというわけか。……で、君たちに何の関係がある?」

「テンペストは我々の祖先だ。」

「当時テンペストと結ばれた人魚少女の名は――セイレーン・シーサイレン」

「俺たちは海賊王の末裔――その者が守りし財宝を奪われし者たちだ」

「帝国の船は強い。我々では太刀打ちできなかった……目の前で彼女たちが攫われるのを、ただ見ていることしかできなかった」

デンジャラスは地面に膝をつき、悔しさに拳を叩きつける。

ラブリーは静かに涙を流し――それは、黒い真珠となって転がった。

なるほど。 海賊王の財宝は、“この海の人魚たち”か。

……帝国に奪われた、“海の自由”そのもの。

彼らはそれをこの手で取り戻そうとしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...