まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
95 / 190
第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い

第86話:この街には、心がない――帝国、入港

しおりを挟む
キャプテン魔王が海賊たちを狩りまくっていた頃――

セリナたちの船は、特に何事もなく帝国の港へ到着していた。

道中の海賊たちは……もうすでに“駆除”されたのかもしれない。

「陸だーっ! 揺れない地面って……最高……」

レン、完全復活。航海の間じゅう、彼女にとっては拷問でしかなかった。

「帰りも船を使いますのよ? ふふふ……」

モリアの一言で、レンの顔がさらに青くなった。

「皆さん、ありがとうございました! 帰りもよろしくね!」

マリは笑顔で同人誌の箱を荷台に乗せ、即売会の会場へと向かっていった。

「お姉さんが全部おごるから、みんなは自由に帝国の街を楽しんでいいよ!」



「これが……帝国、ですか」

セリナの目に映る光景は、王国とはまるで違っていた。

一軒家はほとんどなく、代わりにそびえ立つのは十階以上ある高層ビル。

石畳の凹凸道ではなく、一直線に舗装された滑らかな公道。

馬車の姿はなく、魔力も使わず走る“車”と呼ばれる鉄の馬。

市場の屋台も見当たらない。

大規模なショッピングモールが、生活のすべてを担っている。

「まるで……異世界のようです」

セリナは小さくつぶやいた。



「お嬢さん方、ようこそ帝国の港へ。私、この街の案内人でございます」

町に入ると、老紳士が優雅な口調で話しかけてきた。

「あの、ここって……なんて名前の街なんですか?」

「帝国の港です」

「えっと……街の名前は?」

レンが首をかしげて尋ねる。

「帝国の港です。“複雑な名称”よりも、“機能性”を重んじるのが、我々帝国流の美学です」

淡々とした口調が、かえって不気味に感じられた。

「では、お嬢さま方、ご希望の行き先はございますか?」

「……なにか、美味しい食べ物が食べたいです」

セリナの希望に、老紳士は頷いた。

「かしこまりました。フードコーナーへご案内いたします」

だが――

セリナは、彼の笑顔の奥に“心”を感じなかった。

笑顔は社会が求めたからそうしている。

案内も、礼儀も、丁寧語も――

彼自身がそうしたいからではない。ただ、“正しいとされる行動”を選んでいるだけだ。

光にあふれているのに、どこか冷たい街だった。



「ホットドッグ……ハンバーガー……?」

レンが戸惑うメニューを眺めていると、白衣の料理人が応じた。

「肉、野菜、炭水化物。人間に必要な栄養素をすべて含みます。調理時間は約五分。非常に効率的です」

にこやかに話すが、その笑顔もまた、型通りの“正解”の表情にしか見えなかった。

「私はハンバーガーをお願いします」

「じゃあ、俺はホットドッグで」

「私は遠慮しますわ。カロリーが高すぎますもの。戦士でもない私が食べたら……太っちゃいますわ」

「ご安心くださいませ。こちらに“レディーセット”もご用意しております」

「……サービスはいいのは嫌いじゃないわ、だけど今回は遠慮します、ファーストフードは好みじゃありません。」

モリアは言葉だけ礼儀正しく、静かに断った。

「かしこまりました。まだのご来店お待ちしております。」笑顔が崩さない、まるで機械のような不気味さだ。

料理はすぐに運ばれてきた。が――

「うわ、油すごっ。あと塩辛すぎ……これじゃ全部同じ味じゃねぇか」

レンが渋い顔をする。

セリナは黙って口を動かした。

ハンバーガーを一口、もう一口。

食べ終えると、静かに立ち上がり、金を払い――

「ごちそうさまでした」

それだけ言って、店を出た。



「なんなんだこの町……みんなからくり人形みたいだ。まるで魔族にでも魂を抜かれたようだぞ」

レンのぼやきに、モリアは静かに応じた。

「これは帝国の“日常”ですわ。帝国は実力社会。性別や出自に関係なく、能力さえあれば誰でも認められます。

ですが――能力のない者には、“生きる場所”すらない」

モリアの目は、どこか冷めていた。

「だから、競争は過酷。最適化と効率化がすべてを支配する……それが帝国がここまで強くなった理由であり――

娯楽も、心も、生まれない砂漠となった理由でもありますわ」

セリナは、小さく首を横に振った。

「セリナは――この街が、嫌いです」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!

神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。 そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。 これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。  

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

いわゆる異世界転移

夏炉冬扇
ファンタジー
いわゆる異世界転移 森で目を覚まし、虫や動物、あるいは、魔物や野盗に襲われることなく 中規模な街につき、親切な守衛にギルドを紹介され さりげなくチート披露なパターンA。 街につくまえに知る人ぞ知る商人に 訳ありのどこぞの王族に会うパターンBもある。 悪役令嬢なるパターンCもある。 ステータスオープンなる厨二病的呪文もかなり初歩にでてくる。 ゲームの世界で培った知識が役に立つこともある、らしい。 現実問題、人はどうするか?

処理中です...