まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い

第84話:堕ちた明星は、恋を知る

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明けの明星。それは、かつて僕が持っていた最強戦士としての称号。

でも神魔大戦が終わってからは、活躍の場をなくした。

その後、パイモリアと小競り合いをしてはみたけれど……不毛な戦いだった。

だけど、僕は――あの毛玉と出会った。

僕を打ち負かし、一緒になりたいとすら言った。

ミカエルですら、そんなことは口にしなかった。

なのに、僕は……なんだか、嬉しかった。

毛玉には名前がなかった。

だから、僕は彼を“マスター”と呼んだ。

便利だし、響きもいい。

意味? 知らない。

その後の暮らしは楽しかった。

悪魔のパイモリアもいたのは気に食わないけど、

それより、マスターは僕を恐れず、対等に接してくれた。

普通のやつなら、その馴れ馴れしい態度で僕を不快にさせたかもしれない。

だけど、あれほど僕と戦いをした彼だからこそ、嬉しかった。

マスターと過ごすうちに、僕は人間の文化に馴染みはじめた。

人間の料理を口にした。

人間の勇者に助言を与えた。

人間の友達ができた。

――僕らしくないことをたくさんした。

でも、嫌じゃなかった。

今も、こうして人間の海賊ごっこをしてる。宝探しなんかして……。

神様が今の僕を見たら、『堕ちた明星』って叱るかもね。



「ルー、起きたか? ちょっと待って、ご飯はすぐだから」

勇者セリナ? いや、彼女は別行動中のはず。

そもそも、僕は彼女に真名を許していない。

「……マスター?」

今のマスターは人間の姿。

僕はどちらかというと元の毛玉の方が好き。

もふもふできるし、懐に抱きしめられるから。

「まったく、あの三バカ……誰一人として料理もできないとは」

マスターがフライパンで目玉焼きを焼いていた。

テーブルには温めたミルクと焼き立てのパン。

お皿には、少し焦げたベーコン。

普段は勇者が料理をしているから気づかなかったけど、マスターも料理できるんだ。

「いやいや、すまねぇな兄ちゃん。俺たちまでご相伴にあずかるとは……」

「ほんと、いい男ね。もうちょっと若ければ、あたいがお婿さんにしちゃってたかも♡」

「くだらないこと言ってないで、食器を出しなさい。そこのガキ、皆が揃うまでパンに手を出すな。まったく、これだから人間は」

これが最近、僕たちの朝の日常。

三バカは人間だけど、面白いから会話を許してる。

さて、今日はどんな海賊船と出会えるかな――

僕は自分の席でパンを齧りながら、今日の冒険に思いを馳せていた。



「おっ、これはこれは、天使の坊主じゃねぇか」

海賊船をまだ見つけていない時間、僕は船長室に遊びに来た。

そこには三バカの父――デンジャラスが操縦席に座っていた。

「これで船を運転できるの? 僕もやりたい」

「いや、これは素人には……」

「僕は全能のルキエルだよ? 僕にできないことなんてない」

僕は舵を握った。

ちょっと楽しいかも。

「坊主!! その先は暗礁があるぞ! 船を回避させろ、沈む!!」

暗礁? このルキエル様の進む道を阻むとは、傲慢の極みだ。

「明星よ、堕ちよ」

僕は手を開き、明星の光で前方の海域を消し飛ばした。

「マジか……」

ふふ、見たか。

このルキエル様の辞書に“不可能”の文字はない。

「ルー……それ、極地に向かってる。そこには海賊いないから」

――しかし、マスターに止められた。



暇つぶしに、僕は三バカの姉・ラブリーの部屋に立ち寄った。

「ナマズかわいいよ~クンカクンカ……」

ふんどしの匂いを嗅いでいる変態がそこにいた。

「違うのよ、これは弟の成長を確認するための、ほら、姉として当然の――」

「……僕は何も聞いてないよ」

慌ててふんどしを引き出しに押し込むラブリー。

「そうよ、あだいは少年と弟が大好物だよ、悪い、あだいは正直に生きたいだけ、それは何が悪い。」

いくら僕でもわかる、悪い、すごく。

「ナマズに半ズボンを着せて、それを脱がす妄想だけで白飯三杯いけるの……

そうだ、天使くんも少年じゃ――ひっ!?」

気持ち悪いので、ロンギヌスを無意識に構えていた。

「す、すみません、調子に乗りすぎました……」

――あっけなく降参。つまらない。



「あっ! エンジェルマンだ!」

それもしかして僕のこと?

三バカの弟、ナマズが僕を見つけて駆け寄ってきた。

今そのふんどしも、姉に狙われていると知らずに……。

「なに? 僕に用事?」

「うん、すごい本を手に入れたんだ。一緒に見ようよ!」

彼に聞くと、前の僕たちの船の商品から一冊盗みだしたらしい。手癖悪い、まあ、海賊だから当たり前か。

「大人しか見ちゃダメな本なんだ。うわさのエロ本ってやつ! 俺は初めてでちょっと緊張してるけど、同い年の仲間が一緒なら心強い!」

僕の年齢を数値化したら、君はひくだろうな。

でも、ちょっと気になる……禁忌ほど破りたくなる。

僕たちは倉庫の奥で、その本を開いた。

「なんじゃこりゃ!」

三バカ弟が叫びだした。

美女の裸などいない。

そこに描かれていたのは――

「な、なんでそんな所にチ●コが入ってんの!? そこ、う●こする所だろ!?」

男同士がお互いを責めまくっているシーンしかない。

人間にしてはセンスが悪くない。

くだらない女裸をみるよりまし。

……あ!これちょっとミカエルとガブリエルと似ているかも。

「なんで興味津々で読んでるの?」

「面白いからだけど?」

「うわぁぁ! 俺の尻狙われてる!? 俺は初めては女の子がいい!助けて! ねえちゃーん!!」

泣きながら逃げ出すナマズ。

僕は人間の体に興味はない。

……汚らわしい。

でも、マスターとなら……?

ちょっと僕とマスターをそのシチュエーションに代入した。

そして。

「ぷっ……」

なんだか急に恥ずかしくなった。

でも、嫌じゃなかった。

その日、僕はその本を何度も読み返した。

今まで考えたこともなかった。

マスターと、もっと先の関係になること。

「ルー、一日見ないと思ったら、こんな所にいたか」

「マスター……?」

「顔が赤いぞ。どうした? 知恵熱か?」

「マスター……僕のこと、好きか?」

「今さらだね。好きじゃなければ、こんな長い時間付き合えないよ」

僕は――怖いくらい心拍数が上がった。

いつの間にか空へ飛び出して、逃げていた。

嬉しい。

そして、切ない。

でも……

嫌じゃない。
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