30 / 67
本編
30、息子さんを下さい
しおりを挟む目の前には、よくいる平凡な顔の中年男性。
奥さんのセンスがよくわかる。部屋着に着替えてはいたがとても清潔感がある、さわやかな中年だ。俺の愛おしい人に似てなくもないが、やはり母親似なのだろう。
その人は俺に向かって、血管が浮き出るくらいピキピキと顔を引き攣らせて、怒鳴ってきた。
「ま、ま、ま、正樹は、まだやら――ん!!」
「ぱ、パパぁ!?」
奥さんの百合子さんが、そんな声をだした夫に驚いていた。正樹からはとても穏やかな父親だと聞いていたし、実際普段は穏やかなのだろう。
やはり正樹に似ているかもしれない、穏やかだけど、直情的なところは父親の影響かなと、冷静に分析をしていた。
そして俺がこの家に波乱を巻き起こしたらしいことを、瞬時に察知した。
***
ここ最近、正樹に放課後会うことを断られている。
理由を聞いてもゴニョゴニョと言うだけ、家で何かしているのかと思い、夕飯時だったがどうしても会いたくて、そしてご両親からも交際の許可をとりたくて、あえてこの時間に手土産を持ち、身だしなみも今までにないくらい気をつけて、正樹の家、真山家に訪問したのだった。
事前に百合子さんには、ご両親にこれから大事な話があるので伺わせてくださいと連絡した。そして訪問するも正樹もこの家の主もまだ帰っていなかった。
「司君、ごめんなさいね。正樹、お友達と遊んでいて帰りが遅くなるみたいなの」
「友達と?」
「ええ、あの子ゲームでもしているんだと思う。ふふ、司君はそういうことしなさそうだから誘えなかったんじゃないかしら」
正樹は誰といるのだろう。あまりしつこく聞いても嫌われそうだからこっそり調査するとしよう。
「俺が、もっと正樹を楽しませてやる能力があったら良かったのですが……」
「何言っているのよ! 司君はもうそこにいるだけでいいのよ。でもびっくりだわ、正樹の近くにこんな素敵な男の子がいるなんて、二人は順調かしら?」
「愛しています」
「きゃっ! オレサマ?スパダリ?ヤンデレ? あぁ私の息子がまさかのそんなおいしい展開に!? いったいどのパターンかしら……もぉ、ゆりこ想像だけで妊娠しそうだわ」
俺は正樹に恋しているを通り越して、愛しているということを伝えたら、百合子さんが真っ赤な顔で妊娠といった。正樹に兄弟? 可愛いだろうな。
「えっ、まさかご懐妊したか、そんな時にすいません」
「ご、ごほんっ、ち、違うのよ。ちょっと夢の世界にトリップしていただけ、ごめんなさいね」
さすが正樹の母親だ、親子揃って起きながらに夢の世界へ行けるとは、まあ俺もよからぬ方向に思考が飛んでいたので問題なかった。
「突然すいません、お父様がお帰りになったらお二人に挨拶をしようと思っていました。報告が遅くなりましたが、正樹とお付き合いさせていただいております」
「えっ、二人はもう正式に?」
百合子さんは驚いた顔をした。
「はい、俺はずっと正樹に片思いでしたが付き合うことにもなったし、番になりたいと先日言いました」
「ええ!? 司君がうちの正樹に片思い、だったの!? つ、つがい!? まあまあ!! そんなミラクルあるのね」
ミラクル、それは俺のセリフだった。一生で出会えるか、わからないような奇跡の人に巡り会えたのだから!! この熱い思いを伝えたい!
俺は百合子さんの手を握り熱弁した。
「俺は正樹に一生の伴侶になってもらいたいと思っています。あんなに素晴らしい人に会ったのは初めてです、百合子さん、正直で優しくて可愛い、最高の男を産んでくれて育ててくれて、本当に感謝しています」
「あら、私こそ感動だわ。そんなもう嫁に出すみたいな、そんな真剣な感じ? 司君、こちらこそあの子をそこまで思ってくれてありがとう」
百合子さんも俺の手を握り返し、お互いに同意しあえたところ、リビングのドアが開き、そこに呆然とする男がいた。
「な、な、なんだ!! お前は、うちの百合ちゃんの手を握るとは!!」
「まあ、いやだわ。私ったらつい司君と手を繋いじゃった、きゃっ、今更ながら恥ずかしいっ」
「ゆ、百合ちゃん。今すぐ離れなさい!!」
「あら、和樹君。この子は正樹を前に助けてくれた司君よ、ほらほら、まずは着替えてきてね!」
百合子さんは俺の手を離して、旦那さん……正樹の父親であろう男性のもとへ行き、すぐさまリビングから追い出した。
「ふふ、ごめんなさいね。パパったらあわてちゃって。可愛いんだから! 司君、あの人が正樹の父親よ。正樹はまだ居ないけど私達夫婦に話があったのよね、さっきのお付き合いのことかしら?」
「はい、ご両親にきちんとご報告をしてから、番の許可もいただき、正樹と今後のことを真剣に向き合いたいと思っております」
「ふふふ、真面目ね」
正樹の父親に挨拶する間もなく、百合子さんに追い出されてしまったが。着替えたらすぐに降りてくるとのことだったので、俺はいつになく緊張してその時を待った。
そして着替えてきた男性が来た途端、俺は挨拶をした。いや、緊張のあまり挨拶を忘れた。
「息子さんを、俺にください!!」
「ま、ま、ま、正樹は、まだやら――ん!!」
そして冒頭に戻るわけだ。
116
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【本編完結済】巣作り出来ないΩくん
こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。
悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。
心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
36.8℃
月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。
ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。
近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。
制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。
転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。
36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。
香りと距離、運命、そして選択の物語。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる