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19 契約結婚の裏側で
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「潤、急げよ」
「うん、でもこれ難しくて」
教会の控室では、潤は着慣れない婚礼衣装にてこずっていた。白のスーツなんてベタな服を着る日がくるとは思いもしなかった潤は、健吾とお揃いのスーツに少しだけにやけてしまう。
そして向かいの席には、黒いスーツをしっかりと決めている健介が二人を見て笑っていた。
「まさか、家族みんなで結婚式を挙げるとはな」
健介の言葉に、潤は嬉しそうに父に抱きつく。
「ふふ、お父さん驚いた? 僕からの二人への結婚祝いは、この挙式だよ。それなのに、まさか健吾も結婚式したいとか言うから、もう!」
世間的に公表できないにしても、これから生まれてくる弟と家族になった梨香子に、真実の思い出を潤は残してあげたかった。今日二組のカップルは、本来の相手と指輪の交換をする。婚姻届けはその後に出しに行くことに決めていた。書いてある内容は真実とは違うが、四人の中では納得済みだ。
梨香子に結婚式の提案をすると、彼女は泣いて喜んだ。
この結婚式を二人で決めた時に、健吾は潤と「結婚をしたい」と言ってきた。家族だけが承認となるささやかなものだけど……と話す健吾に、潤は涙を流した。正式な書類があるわけではない。ただ家族に見守られて結婚式を挙げる。それが世の中には認められていない二人の結婚を意味する。
男同士で結婚……その考えがなかった潤だが、実は健吾はずっと意識していたと言う。いつか父親に話して二人の仲を公にして結婚式で愛を誓う。それが彼の夢だと聞いたとき、潤は微笑んだ。
(義理の兄が結婚を意識したとき、僕は……)
潤は考えていた。父の病気のことがなかったとしても、この提案を、プロポーズを受け入れたと思う。健吾が潤の人生にけじめをつけたいと言った時、潤もそうしたいと思った。父に二人で話す未来が簡単に想像できていた。
(結局これが、僕の全て)
そんなことを考えていると、花嫁の準備が整ったと係の人が知らせにくる。お腹が大きくても目立たない豪華なウェデングドレスを身にまとった彼女が待っている教会へと、男三人向かった。
そこには指輪が二組あった。
健介と梨香子、そして健吾と潤がおそろいの指輪をする。ここに、正式な戸籍には載らない、二組の夫婦が生まれるのだ。真実は自分たちだけが知っていればいい。愛の深さは誰よりも皆が相手に対して強かった。
誰にも秘密にしてほしいと教会に頼み、四人で式を挙げるのだ。理解のある神父が、快く引き受けてくれた。まずは健介と梨香子が神父の導きにより、誓いの言葉と口づけを交わす。健吾と潤は一番前の席に二人で手を繋いで座って、その厳かな式を見ていた。
教会の十字架がステンドグラスから透けて外の光が入り込む。その光が、彼らを祝福するかのように、キラキラと輝いていた。
潤は涙が溢れてくる。愛してやまない父の幸せな姿。彼の最後を受け入れた美しい女性。そこには言い表せないほどのの愛が詰まっていた。
「健吾……」
「ああ」
二人は言葉を交わさずとも、それまでに流れてきた年月で想いを握った手に込めていた。目の前にいる二人はとても幸せそうに笑っていた。指輪の交換の時には、梨香子が涙を流していた――とても綺麗だった。
「さぁ、次はお前たちの番だよ」
前に立つ父から声がかかる。健介は梨香子の手を優しくとり、大きなお腹を守るように椅子に座らせ、自分も席に着く。
健吾が立ち上がり、座っている順に手を差し出す。
「潤、俺と結婚してください」
「……はい」
潤は涙を流して、彼の真摯な眼差しに感極まった。この言葉を貰えることに、潤は心から喜びを感じていた。健吾に手を引かれ、二人は神父の前に立ち向き合う。神の前で、そして最愛の父とこれから家族になる梨香子の前で、二人は永遠の愛を誓った。
「お前の命尽きるまで、愛し続ける」
「僕も、命が尽きるその時まで、あなたを愛すると誓います」
潤の瞳からはまた雫が零れる。それをそっと健吾が指で拭うと、その指が少しだけ震えていたのを潤は知ってしまった。潤同様に、この神聖な時を健吾も深く感じていたのだ。
誓いの言葉の後に、神聖なキスをした。きっと四人にとって、今が一番光り輝いて幸せな瞬間なのだと潤は思っていた。
これから始まる「契約結婚」その裏側では二組の純粋な愛による結婚式が行われていた。これこそが真実。ただ裏側では人には言えない事情があっただけ。そんなことは、当人たちが知って入ればいいこと。
確実にこの日、この場所は愛に包まれていた。
その幸せな日から、健介は予定よりも永らえ、無事に生まれてきた息子を見てから息を引き取った。
健介は家族に見守られこの世を去ったのだった。
「うん、でもこれ難しくて」
教会の控室では、潤は着慣れない婚礼衣装にてこずっていた。白のスーツなんてベタな服を着る日がくるとは思いもしなかった潤は、健吾とお揃いのスーツに少しだけにやけてしまう。
そして向かいの席には、黒いスーツをしっかりと決めている健介が二人を見て笑っていた。
「まさか、家族みんなで結婚式を挙げるとはな」
健介の言葉に、潤は嬉しそうに父に抱きつく。
「ふふ、お父さん驚いた? 僕からの二人への結婚祝いは、この挙式だよ。それなのに、まさか健吾も結婚式したいとか言うから、もう!」
世間的に公表できないにしても、これから生まれてくる弟と家族になった梨香子に、真実の思い出を潤は残してあげたかった。今日二組のカップルは、本来の相手と指輪の交換をする。婚姻届けはその後に出しに行くことに決めていた。書いてある内容は真実とは違うが、四人の中では納得済みだ。
梨香子に結婚式の提案をすると、彼女は泣いて喜んだ。
この結婚式を二人で決めた時に、健吾は潤と「結婚をしたい」と言ってきた。家族だけが承認となるささやかなものだけど……と話す健吾に、潤は涙を流した。正式な書類があるわけではない。ただ家族に見守られて結婚式を挙げる。それが世の中には認められていない二人の結婚を意味する。
男同士で結婚……その考えがなかった潤だが、実は健吾はずっと意識していたと言う。いつか父親に話して二人の仲を公にして結婚式で愛を誓う。それが彼の夢だと聞いたとき、潤は微笑んだ。
(義理の兄が結婚を意識したとき、僕は……)
潤は考えていた。父の病気のことがなかったとしても、この提案を、プロポーズを受け入れたと思う。健吾が潤の人生にけじめをつけたいと言った時、潤もそうしたいと思った。父に二人で話す未来が簡単に想像できていた。
(結局これが、僕の全て)
そんなことを考えていると、花嫁の準備が整ったと係の人が知らせにくる。お腹が大きくても目立たない豪華なウェデングドレスを身にまとった彼女が待っている教会へと、男三人向かった。
そこには指輪が二組あった。
健介と梨香子、そして健吾と潤がおそろいの指輪をする。ここに、正式な戸籍には載らない、二組の夫婦が生まれるのだ。真実は自分たちだけが知っていればいい。愛の深さは誰よりも皆が相手に対して強かった。
誰にも秘密にしてほしいと教会に頼み、四人で式を挙げるのだ。理解のある神父が、快く引き受けてくれた。まずは健介と梨香子が神父の導きにより、誓いの言葉と口づけを交わす。健吾と潤は一番前の席に二人で手を繋いで座って、その厳かな式を見ていた。
教会の十字架がステンドグラスから透けて外の光が入り込む。その光が、彼らを祝福するかのように、キラキラと輝いていた。
潤は涙が溢れてくる。愛してやまない父の幸せな姿。彼の最後を受け入れた美しい女性。そこには言い表せないほどのの愛が詰まっていた。
「健吾……」
「ああ」
二人は言葉を交わさずとも、それまでに流れてきた年月で想いを握った手に込めていた。目の前にいる二人はとても幸せそうに笑っていた。指輪の交換の時には、梨香子が涙を流していた――とても綺麗だった。
「さぁ、次はお前たちの番だよ」
前に立つ父から声がかかる。健介は梨香子の手を優しくとり、大きなお腹を守るように椅子に座らせ、自分も席に着く。
健吾が立ち上がり、座っている順に手を差し出す。
「潤、俺と結婚してください」
「……はい」
潤は涙を流して、彼の真摯な眼差しに感極まった。この言葉を貰えることに、潤は心から喜びを感じていた。健吾に手を引かれ、二人は神父の前に立ち向き合う。神の前で、そして最愛の父とこれから家族になる梨香子の前で、二人は永遠の愛を誓った。
「お前の命尽きるまで、愛し続ける」
「僕も、命が尽きるその時まで、あなたを愛すると誓います」
潤の瞳からはまた雫が零れる。それをそっと健吾が指で拭うと、その指が少しだけ震えていたのを潤は知ってしまった。潤同様に、この神聖な時を健吾も深く感じていたのだ。
誓いの言葉の後に、神聖なキスをした。きっと四人にとって、今が一番光り輝いて幸せな瞬間なのだと潤は思っていた。
これから始まる「契約結婚」その裏側では二組の純粋な愛による結婚式が行われていた。これこそが真実。ただ裏側では人には言えない事情があっただけ。そんなことは、当人たちが知って入ればいいこと。
確実にこの日、この場所は愛に包まれていた。
その幸せな日から、健介は予定よりも永らえ、無事に生まれてきた息子を見てから息を引き取った。
健介は家族に見守られこの世を去ったのだった。
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