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第2章
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部屋に朝日の淡い光が次第に広がっていく。
意識が覚醒する前から、肌がふれるシーツの質感や空気の温度が、ここが「カイル」の部屋であることを告げていた。
俺がもうこの光景に驚くことはない。
目を覚ますたびに「ここは異世界で、自分はカイルであり、レイ=エヴァンスの伴侶である」という現実が当たり前になりつつある。
……それでもふとした瞬間に「え、待てよ?」と冷静なツッコミが脳内をよぎるあたり、完全に馴染めてはいないんだけどな。
「推しが夫って、何度考えても重すぎるんだよ……!」
俺──いや、カイルの記憶が戻ってからしばらく経つ。
「元の俺」と「カイル」としての自分は、ゆるやかに溶け合い始めていた。
現代社会の記憶が消えたわけではなく、まるで別のファイルが脳内に追加されたような感覚。
カイルとしての経験、知識、感情はリアルに残っている。
レイとの出会いも、伴侶となるまでの過程も──すべて覚えている。
けれど、それを思い出すたびに「レイ=エヴァンス」という推しへの熱狂が顔を出すのだから、ややこしいにもほどがある。
この感情こそがどっちかに……いや、カイル寄りに統合されてくれないと……といっても、俺は顔にこそ出してはないかったと思うし、冷静装ってはいたけれど、レイのことは小さなころから大好きであって、内心は恋に恋するという感じではあったのだ。
なのでどっちに寄せたところで変わりはしないのかもしれない。
「しっかし最推しが愛情を注いでくるのは正直嬉しい。けどさ、もうちょいこう、心臓に優しくできないかな……」
あの冷徹無比で、作中でもほとんど微笑まなかったレイが、ことあるごとに俺を気遣い、見つめ、触れてくる。
そのたびに脳内で「何事!?!?!?」と警報が鳴るのは仕方がないだろう。
しかも──
「最近レイが『体調が整ってきたなら、寝室を元のように一緒にしたい』とか言い出してるんだよな……」
起き上がり室内を見回す。
この可愛らしい部屋、いまは俺が一人で使っている。
事故の後、療養のために別々の寝室になったのが理由だったはずだけど……最近レイの方からやけに「そろそろ戻さないか」とアプローチが激しくなってきている。
いや、カイルとしての記憶がある以上、夫婦で一緒に寝るのは「当たり前」の感覚なんだろうけど、俺にとってはまだハードルが高いんだよ……!
そもそも寝室を戻したら。あれがあるわけだろあれが。夜の生活的なあれが!
そりゃ、夫婦だもんな。あるよな。あったしなー!
「……そんな生活が日常化してしまったら命がもたんって」
レイはこうやってさらっと爆弾を投げ込んでくるのが彼の恐ろしいところだ。
しかも「無理なら無理でいい」とか言いつつ、あの寂しげな目をしてくるんだからタチが悪い。
「いや、あんな目されたら断れないっての……」
ベッドの端に座り込み、天井を仰ぐ。
現代社会にいたころの「推し尊い!尊死~!」という気持ちとカイルとしての「伴侶として当然のことだ」という感覚と混じり合う。
俺、前はどうやってレイと一緒に寝てあんなことしてたっけ……もう想像もつかん。
思い出すだけで恥ずかしさに汗がにじむわ。しかし、
──そろそろ覚悟を決めるしかないのかもしれない。
ぐだぐだとしている俺に向かって、ベッドの端で寝ていたリリウムが「にゃあ」と鳴いた。
「リリウムさんは呑気でいいねぇ……」
俺がそう言うと、また「にゃあ」と鳴いてくるっと回り寝てしまう。
「はぁ……」
そんな元凶のレイは領地の視察と執務で朝から城下町に出かけている。
昼頃には戻るらしいが、それまでは一人でのんびり過ごせる時間だ。
「まあ、ね……平和な時間って貴重だよな……」
立ち上がり窓辺に寄る。
眼下に花壇の花々を見ながら、そんなことを考えていた。
カイルとしての記憶によれば、この屋敷での生活はずっと穏やかだった。
この地は森林に山脈や森林に囲まれた自然的な要害となっていることもあり、その上でフランベルクの領内は『鍵』が発動する結界により守られており、フランベルクに害意を為す存在は立ち入れない仕組みになっている。
とはいえ、領を出れば魔物が居たりとするので、レイはその討伐として剣を振るい、領主としても多忙な日々を送る一方で、俺はそれを支える役割に徹していた。
……はずなんだけど。
「今はゆっくりと休め」
その一言で俺は休暇中であり、ごくごく簡単な事務仕事しかさせてもらえない。
もう少し役に立ちたいという気持ちが大きいのだが……。
何せ社畜で養ったスキルもあるわけだし。
ただ、ちょっと気になっていることがある。
未だに先日の事件(あれは一種の政変と言うやつかもしれないが)の調査が続けられていることだ。
叔父の仕業だったことは、もうわかっている。
それなのにレイは、まだ何かを調べているらしい。
「……もう黒幕は判明してるのに、なんで調査を続けてるんだ?」
直接レイに聞いても、きっと「必要だから」としか言わないだろう。
推しの性格はよくわかっているつもりだ。
「やっぱり、まだ何か裏があるのか……?」
レイがここまで徹底して動く理由が気になる。
──とはいえ、俺が首を突っ込むべき話ではないかもしれない。
「……まあ、考えても仕方ないか」
とりあえず、俺がするべきことは庭を散歩して気分転換することくらいだ。
レイが戻ってくるまでは、穏やかな時間を楽しもう。
意識が覚醒する前から、肌がふれるシーツの質感や空気の温度が、ここが「カイル」の部屋であることを告げていた。
俺がもうこの光景に驚くことはない。
目を覚ますたびに「ここは異世界で、自分はカイルであり、レイ=エヴァンスの伴侶である」という現実が当たり前になりつつある。
……それでもふとした瞬間に「え、待てよ?」と冷静なツッコミが脳内をよぎるあたり、完全に馴染めてはいないんだけどな。
「推しが夫って、何度考えても重すぎるんだよ……!」
俺──いや、カイルの記憶が戻ってからしばらく経つ。
「元の俺」と「カイル」としての自分は、ゆるやかに溶け合い始めていた。
現代社会の記憶が消えたわけではなく、まるで別のファイルが脳内に追加されたような感覚。
カイルとしての経験、知識、感情はリアルに残っている。
レイとの出会いも、伴侶となるまでの過程も──すべて覚えている。
けれど、それを思い出すたびに「レイ=エヴァンス」という推しへの熱狂が顔を出すのだから、ややこしいにもほどがある。
この感情こそがどっちかに……いや、カイル寄りに統合されてくれないと……といっても、俺は顔にこそ出してはないかったと思うし、冷静装ってはいたけれど、レイのことは小さなころから大好きであって、内心は恋に恋するという感じではあったのだ。
なのでどっちに寄せたところで変わりはしないのかもしれない。
「しっかし最推しが愛情を注いでくるのは正直嬉しい。けどさ、もうちょいこう、心臓に優しくできないかな……」
あの冷徹無比で、作中でもほとんど微笑まなかったレイが、ことあるごとに俺を気遣い、見つめ、触れてくる。
そのたびに脳内で「何事!?!?!?」と警報が鳴るのは仕方がないだろう。
しかも──
「最近レイが『体調が整ってきたなら、寝室を元のように一緒にしたい』とか言い出してるんだよな……」
起き上がり室内を見回す。
この可愛らしい部屋、いまは俺が一人で使っている。
事故の後、療養のために別々の寝室になったのが理由だったはずだけど……最近レイの方からやけに「そろそろ戻さないか」とアプローチが激しくなってきている。
いや、カイルとしての記憶がある以上、夫婦で一緒に寝るのは「当たり前」の感覚なんだろうけど、俺にとってはまだハードルが高いんだよ……!
そもそも寝室を戻したら。あれがあるわけだろあれが。夜の生活的なあれが!
そりゃ、夫婦だもんな。あるよな。あったしなー!
「……そんな生活が日常化してしまったら命がもたんって」
レイはこうやってさらっと爆弾を投げ込んでくるのが彼の恐ろしいところだ。
しかも「無理なら無理でいい」とか言いつつ、あの寂しげな目をしてくるんだからタチが悪い。
「いや、あんな目されたら断れないっての……」
ベッドの端に座り込み、天井を仰ぐ。
現代社会にいたころの「推し尊い!尊死~!」という気持ちとカイルとしての「伴侶として当然のことだ」という感覚と混じり合う。
俺、前はどうやってレイと一緒に寝てあんなことしてたっけ……もう想像もつかん。
思い出すだけで恥ずかしさに汗がにじむわ。しかし、
──そろそろ覚悟を決めるしかないのかもしれない。
ぐだぐだとしている俺に向かって、ベッドの端で寝ていたリリウムが「にゃあ」と鳴いた。
「リリウムさんは呑気でいいねぇ……」
俺がそう言うと、また「にゃあ」と鳴いてくるっと回り寝てしまう。
「はぁ……」
そんな元凶のレイは領地の視察と執務で朝から城下町に出かけている。
昼頃には戻るらしいが、それまでは一人でのんびり過ごせる時間だ。
「まあ、ね……平和な時間って貴重だよな……」
立ち上がり窓辺に寄る。
眼下に花壇の花々を見ながら、そんなことを考えていた。
カイルとしての記憶によれば、この屋敷での生活はずっと穏やかだった。
この地は森林に山脈や森林に囲まれた自然的な要害となっていることもあり、その上でフランベルクの領内は『鍵』が発動する結界により守られており、フランベルクに害意を為す存在は立ち入れない仕組みになっている。
とはいえ、領を出れば魔物が居たりとするので、レイはその討伐として剣を振るい、領主としても多忙な日々を送る一方で、俺はそれを支える役割に徹していた。
……はずなんだけど。
「今はゆっくりと休め」
その一言で俺は休暇中であり、ごくごく簡単な事務仕事しかさせてもらえない。
もう少し役に立ちたいという気持ちが大きいのだが……。
何せ社畜で養ったスキルもあるわけだし。
ただ、ちょっと気になっていることがある。
未だに先日の事件(あれは一種の政変と言うやつかもしれないが)の調査が続けられていることだ。
叔父の仕業だったことは、もうわかっている。
それなのにレイは、まだ何かを調べているらしい。
「……もう黒幕は判明してるのに、なんで調査を続けてるんだ?」
直接レイに聞いても、きっと「必要だから」としか言わないだろう。
推しの性格はよくわかっているつもりだ。
「やっぱり、まだ何か裏があるのか……?」
レイがここまで徹底して動く理由が気になる。
──とはいえ、俺が首を突っ込むべき話ではないかもしれない。
「……まあ、考えても仕方ないか」
とりあえず、俺がするべきことは庭を散歩して気分転換することくらいだ。
レイが戻ってくるまでは、穏やかな時間を楽しもう。
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