社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし

文字の大きさ
18 / 57

16

しおりを挟む
暖かな陽光がカーテンの隙間から差し込んでくる。
気がつけば、俺はふかふかのベッドの上で横になっていた。

「……寝てた……?」

ゆっくりと上体を起こすと、身体が少し重い。
でも、昨日の疲労感はずいぶんと和らいでいる。
にゃあ、とリリウムが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

「……リリウム、俺を心配してお前もあっちに来てくれたのか?」

頭を撫でるとリリウムはまた、にゃあ、と鳴く。

「起きたか」

窓の方からレイの声がした。
俺はそちらを見る。……不思議な気分だった。
俺は俺でレイはレイで……うん。まあ……それだけで十分なんだけどね。

「レイ……」
「カイル」
歩み寄るレイの表情は穏やかだけど、眉間にはわずかな皺が寄っている。
「……何か、あった?」
「……お見通しか。昨夜の残滓がまだ残っている……」
レイは窓の外を示す。そこには、微かに漂う黒い影のようなものがあった。
まだ消えていない――昨夜の名残。
「俺にしか消せないやつだね?」
そう言うと、レイの目が申し訳なさそうに伏せられた。
「すまない……」
低く落とされた声に、俺は思わずくすりと笑う。
その音に、レイは少しだけ驚いたように目を細める。
「馬鹿だなレイは……一緒に守るって約束したよ」
冗談めかして肩をすくめると、次の瞬間、レイは俺の腕を引き寄せて強く抱きしめた。
ふわりと、レイの髪から優しい香りがする。
「……ありがとう、カイル」
耳元で囁く声が震えている気がしたのは、きっと気のせいじゃない。
リリウムが足元で「にゃあ」と控えめに鳴く音だけが、静かな部屋に響いていた。


澄んだ朝の空気が屋敷に広がっている。
窓から差し込む朝日が、昨日の戦いの跡を静かに照らしていた。

「……結構しつこいね」

中庭の噴水の前、レイと俺、そしてエミリーが立っていた。
戦いの後、アルベルトの呪いそのものは浄化されたが、その「残滓」――黒い気配だけは、まだ地面の奥底に微かに残っている。

「昨日の結界でカイルは守った。でも、これを放っておけば、また何かが生まれるかもしれない」

レイがそう呟くと、エミリーが静かに頷いた。

「黒い残滓は、まさしく呪いの『欠片』……このままでは土地に悪影響を及ぼしかねません」
「これを消せばいいんだよな?」

俺がそう言うと、レイが俺を一瞥し、少し躊躇うように言葉を選ぶ。

「だが、それは……お前の体力や魂を削るかもしれない。危険な儀式だ」

危険――その言葉が頭をよぎるけれど、俺の心は不思議と静かだった。

「……レイ、俺なら大丈夫だ」
「カイル――」

「これが俺の役割……誓ったんだ。俺はレイと一緒に、この地を守るって」

レイは何かを言いかけて、ぐっと唇を噛みしめる。
それから、強く俺の手を握りしめた。

「お前を信じる」
「ありがとう」

俺は胸元のペンダントを握りしめる。昨日の光が、まだかすかに残っている。
――俺はもう分かっている。これは俺に与えられた力だ。そして、俺だからこそ、やり遂げなければならない役目だ。

「大丈夫。俺ならできる」

レイが一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいつものように真っ直ぐな瞳で俺を見る。

「……お前なら、大丈夫だ」

その言葉に勇気をもらい、俺は中庭の中央――噴水の前へと進んだ。
ペンダントが再び光を放ち始める。それに呼応するように、地面に残った黒い残滓が動き始める。

「カイル!集中しろ!」

レイの声が後ろから聞こえる。俺は目を閉じ、意識を光に集中させる。

――レイと誓い合った、俺の役目。
――あの世界を経て俺自身が選んだ、ここを守るという決意。

光がペンダントから溢れ出し、俺の周囲に広がっていく。
黒い残滓がその光に触れるたび、音もなく消えていく。

「……消えていく」

光はまるで風に乗る羽のように優しく、けれど確実に、闇を浄化していく。

「カイル!」

目を開けると、俺の周りにはもう黒い残滓はひとつも残っていなかった。
噴水の水面がキラキラと輝き、光が大地に満ちている。

「やった……!」

その瞬間、身体から力が抜け、俺はその場に崩れそうになった――けれど、レイがすぐに支えてくれる。
この力使うと疲労感半端ないな……。まあ、でも社畜をやった俺にはお茶の子さいさいですよ!……疲れるけどね。

「お疲れ様、カイル」

その言葉と同時に、彼の手が俺の頬に触れた。

「これで本当に、すべてが終わった」
「ああ……これで、やっと」

静かな朝日が、二人を包み込んでいく。
穏やかな風が中庭に吹き抜け、昨日までの緊張がまるで嘘のようだ。

「ありがとう、カイル。お前のおかげで、この地は救われた」
「違うよ、レイ……俺だけじゃない。レイがいたからだ」

俺がそう言うと、レイは静かに笑う。

「共に歩んでくれて、ありがとう」

――俺はカイルとして、そして「俺」として、ここで生きていく。
今までの自分も、今の自分も、全部が俺だ。
そして、これからも――レイと共に、この地を守っていく。

「カイル、これから先も――ずっと隣にいてくれ」
「……もちろん。俺は、レイの伴侶だから」

そう言いながら、俺はレイの手をしっかりと握り返す。
その瞬間、レイが微かに微笑み、少しだけ目を伏せた。
太陽の光が二人を優しく包み込み、吹き抜ける風がまるで祝福のように肌を撫でていく。

「……これからも、よろしく。レイ……」
「こちらこそ。お前がいれば、どんなことでも乗り越えられる」

レイの言葉に、俺の胸が温かく満たされていくのがわかる。
ただ、俺はこの時「全ては終わったのだ」と思い込んでいた。
この安寧が束の間の休息に過ぎないと気づくのは、もう少し後のことだ──。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

声だけカワイイ俺と標の塔の主様

鷹椋
BL
※第2部準備中。  クールで男前な見た目に反し、透き通るような美しい女声をもつ子爵子息クラヴィス。前世を思い出し、冷遇される環境からどうにか逃げだした彼だったが、成り行きで性別を偽り大の男嫌いだという引きこもり凄腕魔法使いアルベルトの使用人として働くことに。 訳あって視力が弱い状態のアルベルトはクラヴィスが男だと気づかない。むしろその美声を気に入られ朗読係として重宝される。 そうして『メイドのリズ』として順調に仕事をこなしていたところ、今度は『無口な剣士クラヴィス』としても、彼と深く関わることになってしまって――

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

処理中です...