娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます

めがねあざらし

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3、新しい侍女

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翌朝。
朝食を終えたエリオットは、執務机に向かいながら、まだ落ち着かない気配の中にいた。
皇妃として与えられた部屋、整えられた調度品、そして何よりシグルドの“気遣い”は完璧に近い。
だが、まだこの場所には“動き”が足りなかった。
リディアは有能だ。だが、彼女一人ではまだ慣れない部分が多い。
書類の整理はまだいい。公爵邸でもそれなりにあった。
しかしトラヴィス風の衣服の準備や、宮廷内部で必要な細かな気遣いは、圧倒的に足りない。
それも致し方がない話だ。彼女とてエリオットと同じくトラヴィスと言う土地は初めてなのだから。

「……僕もカバーがきくものでもないし……どうしたものか」

エリオットが独り言のように呟いたとき、部屋の扉が静かにノックされた。

「失礼します、エリオット様。ご紹介したい方をお連れしました」

そう言ってリディアが現れた後ろに、もう一人の女性が姿を見せた。
落ち着いた仕草で礼を取るその女性は、淡い栗色の髪をひとつにまとめ、清潔な制服を身にまとっていた。
年の頃は三十代半ばほどだろうか。穏やかな目元に、芯の強さを感じさせる佇まい。

「……はじめまして。メラニーと申します。以後、お見知りおきを」

その声には、どこか聞き覚えのある響きがあった。
それに——顔立ちも、妙に記憶を刺激する。鋭くはないが芯の強そうな瞳と、口元に浮かぶわずかな皮肉。
この“雰囲気”——どこかで見た気がする。

(この声……この面影……)

「もしかして……レオンの?」

思わず口にしたエリオットに、メラニーはふっと口角を上げた。

「ええ、あの不真面目な弟の、姉です。よくぞ見抜かれました。弟とは違って堅物だと思われるかもしれませんが、侍女としての経験は長くございます」
「それは……心強いですね」

エリオットは正直な気持ちを口にした。

「陛下のご配慮により、当面は私が“主侍女”として、リディアさんと共に務めさせていただくことになりました。リディアさんには、今後の儀礼や式典で必要な立ち居振る舞いも含めて、実地でお教えしながら進めてまいります」
「リディアのことを、どうか……よろしくお願いします」
「もちろんです。お二人のご負担にならぬよう、慎重に務めさせていただきます」

一歩下がったメラニーの姿に、エリオットはわずかに肩の力を抜いた。
自然な距離感と、空気の読み方——この人が側にいてくれることの心強さを、すでに感じていた。

(……本当に、気の利く人だな。陛下は)

「では、リディア。まずはメラニーから、色々と教わってみようか。僕も分からないことがあれば、遠慮なく聞かせてもらおう」
「はい、エリオット様!」

リディアが明るく頷く。その横で、メラニーも小さく会釈した。

「それではエリオット様。早速ではございますが午後のご予定について、簡単にご報告を」

「……お願いします」

エリオットが促すと、メラニーは手にした薄い手帳を開きながら、落ち着いた声で続けた

「本日は、非公式ながらも“宮廷内の重鎮方”とのご挨拶の機会が設けられております。場所は西棟の迎賓室にて、時刻は午後三時。お相手は——」

一度ページをめくり、確認する。

「宰相ゼスト・オルド大公閣下。そして、数名の重臣が同席される予定とのことです」

「……宰相?」

エリオットの声が少し強くなった。

「はい。陛下の信任厚く、事実上、政の采配を一手に引き受けておられる方です」

メラニーの声には、どこか慎重な色が滲んでいた。

「“非公式”とは……どういう意味?」
「宰相閣下との対面となると一般的には公の記録として残るものとなります。ただ、陛下の意向もあって、皇妃様に対し、あらかじめ“政の要”を紹介する場として設けられたものと思われます」

つまり、“建前抜きの顔合わせ”ということだろう。
エリオットは頷きながら、内心の緊張を飲み込む。

(……いきなりとは……僕を甘やかす気はないようだ)

正式な祝宴やお披露目の場もまだなのに、先に“政”の中枢と接触させられる。
それはシグルドがエリオットの能力を高く買っているともいえるが、試してるとも言える。
エリオットは小さく苦笑を漏らしてから、息をゆっくりと吐いた。

「……了解しました。準備をお願いします」
「かしこまりました。衣服の準備、警備の調整、すべて私の方で手配いたします」

そう言って頭を下げるメラニーの背に、エリオットは静かに問いかける。

「……ゼスト・オルドという人、君から見てどんな人物?」

エリオットの問いに、メラニーはわずかに目を伏せた。
言葉を選ぶように間を置き、静かに答える。

「有能です。ただ……読めません。仮面をつけていないだけの、仮面の人——そんな印象を受けました」
「……仮面、か」

軍事と権力をその両腕に抱えるこの国で、宰相という立場にある男。
警戒するに越したことはない。

(一筋縄でいかないだろうな……味方でなくとも敵でなければ上々といったところか……)

エリオットは小さく息を整え、顔を上げた。

「気を引き締めて、行きましょう」
「はい。いつでもお付き添いできますので、遠慮なくお申しつけください」

エリオットは、窓の外へと視線を戻す。
陽はすでに高く昇り、午後の約束が静かに近づいていた。




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