娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます

めがねあざらし

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4、三人の重鎮

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午後。
エリオットは深い青の正装に身を包み、メラニーとリディアに付き添われ、西棟の迎賓室へと向かっていた。
回廊を進むたび、従者たちが一斉に頭を下げる。
その一つ一つが、「皇妃としての存在」を形作っていくようだった。

「……緊張していらっしゃいますか?」

横を歩くメラニーが、穏やかに問いかける。

「……少し、ね」

エリオットは正直に答えた。

(“宰相”と呼ばれる相手と、対等に話す覚悟があるか。……たぶん、それを見られる)

アルヴィオンで立ち回りはしたものの、それは狭い界隈の中でのことだ。
こうして一国を動かすようなことに深くかかわった経験はない。
迎賓室の扉の前で、緊張を落ち着けるように、一度深呼吸をする。

「……入りましょう」

迎賓室は重厚な静けさに包まれていた。
ゆっくりと部屋へと足を踏み入れる。メラニーとリディアが付き添い、その後方に控える近衛たちが静かに門を閉めた。
室内にはすでに三人の男たちが揃っていた。

一人は、ゼスト・オルド大公。宰相として帝国の政を采配する男であり、シグルドの叔父でもある。白銀の髪に琥珀色の瞳を持つその姿は、冷ややかで隙がなく、まるで刃物のような鋭さを纏っていた。

その隣には、落ち着いた軍服を着た年配の男——ギュンター・ファルク。メラニーとレオンの父にして、元軍司令官。今は“帝国防衛顧問”として、後進の育成と非常時の助言を担っている。精悍な顔立ちに深く刻まれた皺は、幾度もの戦いをくぐり抜けた証だった。

最後の一人は、若く、そして異質な印象を放つ男——ロイ・セレスト。帝国の財務卿にして、最年少で大臣に就いた才子。まだ二十代半ばに見える年齢ながら、その双眸は老獪な策士を思わせる光を宿していた。

エリオットが定められた席につくと、ゼストが先に口を開いた。

「ようこそ、皇妃殿下。まずはご挨拶を。私は宰相、ゼスト・オルド。……ご存じかと思いますが、陛下の叔父にあたります」
「……お目にかかれて光栄です」

礼を返すと、ゼストは唇の端を僅かに上げた。笑っているというより、“反応を観察している”という表情だった。

「紹介しましょう。こちらは、ギュンター・ファルク防衛顧問。帝国軍の礎を築いた名将にして——あなたの侍女、メラニー嬢の父君でもある」
「……!」

エリオットが目を見開くと、ギュンターが無言で頷いた。厳しい目元は笑っていなかったが、その仕草に偽りはなかった。

「父は多くを語る性分ではありませんが、皇妃殿下のことは高く評価しておられます。……あの弟が推薦していたくらいですから」

メラニーが控えめに補足すると、エリオットは小さく笑った。

「……それは、光栄です」
「そしてこちらが、ロイ・セレスト卿。財務卿として、帝国の資金管理を担っている人物です」
「初めまして、皇妃殿下。ようやくお目にかかれました。実は、個人的にお会いしたかったのですよ」

ロイは礼儀正しく一礼しながらも、どこか軽やかな口調でそう言った。

「……僕に、ですか?」
「ええ。シグルド陛下がアルヴィオンに滞在されていた際の一部資料に、あなたの手が入っていたことを、私は見逃していませんよ」

エリオットは少し驚き、そしてすぐに納得する。

(……あのとき、陛下の依頼で整理を手伝った財政資料か)

王宮で保護されていたあの時期。
暇を持て余していたわけではないが、少しでも恩に報いるためと、勉強がてらに財政報告書の整理や指摘をほんの少し手伝ったことがあったのだ。

「無駄なく整えられた指摘。そして、収支の推移に対する合理的な予測……。殿下の分析は、極めて論理的で、感情に流されない。私にはそれが……非常に興味深かったのです」
「……過分なお言葉です」

エリオットは慎重に礼を返す。だが心の中では——

(これは……なかなかに……くるものがあるな)

わざわざ“非公式”という形式で呼ばれ、三名の重鎮を前に座らされる。それはつまり、“肩書き抜きで、個としての力量を見られている”ということだった。
ゼストが再び口を開いた。

「皇妃殿下。あなたがこの国でどのように立ち振る舞うのか、それは我々にとって極めて重要な関心事です。なにせ、あなたは“過去の王妃”とはまるで違う立ち位置にいる」
「……ええ、それは自覚しております」
「ならば、いずれ“公”の場に出る日までに、我々と情報を共有することを恐れないでいただきたい。“宮廷”は、個人の信頼から築かれる場所です」

その言葉に、エリオットは迷いなく頷いた。

「こちらこそ、学ばせていただくことが多いと思います。今後とも、どうかよろしくお願いいたします」

——その時、ギュンター・ファルクが静かに口を開いた。

「……一つだけ、申し上げておこう」

低く、重い声。だがその響きに敵意はなかった。

「私は……息子は皇帝陛下を通じて、そして娘はあなたの侍女として。二人があなたに深く関わっている。その事実は、私の“軍人”としての立場よりも重い。どうか、命を預けるに足る人であってくれ」

エリオットは、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。

「……はい。必ず、その信頼に応えます」

ギュンターは、短く頷いた。彼なりの“祝福”であり、“警告”でもあるのだ。

(……この国で、僕は——本当に試されている)

面談は、静かに終了した。
けれどその空気は、確かな“評価の種”を蒔いたような手応えがあった。
——エリオット・ヴェイル。
異国から来た皇妃は、今、帝国の“芯”に触れ始めていた。
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