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第7話『効率って言葉、どこにいった?』
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朝。鐘の音と共に、騎士たちの訓練の掛け声が響く。
僕はというと、いつもの“隔離テーブル”でスープをすすっていた。
周囲の目は相変わらず鋭いけれど、少しずつ、刺さる視線から見るだけの視線へと変わってきている気がする。
(……気のせい、じゃないといいけどな)
「レンくーん、朝から元気そうでなにより。ぼっちだけど」
毎度のように、ルースさんが嫌味とも冗談ともつかない声をかけてくる。
「ぼっちは余計です」
「いやいや、ぼっちのほうが目立ってモテるよ? “あいつ、孤独を選んでる系……”みたいな」
「そんな一匹狼設定いらないんですけど……」
そんな会話が日常になってきた、ある日の午後。
またしても、砦の倉庫でトラブルが起こった。
「ない!? 保存食が──!」
「水もだ、備蓄分が足りない!」
倉庫前では、補給係の騎士たちがバタバタと走り回り、怒号が飛び交っていた。
中には、「手違いじゃ済まねえぞ!」と、怒鳴り声をあげる声も。
「……またですか」
この間の薬品トラブルのときと、まったく同じ空気だった。
改善されていないということは──仕組みに問題があるのだ。
放っておけば混乱は広がるし、また怒鳴り合いが始まる。
騎士団内の空気が悪くなるのは、誰にとってもいいことじゃない。
僕はひとつため息をついて、立ち上がった。
(店長やってたときの在庫チェック、毎日地味にやってたもんな……あれ、案外役立つのかも)
「失礼します。……あの、記録用紙、拝見してもいいですか?」
顔見知りになっていた補給担当の騎士が「ああ」と言って記録表を渡してくれる。
そこには何かを期待する色が浮かんでいる。きっと、前回の対応を覚えていたのだろう。
「これは……管理ラベルの貼り間違いですね。ラベルの色分けが微妙で、似た箱が別物として認識されてます」
「マジかよ……じゃあ、数はあるのか?」
「はい。それと、別の棚に“重複分”があって、もともとの場所が空っぽに見えてたようです」
僕は棚の配置と箱の印字を照らし合わせながら、すぐに修正のための簡易案を書き起こした。
「提案なんですけど──棚番号の統一と箱に付ける色ラベルをわかりやすくして、記録表も番号で管理したほうが……だいぶミスは減ると思います」
「ラベル?」
「はい。えーと……視覚で分かる管理、っていうんですかね?誰が見ても迷わないようにっていう。品数が多いなら分類でまず分けるとか、そういう小さなことでもどこに何があるかはわかるようになりますよ」
そう言って、近くにあった布とインクで、即席のカラーマークをいくつか作ってみせる。
「……面白いな。やってみよう」
その場にいた補給係が頷いた。
ルースさんが倉庫の入り口で腕を組みながら、「やれやれ」と言わんばかりに首を振っていた。
「……どんどん職人気質になってるな、お前」
「職人じゃなくて店長でした」
「似たようなもんだろ」
全然違うだろ。
※
翌日。
ラベル導入の効果はてきめんだった。
目視での確認が簡略化され、配置ミスはほぼゼロに。
補給係たちの作業効率が上がっただけでなく、現場からの感謝の声もちらほら聞こえるようになった。
(この世界、ラベルって概念なかったのか……? いや、視覚情報の優先度が違うのかも。あと多分だけど……この砦、騎士職が圧倒的に多い気がするんだよな。まあ前衛っぽいから仕方ないかもだけど)
いずれにせよ、“僕だからできること”がある、という事実に少しだけ自信が持てた。
その夜。食堂から部屋へ戻る途中で、意外な人物に呼び止められた。
「君」
銀色の髪。理知的な瞳。
副団長・テオさんだった。
一見、すごく女の人にモテそうな美形だ。お母さんらしいけど。
(不思議だよなぁ……男が子供産む世界って)
「……はい?」
「補給倉庫の件。報告を受けた。興味深いやり方だ。君の世界では、あれが標準なのか?」
「えっと……まあ、職種によりますけど、流通業では一般的かと」
テオさんはふむ、と静かに頷いた。
「私も過去、補給路の不備で苦労した経験がある。……こういう地味な改善こそ、部隊の根幹を支える。感謝する」
「いえいえ! そんな、大したことなくて……」
「……自信を持て」
そう一言だけ残して、彼は廊下の奥へと歩いていった。
その背中には、どこかしら、かつて偏見や逆風と戦ってきた人の気配があった。
「……自信を、か」
ぽつりと呟いて、自室の扉を開ける。
役に立てた。少しは。
目立つような功績じゃない。
でも確かに、誰かの助けになった。
(この世界で、“自分の居場所”って……そうやって作っていくものなんだろうな)
翌朝。
食堂の端っこの席に座った僕に、ひとつ余ったパンがぽとりと置かれた。
見ると、いつも無表情なロナルドさんが、少しだけ──ほんの少しだけ、口角を上げていた。
(……この人、笑った方がモテそう)
そう思いながら、静かにそのパンを手に取った。
———————
投稿は毎日8時・21時の2回です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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僕はというと、いつもの“隔離テーブル”でスープをすすっていた。
周囲の目は相変わらず鋭いけれど、少しずつ、刺さる視線から見るだけの視線へと変わってきている気がする。
(……気のせい、じゃないといいけどな)
「レンくーん、朝から元気そうでなにより。ぼっちだけど」
毎度のように、ルースさんが嫌味とも冗談ともつかない声をかけてくる。
「ぼっちは余計です」
「いやいや、ぼっちのほうが目立ってモテるよ? “あいつ、孤独を選んでる系……”みたいな」
「そんな一匹狼設定いらないんですけど……」
そんな会話が日常になってきた、ある日の午後。
またしても、砦の倉庫でトラブルが起こった。
「ない!? 保存食が──!」
「水もだ、備蓄分が足りない!」
倉庫前では、補給係の騎士たちがバタバタと走り回り、怒号が飛び交っていた。
中には、「手違いじゃ済まねえぞ!」と、怒鳴り声をあげる声も。
「……またですか」
この間の薬品トラブルのときと、まったく同じ空気だった。
改善されていないということは──仕組みに問題があるのだ。
放っておけば混乱は広がるし、また怒鳴り合いが始まる。
騎士団内の空気が悪くなるのは、誰にとってもいいことじゃない。
僕はひとつため息をついて、立ち上がった。
(店長やってたときの在庫チェック、毎日地味にやってたもんな……あれ、案外役立つのかも)
「失礼します。……あの、記録用紙、拝見してもいいですか?」
顔見知りになっていた補給担当の騎士が「ああ」と言って記録表を渡してくれる。
そこには何かを期待する色が浮かんでいる。きっと、前回の対応を覚えていたのだろう。
「これは……管理ラベルの貼り間違いですね。ラベルの色分けが微妙で、似た箱が別物として認識されてます」
「マジかよ……じゃあ、数はあるのか?」
「はい。それと、別の棚に“重複分”があって、もともとの場所が空っぽに見えてたようです」
僕は棚の配置と箱の印字を照らし合わせながら、すぐに修正のための簡易案を書き起こした。
「提案なんですけど──棚番号の統一と箱に付ける色ラベルをわかりやすくして、記録表も番号で管理したほうが……だいぶミスは減ると思います」
「ラベル?」
「はい。えーと……視覚で分かる管理、っていうんですかね?誰が見ても迷わないようにっていう。品数が多いなら分類でまず分けるとか、そういう小さなことでもどこに何があるかはわかるようになりますよ」
そう言って、近くにあった布とインクで、即席のカラーマークをいくつか作ってみせる。
「……面白いな。やってみよう」
その場にいた補給係が頷いた。
ルースさんが倉庫の入り口で腕を組みながら、「やれやれ」と言わんばかりに首を振っていた。
「……どんどん職人気質になってるな、お前」
「職人じゃなくて店長でした」
「似たようなもんだろ」
全然違うだろ。
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翌日。
ラベル導入の効果はてきめんだった。
目視での確認が簡略化され、配置ミスはほぼゼロに。
補給係たちの作業効率が上がっただけでなく、現場からの感謝の声もちらほら聞こえるようになった。
(この世界、ラベルって概念なかったのか……? いや、視覚情報の優先度が違うのかも。あと多分だけど……この砦、騎士職が圧倒的に多い気がするんだよな。まあ前衛っぽいから仕方ないかもだけど)
いずれにせよ、“僕だからできること”がある、という事実に少しだけ自信が持てた。
その夜。食堂から部屋へ戻る途中で、意外な人物に呼び止められた。
「君」
銀色の髪。理知的な瞳。
副団長・テオさんだった。
一見、すごく女の人にモテそうな美形だ。お母さんらしいけど。
(不思議だよなぁ……男が子供産む世界って)
「……はい?」
「補給倉庫の件。報告を受けた。興味深いやり方だ。君の世界では、あれが標準なのか?」
「えっと……まあ、職種によりますけど、流通業では一般的かと」
テオさんはふむ、と静かに頷いた。
「私も過去、補給路の不備で苦労した経験がある。……こういう地味な改善こそ、部隊の根幹を支える。感謝する」
「いえいえ! そんな、大したことなくて……」
「……自信を持て」
そう一言だけ残して、彼は廊下の奥へと歩いていった。
その背中には、どこかしら、かつて偏見や逆風と戦ってきた人の気配があった。
「……自信を、か」
ぽつりと呟いて、自室の扉を開ける。
役に立てた。少しは。
目立つような功績じゃない。
でも確かに、誰かの助けになった。
(この世界で、“自分の居場所”って……そうやって作っていくものなんだろうな)
翌朝。
食堂の端っこの席に座った僕に、ひとつ余ったパンがぽとりと置かれた。
見ると、いつも無表情なロナルドさんが、少しだけ──ほんの少しだけ、口角を上げていた。
(……この人、笑った方がモテそう)
そう思いながら、静かにそのパンを手に取った。
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