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第14話『それ、どこの言語?』
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倉庫の隅で見つけたのは、くしゃくしゃに折りたたまれた一枚の紙だった。
床に落ちた帳簿の整理中、棚の裏に挟まっていたのをたまたま拾っただけ。
裏紙かと思って開いてみたら──そこには、見たこともない記号が並んでいた。
(……うん?なんだ、これ)
丸、三角、斜めの棒。
それぞれに何かルールがあるようで、全体としては「文字」のように見える。
でも、頭の中にある【全言語理解】スキルが、まったく反応しなかった。
(これ……言語じゃない?)
翻訳スキルが働かない。
それはつまり、「誰かの意図で作られた言葉じゃない」ということだ。
けど──“意図がない”にしては、あまりにも整いすぎている。
(暗号……?)
ぞわり、と背筋が粟立った。
同時に様々なアニメやらドラマが頭の中にザッと流れる。
(いやいやいや、そんなアホな……でも……)
紙は一枚。サイズは騎士団でよく使われる業務報告と同じ。
でも内容はまったく違う。
目を凝らして眺めていると、ふいに断片的な意味が脳内に浮かび上がった。
──紫の印。
──兵糧、三分削減。
──陽動、東から。
まるで、意図的に隠されていたはずの言葉だけが、ノイズのように拾われたみたいな、そんな感覚だった。
(……僕、探偵の能力もあるな、こりゃ)
思考より先に、身体が動いていた。
僕はその紙を持って、まっすぐテオさんのもとへ向かった。
※
「……これを、どこで?」
副団長室。
机の上に紙を広げたテオさんの声は、いつもより明らかに低かった。
「倉庫の、補給棚の裏に落ちてました。たぶん……誰かが隠してたか、捨て損ねたか、そんな感じかと」
僕の言葉に、テオさんは一瞬、目を細めた。
「翻訳スキルでは読めなかったと?」
「はい。言語としての意味は取れなかったんですが、部分的に……“紫の印”とか、“兵糧”とか、“陽動”とか、そういう単語だけは断片的に浮かんできて。というか推測したというか」
そのとき、テオさんの表情が、明らかに変わった。
端整な顔に走る、明確な緊張。
「紫……紫の印。……それは、“紫騎士団”の標だ」
彼の指先が紙の中央を軽くなぞった。
「この記号群、私には読めない。だが、これはそこだけで使用されている軍事的なコードの可能性がある。……敵の暗号文書だとすれば──」
「……スパイ、ですか」
僕の声が思わず震えた。
紫騎士団──この世界に来てから何度かその名前を聞いていた。
砦の外にある、複数の領地を傘下に持つ巨大勢力。
表向きは騎士団だけれど、その実体は力による支配で成り上がった軍閥に近い……らしい。
ここ、黒騎士団の砦は、その勢力とは立場を異にしている。
テオさんが静かに頷く。
「補給路は生命線だ。そこに敵の手が入っていたとしたら──砦の全員が危険に晒される」
紙を静かに折り畳みながら、テオさんがぽつりと呟いた。
「……ありがとう。よく、見つけてくれた」
「いえ……偶然です。僕はただ、棚整理してただけで……」
「偶然でも、拾えなければ意味はない。……レン、君の目は思った以上に鋭い」
真顔でそう言われて、僕は戸惑うばかりだったけど。
その言葉に、ただの便利屋ではない“何か”を見出されたような気がして、胸の奥がざらりとした。
※
部屋を出たあと、廊下を歩いていると、ふと脇道からルースさんが姿を現した。
「……おっ、来た来た。さっきから副団長室にこもってたよな? 何かあった?」
「うん……ちょっと、ね。詳しくは言えないけど」
ルースさんは、僕の顔をじっと見たあと、ふいに笑った。
「なんか、やっぱレンって面白いよな。気づいたら、砦のど真ん中でなんかやってる」
「……僕、ただの整理係ですけど」
「その“ただの整理係”が、俺より先に副団長と話してる時点で、おかしいと思わない?」
からかうように言われて、言葉に詰まる。
でもそのとき、ルースさんの目が一瞬だけ──本当に一瞬だけ、静かに揺れた。
その意味を考える前に、ルースさんは背伸びをして言った。
「ま、変なもん見つけたら、次は俺に見せてくれよ? あんま副団長にばっか報告してると、俺、ちょっとヤキモチ焼くかもしんないし?」
「……はいはい。次は、そうしますよ」
軽く笑って返したその言葉。
ルースさんは軽すぎて表情が読みにくいのが難しい。
──けれど。
砦の静けさの裏に、確かに何かが動き始めていた。
———————
投稿は毎日8:00・21:30の2回です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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床に落ちた帳簿の整理中、棚の裏に挟まっていたのをたまたま拾っただけ。
裏紙かと思って開いてみたら──そこには、見たこともない記号が並んでいた。
(……うん?なんだ、これ)
丸、三角、斜めの棒。
それぞれに何かルールがあるようで、全体としては「文字」のように見える。
でも、頭の中にある【全言語理解】スキルが、まったく反応しなかった。
(これ……言語じゃない?)
翻訳スキルが働かない。
それはつまり、「誰かの意図で作られた言葉じゃない」ということだ。
けど──“意図がない”にしては、あまりにも整いすぎている。
(暗号……?)
ぞわり、と背筋が粟立った。
同時に様々なアニメやらドラマが頭の中にザッと流れる。
(いやいやいや、そんなアホな……でも……)
紙は一枚。サイズは騎士団でよく使われる業務報告と同じ。
でも内容はまったく違う。
目を凝らして眺めていると、ふいに断片的な意味が脳内に浮かび上がった。
──紫の印。
──兵糧、三分削減。
──陽動、東から。
まるで、意図的に隠されていたはずの言葉だけが、ノイズのように拾われたみたいな、そんな感覚だった。
(……僕、探偵の能力もあるな、こりゃ)
思考より先に、身体が動いていた。
僕はその紙を持って、まっすぐテオさんのもとへ向かった。
※
「……これを、どこで?」
副団長室。
机の上に紙を広げたテオさんの声は、いつもより明らかに低かった。
「倉庫の、補給棚の裏に落ちてました。たぶん……誰かが隠してたか、捨て損ねたか、そんな感じかと」
僕の言葉に、テオさんは一瞬、目を細めた。
「翻訳スキルでは読めなかったと?」
「はい。言語としての意味は取れなかったんですが、部分的に……“紫の印”とか、“兵糧”とか、“陽動”とか、そういう単語だけは断片的に浮かんできて。というか推測したというか」
そのとき、テオさんの表情が、明らかに変わった。
端整な顔に走る、明確な緊張。
「紫……紫の印。……それは、“紫騎士団”の標だ」
彼の指先が紙の中央を軽くなぞった。
「この記号群、私には読めない。だが、これはそこだけで使用されている軍事的なコードの可能性がある。……敵の暗号文書だとすれば──」
「……スパイ、ですか」
僕の声が思わず震えた。
紫騎士団──この世界に来てから何度かその名前を聞いていた。
砦の外にある、複数の領地を傘下に持つ巨大勢力。
表向きは騎士団だけれど、その実体は力による支配で成り上がった軍閥に近い……らしい。
ここ、黒騎士団の砦は、その勢力とは立場を異にしている。
テオさんが静かに頷く。
「補給路は生命線だ。そこに敵の手が入っていたとしたら──砦の全員が危険に晒される」
紙を静かに折り畳みながら、テオさんがぽつりと呟いた。
「……ありがとう。よく、見つけてくれた」
「いえ……偶然です。僕はただ、棚整理してただけで……」
「偶然でも、拾えなければ意味はない。……レン、君の目は思った以上に鋭い」
真顔でそう言われて、僕は戸惑うばかりだったけど。
その言葉に、ただの便利屋ではない“何か”を見出されたような気がして、胸の奥がざらりとした。
※
部屋を出たあと、廊下を歩いていると、ふと脇道からルースさんが姿を現した。
「……おっ、来た来た。さっきから副団長室にこもってたよな? 何かあった?」
「うん……ちょっと、ね。詳しくは言えないけど」
ルースさんは、僕の顔をじっと見たあと、ふいに笑った。
「なんか、やっぱレンって面白いよな。気づいたら、砦のど真ん中でなんかやってる」
「……僕、ただの整理係ですけど」
「その“ただの整理係”が、俺より先に副団長と話してる時点で、おかしいと思わない?」
からかうように言われて、言葉に詰まる。
でもそのとき、ルースさんの目が一瞬だけ──本当に一瞬だけ、静かに揺れた。
その意味を考える前に、ルースさんは背伸びをして言った。
「ま、変なもん見つけたら、次は俺に見せてくれよ? あんま副団長にばっか報告してると、俺、ちょっとヤキモチ焼くかもしんないし?」
「……はいはい。次は、そうしますよ」
軽く笑って返したその言葉。
ルースさんは軽すぎて表情が読みにくいのが難しい。
──けれど。
砦の静けさの裏に、確かに何かが動き始めていた。
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