異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし

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第14話『それ、どこの言語?』

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倉庫の隅で見つけたのは、くしゃくしゃに折りたたまれた一枚の紙だった。

床に落ちた帳簿の整理中、棚の裏に挟まっていたのをたまたま拾っただけ。
裏紙かと思って開いてみたら──そこには、見たこともない記号が並んでいた。

(……うん?なんだ、これ)

丸、三角、斜めの棒。
それぞれに何かルールがあるようで、全体としては「文字」のように見える。

でも、頭の中にある【全言語理解】スキルが、まったく反応しなかった。

(これ……言語じゃない?)

翻訳スキルが働かない。
それはつまり、「誰かの意図で作られた言葉じゃない」ということだ。
けど──“意図がない”にしては、あまりにも整いすぎている。

(暗号……?)

ぞわり、と背筋が粟立った。
同時に様々なアニメやらドラマが頭の中にザッと流れる。

(いやいやいや、そんなアホな……でも……)

紙は一枚。サイズは騎士団でよく使われる業務報告と同じ。
でも内容はまったく違う。
目を凝らして眺めていると、ふいに断片的な意味が脳内に浮かび上がった。

──紫の印。
──兵糧、三分削減。
──陽動、東から。

まるで、意図的に隠されていたはずの言葉だけが、ノイズのように拾われたみたいな、そんな感覚だった。

(……僕、探偵の能力もあるな、こりゃ)

思考より先に、身体が動いていた。
僕はその紙を持って、まっすぐテオさんのもとへ向かった。



「……これを、どこで?」

副団長室。
机の上に紙を広げたテオさんの声は、いつもより明らかに低かった。

「倉庫の、補給棚の裏に落ちてました。たぶん……誰かが隠してたか、捨て損ねたか、そんな感じかと」

僕の言葉に、テオさんは一瞬、目を細めた。

「翻訳スキルでは読めなかったと?」
「はい。言語としての意味は取れなかったんですが、部分的に……“紫の印”とか、“兵糧”とか、“陽動”とか、そういう単語だけは断片的に浮かんできて。というか推測したというか」

そのとき、テオさんの表情が、明らかに変わった。
端整な顔に走る、明確な緊張。

「紫……紫の印。……それは、“紫騎士団”の標だ」

彼の指先が紙の中央を軽くなぞった。

「この記号群、私には読めない。だが、これはそこだけで使用されている軍事的なコードの可能性がある。……敵の暗号文書だとすれば──」
「……スパイ、ですか」

僕の声が思わず震えた。

紫騎士団──この世界に来てから何度かその名前を聞いていた。
砦の外にある、複数の領地を傘下に持つ巨大勢力。
表向きは騎士団だけれど、その実体は力による支配で成り上がった軍閥に近い……らしい。

ここ、黒騎士団の砦は、その勢力とは立場を異にしている。

テオさんが静かに頷く。

「補給路は生命線だ。そこに敵の手が入っていたとしたら──砦の全員が危険に晒される」

紙を静かに折り畳みながら、テオさんがぽつりと呟いた。

「……ありがとう。よく、見つけてくれた」
「いえ……偶然です。僕はただ、棚整理してただけで……」
「偶然でも、拾えなければ意味はない。……レン、君の目は思った以上に鋭い」

真顔でそう言われて、僕は戸惑うばかりだったけど。
その言葉に、ただの便利屋ではない“何か”を見出されたような気がして、胸の奥がざらりとした。



部屋を出たあと、廊下を歩いていると、ふと脇道からルースさんが姿を現した。

「……おっ、来た来た。さっきから副団長室にこもってたよな? 何かあった?」
「うん……ちょっと、ね。詳しくは言えないけど」

ルースさんは、僕の顔をじっと見たあと、ふいに笑った。

「なんか、やっぱレンって面白いよな。気づいたら、砦のど真ん中でなんかやってる」
「……僕、ただの整理係ですけど」
「その“ただの整理係”が、俺より先に副団長と話してる時点で、おかしいと思わない?」

からかうように言われて、言葉に詰まる。
でもそのとき、ルースさんの目が一瞬だけ──本当に一瞬だけ、静かに揺れた。

その意味を考える前に、ルースさんは背伸びをして言った。

「ま、変なもん見つけたら、次は俺に見せてくれよ? あんま副団長にばっか報告してると、俺、ちょっとヤキモチ焼くかもしんないし?」
「……はいはい。次は、そうしますよ」

軽く笑って返したその言葉。
ルースさんは軽すぎて表情が読みにくいのが難しい。

──けれど。
砦の静けさの裏に、確かに何かが動き始めていた。



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