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第13話『ルースさんは、たまに怖い顔をする』
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その日、昼の休憩が終わるタイミングで、ルースさんがふいに僕の前に現れた。
「レン、ちょっと時間ある?」
なんでもないふうを装った声だった。
でも、その声の奥にある空気は、なんというか──湿っていた。
「……はい?まあ、今なら、少し」
書類をまとめて立ち上がると、彼は「よし」と笑って、僕の腕を引いた。
そして、ほとんど半ば強引に、砦の裏手にある静かな通路まで連れていかれた。
昼下がり。砦の外縁は静かで、風の音と、旗が揺れる布の音しかしない。
「……なんですか、改まって」
距離が近い。気づけば、壁際に押されていた。
「聞きたいことがあってさ」
ルースさんの表情は笑っていた。けど、目は全然笑ってなかった。
まるで、冗談をかぶせた本音。
無理やり包んだ軽口が、ひどく冷たく感じた。
「──ロナルドを番に選ぶのか?」
その言葉に、思わず、時間が止まった。
「……へ?」
「いや、ほら、こっちはさ。ずっと見てきたわけよ、あいつの真面目すぎるとことか、不器用さとか。そういうのも含めて、まああいつがいい奴だってのは分かってるつもりなんだけど……」
ルースさんは、僕を見下ろすようにして笑った。
「──お前は? 本当に、あいつでいいと思ってんの?」
良いも悪いも、と僕は思った。
何せこの世界の普通は僕の世界では普通じゃない。
同姓同士の恋愛だって自由になってきたとはいえ、やはりマイノリティだ。
それを飛び越してここは『男も子供を産める世界(ただしオメガに限る)』とかいうとんでもない場所で。
何もかもが違いすぎるわ、自分も変わってるわで……正直なところ自体の変容に脳がついていってないのだ。
「……あの、ルースさん、僕は別に、誰と“番”になるとか……考えたことも……」
正直にそういうと、ルースさんが片眉を上げる。
「考えたこともない?」
そしてその目が、少しだけ鋭くなる。
だけど、語気を強めることはなかった。むしろ、静かに言葉を継ぐ。
「じゃあ、俺にも全然、余地はあるんだ?」
その一言が、胸の奥に、妙な熱を残した。
僕は、何も言えなかった。
そのまま、沈黙が落ちた。
風が通り過ぎて、ルースさんの髪が揺れる。
その下の、焦げ茶の瞳は、どこか悲しそうにすら見えた。
でも──
「ごめん。脅かすつもりじゃなかったんだけどな」
彼はすっと距離を取って、いつもの飄々とした笑顔に戻る。
「お前、さ。俺にはずっと敬語だよな。俺がアルファだから? それとも、俺のことを“怖い”って思ってる?」
「えっ……」
不意を突かれた僕は、咄嗟に返せなかった。
(怖い、かな……?いや、怖くはないような……)
「……ま、どっちでもいいけど」
彼はそう言って、ゆるい仕草で手を振った。
「でも、覚えといてよ。俺もアルファで、俺だって“お前を欲しい”って思う可能性、ゼロじゃないから」
そう言って、背を向ける。
一歩、二歩、ゆっくりと歩きながら。
「ロナルドが先に手を出さないうちに、俺の手が先に伸びるかもな」
その背中は、あいかわらず自由で、冗談みたいな言葉を吐いていたけれど。
でも、僕の中に残ったのは、冗談じゃ済まない、確かな熱だった。
(……ルースさん、たまに、ほんとに怖い顔をする)
胸がざわつく。
“番”ってなんなんだろう。
選ぶって、何を? 誰を? どうやって?
わからない。
「敬語は……クセですけどね」
本音を漏らした僕の声は、風に紛れて消えた。
———————
投稿は毎日8:00・21:30の2回です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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「レン、ちょっと時間ある?」
なんでもないふうを装った声だった。
でも、その声の奥にある空気は、なんというか──湿っていた。
「……はい?まあ、今なら、少し」
書類をまとめて立ち上がると、彼は「よし」と笑って、僕の腕を引いた。
そして、ほとんど半ば強引に、砦の裏手にある静かな通路まで連れていかれた。
昼下がり。砦の外縁は静かで、風の音と、旗が揺れる布の音しかしない。
「……なんですか、改まって」
距離が近い。気づけば、壁際に押されていた。
「聞きたいことがあってさ」
ルースさんの表情は笑っていた。けど、目は全然笑ってなかった。
まるで、冗談をかぶせた本音。
無理やり包んだ軽口が、ひどく冷たく感じた。
「──ロナルドを番に選ぶのか?」
その言葉に、思わず、時間が止まった。
「……へ?」
「いや、ほら、こっちはさ。ずっと見てきたわけよ、あいつの真面目すぎるとことか、不器用さとか。そういうのも含めて、まああいつがいい奴だってのは分かってるつもりなんだけど……」
ルースさんは、僕を見下ろすようにして笑った。
「──お前は? 本当に、あいつでいいと思ってんの?」
良いも悪いも、と僕は思った。
何せこの世界の普通は僕の世界では普通じゃない。
同姓同士の恋愛だって自由になってきたとはいえ、やはりマイノリティだ。
それを飛び越してここは『男も子供を産める世界(ただしオメガに限る)』とかいうとんでもない場所で。
何もかもが違いすぎるわ、自分も変わってるわで……正直なところ自体の変容に脳がついていってないのだ。
「……あの、ルースさん、僕は別に、誰と“番”になるとか……考えたことも……」
正直にそういうと、ルースさんが片眉を上げる。
「考えたこともない?」
そしてその目が、少しだけ鋭くなる。
だけど、語気を強めることはなかった。むしろ、静かに言葉を継ぐ。
「じゃあ、俺にも全然、余地はあるんだ?」
その一言が、胸の奥に、妙な熱を残した。
僕は、何も言えなかった。
そのまま、沈黙が落ちた。
風が通り過ぎて、ルースさんの髪が揺れる。
その下の、焦げ茶の瞳は、どこか悲しそうにすら見えた。
でも──
「ごめん。脅かすつもりじゃなかったんだけどな」
彼はすっと距離を取って、いつもの飄々とした笑顔に戻る。
「お前、さ。俺にはずっと敬語だよな。俺がアルファだから? それとも、俺のことを“怖い”って思ってる?」
「えっ……」
不意を突かれた僕は、咄嗟に返せなかった。
(怖い、かな……?いや、怖くはないような……)
「……ま、どっちでもいいけど」
彼はそう言って、ゆるい仕草で手を振った。
「でも、覚えといてよ。俺もアルファで、俺だって“お前を欲しい”って思う可能性、ゼロじゃないから」
そう言って、背を向ける。
一歩、二歩、ゆっくりと歩きながら。
「ロナルドが先に手を出さないうちに、俺の手が先に伸びるかもな」
その背中は、あいかわらず自由で、冗談みたいな言葉を吐いていたけれど。
でも、僕の中に残ったのは、冗談じゃ済まない、確かな熱だった。
(……ルースさん、たまに、ほんとに怖い顔をする)
胸がざわつく。
“番”ってなんなんだろう。
選ぶって、何を? 誰を? どうやって?
わからない。
「敬語は……クセですけどね」
本音を漏らした僕の声は、風に紛れて消えた。
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