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第12話『番って言われても……ナニソレ』
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目が覚めると、世界は静かだった。
いや、正確に言うなら「何も感じなかった」ってほうが近い。
あの時の、頭が焼けるような熱も、身体が裏返るような疼きもない。
ただ、代わりにぐったりと全身にまとわりついた倦怠感だけが残っていて、体を起こす気力も、正直なかった。
(……夢、じゃなかったんだよな)
天井を見ながら、ぼんやりと考える。
ヒート……発情期。
あまりに突然すぎて、自分の身体が他人のものみたいに感じた。
あのとき何が起きたのか、正確には思い出せない。
ただ、どうしようもない熱に飲み込まれかけたとき、誰かが傍にいてくれた。
あの低くて、落ち着いた声。大きな手。抱きかかえられたときの、腕の温度。
「……ロナルドさん……」
小さく名前を呟いたとき、喉が乾いていることに気づいた。
感情とか、羞恥とか、全部が後回しになるくらい、今の僕はただ──だるい。
※
翌日のお昼。
テオさんからは「短期休養」として仕事を外されて、僕はようやく部屋の外に出た。
足元が頼りない。ちゃんと歩いてるつもりでも、時々ふらつく。
(副作用……みたいなもんなのかな)
目立たないように食堂の隅の席を目指したけど、途中でいろんな視線を感じた。
一瞬だけこっちを見て、すぐに逸らす。
何も言わない。でも、何かを知っている目。
「おっはよ、ぼっちオメガくん。ご無事でなにより」
目の前の椅子に、ルースさんが当然のように腰を下ろす。
「“ぼっち”の肩書き、そろそろ返上させてくれませんか……」
「いやー、でもほら。なんかすごいことになってるよ?」
「……何がです?」
スプーンを口に運びながら聞くと、彼は面白そうに身を乗り出してきた。
「ヒートで倒れたレンの部屋に、副団長が駆け込んで、その後に“なぜか”ロナルドが一晩ついてたらしい、って話」
「……どこ情報ですか」
「俺は見てたから、情報源?」
笑いながら言われた。
「でね、それに尾ひれがついて、今はこんな感じ」
ルースさんは声をひそめて、楽しそうに囁く。
「ロナルドとレンが番になったんじゃないか、ってね」
「……つがい?」
「うん。“番”。知らない?」
「知らないです」
ぽかんとした僕に、ルースさんは口を開きかけ──それから、閉じた。
「……副団長に聞くといいかもな」
「なんですかそれ……知ってるなら教えてくれてもいいのでは」
ルースさんは小さく肩を竦めるばかりで、答える気はないらしい。
しかし、言葉がつながった。
「……あの夜さ、ほんとに何もなかったの?」
「……えっ」
言葉が詰まる。
思い出そうとすると、頭の奥が熱くなる。
ロナルドさんの手のひら。額に触れた感触。自分でも信じられないくらい弱っていたあの夜のこと。
「……ちょっとだけ、覚えてるけど……なにも……されてない、と思います、よ」
「ふうん」
ルースさんは、それ以上は何も聞いてこなかった。
※
食事を終えた僕は、そのままルースさんと歩いていた。
反対側から現れたロナルドさんと鉢合わせる。
「おい、ルース」
その低い声に、ルースさんがちらりと振り返る。
「……何か用?」
「お前の持ち場は違うんじゃないのか」
「一緒に移動しただけだよ。なんだよ、もう番気取りか?」
その言葉に、ロナルドさんが一歩近づく。
「……お前に、関係あるのか」
一瞬、時間が止まった気がした。
ルースさんの笑みが、わずかに揺らぐ。
「へーへー。はいはい。通りすがりの、他人ですんで」
肩をすくめて、ルースさんはくるっと踵を返す。
その背中は、あいかわらず飄々としていて、何も背負っていないみたいだったけど。
※
角を曲がって、誰もいなくなった瞬間──
「……なにも、なかった、ねぇ」
ぽつりと漏らすように呟いて、ルースは手にしていた果物を壁に投げつけた。
パァンと音を立てて潰れた果肉が、石の壁にべちゃりと落ちる。
「……そういうとこだけは妙に動きが良いんだな、ロナルド」
誰に言うでもなく、苦い言葉が落ちた。
———————
投稿は毎日8:00・21:30の2回です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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いや、正確に言うなら「何も感じなかった」ってほうが近い。
あの時の、頭が焼けるような熱も、身体が裏返るような疼きもない。
ただ、代わりにぐったりと全身にまとわりついた倦怠感だけが残っていて、体を起こす気力も、正直なかった。
(……夢、じゃなかったんだよな)
天井を見ながら、ぼんやりと考える。
ヒート……発情期。
あまりに突然すぎて、自分の身体が他人のものみたいに感じた。
あのとき何が起きたのか、正確には思い出せない。
ただ、どうしようもない熱に飲み込まれかけたとき、誰かが傍にいてくれた。
あの低くて、落ち着いた声。大きな手。抱きかかえられたときの、腕の温度。
「……ロナルドさん……」
小さく名前を呟いたとき、喉が乾いていることに気づいた。
感情とか、羞恥とか、全部が後回しになるくらい、今の僕はただ──だるい。
※
翌日のお昼。
テオさんからは「短期休養」として仕事を外されて、僕はようやく部屋の外に出た。
足元が頼りない。ちゃんと歩いてるつもりでも、時々ふらつく。
(副作用……みたいなもんなのかな)
目立たないように食堂の隅の席を目指したけど、途中でいろんな視線を感じた。
一瞬だけこっちを見て、すぐに逸らす。
何も言わない。でも、何かを知っている目。
「おっはよ、ぼっちオメガくん。ご無事でなにより」
目の前の椅子に、ルースさんが当然のように腰を下ろす。
「“ぼっち”の肩書き、そろそろ返上させてくれませんか……」
「いやー、でもほら。なんかすごいことになってるよ?」
「……何がです?」
スプーンを口に運びながら聞くと、彼は面白そうに身を乗り出してきた。
「ヒートで倒れたレンの部屋に、副団長が駆け込んで、その後に“なぜか”ロナルドが一晩ついてたらしい、って話」
「……どこ情報ですか」
「俺は見てたから、情報源?」
笑いながら言われた。
「でね、それに尾ひれがついて、今はこんな感じ」
ルースさんは声をひそめて、楽しそうに囁く。
「ロナルドとレンが番になったんじゃないか、ってね」
「……つがい?」
「うん。“番”。知らない?」
「知らないです」
ぽかんとした僕に、ルースさんは口を開きかけ──それから、閉じた。
「……副団長に聞くといいかもな」
「なんですかそれ……知ってるなら教えてくれてもいいのでは」
ルースさんは小さく肩を竦めるばかりで、答える気はないらしい。
しかし、言葉がつながった。
「……あの夜さ、ほんとに何もなかったの?」
「……えっ」
言葉が詰まる。
思い出そうとすると、頭の奥が熱くなる。
ロナルドさんの手のひら。額に触れた感触。自分でも信じられないくらい弱っていたあの夜のこと。
「……ちょっとだけ、覚えてるけど……なにも……されてない、と思います、よ」
「ふうん」
ルースさんは、それ以上は何も聞いてこなかった。
※
食事を終えた僕は、そのままルースさんと歩いていた。
反対側から現れたロナルドさんと鉢合わせる。
「おい、ルース」
その低い声に、ルースさんがちらりと振り返る。
「……何か用?」
「お前の持ち場は違うんじゃないのか」
「一緒に移動しただけだよ。なんだよ、もう番気取りか?」
その言葉に、ロナルドさんが一歩近づく。
「……お前に、関係あるのか」
一瞬、時間が止まった気がした。
ルースさんの笑みが、わずかに揺らぐ。
「へーへー。はいはい。通りすがりの、他人ですんで」
肩をすくめて、ルースさんはくるっと踵を返す。
その背中は、あいかわらず飄々としていて、何も背負っていないみたいだったけど。
※
角を曲がって、誰もいなくなった瞬間──
「……なにも、なかった、ねぇ」
ぽつりと漏らすように呟いて、ルースは手にしていた果物を壁に投げつけた。
パァンと音を立てて潰れた果肉が、石の壁にべちゃりと落ちる。
「……そういうとこだけは妙に動きが良いんだな、ロナルド」
誰に言うでもなく、苦い言葉が落ちた。
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