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第15話『守られるだけじゃいられない』
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騎士団内の空気が、少しだけ変わった気がする。
みんな言葉にはしないけど、目が違う。
歩く速度、視線の巡らせ方、背中に漂う緊張。
何かが動いているんだってことは、鈍感な僕にも分かる。
そんな中で、今日も僕は、倉庫で帳簿の整理をしていた。
だるいくらい平和な作業。だけど、今日は途中で止められた。
「レン。今後、単独行動は控えろ。必要があれば必ず報告しろ。……いいな」
ロナルドさんの低い声は、いつも以上に硬かった。
「……はい。分かりました」
僕は素直にうなずいた。
(……うん、まあ。そもそも出歩かないしな)
外出制限、と言われても、今までだって砦の外になんて一歩も出てない。
騎士団の敷地内で倉庫と食堂と自室(たまに副団長室)を行き来してただけの自分にとって、それは“特別な制限”というより“いつも通り”の延長みたいなものだった。
けれど、それでも、どこか心に引っかかりが残った。
(……こうして、ずっと守られてるだけ……は違うよな)
便利屋として、通訳として、この砦でできることは確かにある。
「……あの、ロナルドさん」
意を決して、声をかける。
「もちろん言われた通りにはします。でも……僕、自分にできることがあるなら、ちゃんと役に立ちたいんです。怖いけど、何も知らないままでいる方が、よほど怖い気がして」
ロナルドさんは一瞬、何か言いかけて──黙った。
そのまま視線がぶつかる。短い沈黙。
……と。
「お前さあ……ほんと窒息しそうなやつだよな、ロナルドは」
割り込むようにして入ってきたのは、ルースさんだった。
砦の廊下、ちょうど倉庫裏の少し開けた場所。
肩を回しながら歩いてきた彼は、わざとらしいほど大きな声で言った。
「レンに“動くな、黙ってろ”とか……隔離するみたいな扱いして、ほんとそれでいいのか?」
「これは命令だ。お前には関係ない」
ロナルドさんが目を細めて応じる。
その視線には、明らかな警戒があった。
でも、ルースさんは引かない。
むしろ、いつもの軽さの奥に、はっきりとした熱があった。
「関係あるよ。俺はあいつの味方だし」
「……は?」
「レンが何かを知ろうとしてるのに、“何も知らないから守る”とか言って足止めして、なにが守る、だよ。知ろうとする意思を潰す方が、よっぽど危険だろ」
ルースさんの声が、刃のように鋭くなる。
見たことのない顔だった。普段はへらへらしてるのに、今の彼は──まっすぐに、怒っていた。
(……な、なんでそんな怒ってるの?)
戸惑う僕を挟んで、二人の間に、ぴんと張り詰めた空気が走る。
剣を交えるより前の、一瞬の静けさ。
ただ立っているだけなのに、息が詰まりそうだった。
思わず、口を開く。
「……喧嘩、しないでください」
我ながら間抜けな仲裁のセリフだと思ったけど、もうそれしか言えなかった。
「ロナルドさんの言ってることも分かります。ルースさんの言ってることも、です。でも、僕は……命令されるだけの存在じゃなくて、ちゃんとこの場所の一部でいたいんです」
僕の言葉に、ふたりの視線が重なった。
その瞬間、どこかの糸がふっと緩む。
ロナルドさんが、小さく息をついて目を逸らす。
「……分かった。必要以上に縛るつもりはない。ただし、何かあったらすぐ報告しろ」
「はい。ちゃんと、します」
ルースさんも、少しだけ目を細めたまま、口元に笑みを戻した。
「ま、守るばっかりじゃ、可愛いオメガも逃げちゃうぜ?」
「余計な口を挟むな、ルース」
「やだね、俺は好きに言わせてもらう。なあ、レン?」
ルースさんはふっと笑って、そのまま手を振りながら歩き去った。
その背中を見送って、僕は静かに胸に手を当てる。
(……イケメン二人が僕の上で言い争いってどこのドラマなんだか)
まあ、それにしたって。
知らないままでいるのは、確かに良いことじゃない。
でもロナルドさんの守ろうとする気持ちも有り難いものだ。
(僕にできること、かぁ……)
怖くても。
迷っても。
それは人に教えてもらうだけではなく、自分自身で考えるべきなんだろうな、と思った。
———————
投稿は毎日7:30・21:30の2回です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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みんな言葉にはしないけど、目が違う。
歩く速度、視線の巡らせ方、背中に漂う緊張。
何かが動いているんだってことは、鈍感な僕にも分かる。
そんな中で、今日も僕は、倉庫で帳簿の整理をしていた。
だるいくらい平和な作業。だけど、今日は途中で止められた。
「レン。今後、単独行動は控えろ。必要があれば必ず報告しろ。……いいな」
ロナルドさんの低い声は、いつも以上に硬かった。
「……はい。分かりました」
僕は素直にうなずいた。
(……うん、まあ。そもそも出歩かないしな)
外出制限、と言われても、今までだって砦の外になんて一歩も出てない。
騎士団の敷地内で倉庫と食堂と自室(たまに副団長室)を行き来してただけの自分にとって、それは“特別な制限”というより“いつも通り”の延長みたいなものだった。
けれど、それでも、どこか心に引っかかりが残った。
(……こうして、ずっと守られてるだけ……は違うよな)
便利屋として、通訳として、この砦でできることは確かにある。
「……あの、ロナルドさん」
意を決して、声をかける。
「もちろん言われた通りにはします。でも……僕、自分にできることがあるなら、ちゃんと役に立ちたいんです。怖いけど、何も知らないままでいる方が、よほど怖い気がして」
ロナルドさんは一瞬、何か言いかけて──黙った。
そのまま視線がぶつかる。短い沈黙。
……と。
「お前さあ……ほんと窒息しそうなやつだよな、ロナルドは」
割り込むようにして入ってきたのは、ルースさんだった。
砦の廊下、ちょうど倉庫裏の少し開けた場所。
肩を回しながら歩いてきた彼は、わざとらしいほど大きな声で言った。
「レンに“動くな、黙ってろ”とか……隔離するみたいな扱いして、ほんとそれでいいのか?」
「これは命令だ。お前には関係ない」
ロナルドさんが目を細めて応じる。
その視線には、明らかな警戒があった。
でも、ルースさんは引かない。
むしろ、いつもの軽さの奥に、はっきりとした熱があった。
「関係あるよ。俺はあいつの味方だし」
「……は?」
「レンが何かを知ろうとしてるのに、“何も知らないから守る”とか言って足止めして、なにが守る、だよ。知ろうとする意思を潰す方が、よっぽど危険だろ」
ルースさんの声が、刃のように鋭くなる。
見たことのない顔だった。普段はへらへらしてるのに、今の彼は──まっすぐに、怒っていた。
(……な、なんでそんな怒ってるの?)
戸惑う僕を挟んで、二人の間に、ぴんと張り詰めた空気が走る。
剣を交えるより前の、一瞬の静けさ。
ただ立っているだけなのに、息が詰まりそうだった。
思わず、口を開く。
「……喧嘩、しないでください」
我ながら間抜けな仲裁のセリフだと思ったけど、もうそれしか言えなかった。
「ロナルドさんの言ってることも分かります。ルースさんの言ってることも、です。でも、僕は……命令されるだけの存在じゃなくて、ちゃんとこの場所の一部でいたいんです」
僕の言葉に、ふたりの視線が重なった。
その瞬間、どこかの糸がふっと緩む。
ロナルドさんが、小さく息をついて目を逸らす。
「……分かった。必要以上に縛るつもりはない。ただし、何かあったらすぐ報告しろ」
「はい。ちゃんと、します」
ルースさんも、少しだけ目を細めたまま、口元に笑みを戻した。
「ま、守るばっかりじゃ、可愛いオメガも逃げちゃうぜ?」
「余計な口を挟むな、ルース」
「やだね、俺は好きに言わせてもらう。なあ、レン?」
ルースさんはふっと笑って、そのまま手を振りながら歩き去った。
その背中を見送って、僕は静かに胸に手を当てる。
(……イケメン二人が僕の上で言い争いってどこのドラマなんだか)
まあ、それにしたって。
知らないままでいるのは、確かに良いことじゃない。
でもロナルドさんの守ろうとする気持ちも有り難いものだ。
(僕にできること、かぁ……)
怖くても。
迷っても。
それは人に教えてもらうだけではなく、自分自身で考えるべきなんだろうな、と思った。
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