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第16話『誰かが嘘をついてる?』
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きっかけは、ごく些細な“違和感”だった。
「……あれ? この伝票、日付が……ずれてる……?」
帳簿の整理中、ふと見かけた一枚の紙。
補給品の受領伝票──それ自体はいつものものだったけれど、提出日が三日も前倒しになっていた。
「でも、現物の納品は今日の朝だったはず……」
倉庫の確認記録にも、台車の出入りにも、ズレはない。
あるのは“紙”だけだ。
ちょっとした記入ミスだろう、と思ってその場は流した。
──けれど、その“ズレ”は、それ一件では終わらなかった。
「……伝票の誤記が、立て続けに?」
昼過ぎ、副団長室。
報告を受けたテオさんは、眉をしかめながら何枚かの用紙を見比べた。
「数は?」
「今週に入ってから……七件です」
全部、納品日と受領日、あるいは納品数が微妙に違っていた。
ズレの幅はどれも小さい。数日、あるいは数個程度。
けれど、それが複数重なると──じわじわと“何か”が見えてくる。
「確認ですが、伝票管理を引き継いだのは……いつからです?」
「僕が関わるようになったのは、先週の火曜日です」
そう答えると、テオさんの手がほんの一瞬、止まった。
──ああ、まただ。
ほんのわずか。気のせいだと思えるくらいの、微細な間。
(……なんか、これって)
気づいてしまった。
僕の目の前では、誰も僕を責めない。
「疑ってる」なんて、誰一人、言わない。
でも──そういう空気だけが、微妙にある気がした。
※
夕方。帳簿を運んで通路を歩いていると、向こうから声が聞こえてきた。
「……まあ、レンが来てからなんだよな、ズレ出始めたのって」
「あー……わざとじゃないだろうけどさ、異世界人だし、帳簿の書式も違うって話じゃん?」
「言葉通じるからって、信用しすぎたかもなあ……」
足が止まった。
声の主は、名前を知らない騎士たち。
階級はきっと僕より上。だけど、砦の中では直接関わらない部署の人たちだった。
(わざと、じゃないけど──か)
別に、悪意があるってわけじゃないのは分かってる。
彼らだって、任務に忙殺されてる中で、伝票の不備が続けば不安になるのは当然だ。
確認に次ぐ確認はしていたし、慣れている作業でもある。
けれど、僕のせいじゃないと、自分で言い切れる証拠はない。
(けど……なんか、胸が苦しいな)
誰かが嘘をついている。
そう感じる。でも、その「誰か」に、自分の名前が挙げられているかもしれないというこの感覚。
人間不信、なんて大げさな言葉じゃなくて──
ほんの少し、自分の輪郭がぐらつくような、そんな感覚だった。
※
その夜、食堂の隅でスープを飲んでいると、向かいにルースさんが腰を下ろした。
「なに、落ち込んでんの?」
軽い声。
でも、その目は、ちゃんと“今の僕”を見ていた。
「……伝票のことで、ざわついてるの知ってます?」
「まあな」
「僕が手をつけてから増えたって……言われてるみたいで」
「んー……言われてるというか、そう言われてるって思ってんの、レン自身じゃね?」
スプーンを止めた僕を見て、ルースさんは肩をすくめる。
「確かにレンが言うように噂は出てる。けど俺が聞いた感じだと、レンが思っているような感じじゃねーけど?」
「……そうですかね……僕はそう感じませんけど」
「おーおー。一丁前に疑心暗鬼ってか?疲れてるねぇ、レン」
スプーンの柄で、卓上の水滴をなぞりながら彼は続けた。
「レンはいま、冷静じゃないように俺には見えるけどね」
ルースさんの言葉は、なんていうか──
やっぱり“嘘”がなかった。
僕は、ようやく息をついた。
「……僕、調べます。ちゃんと、自分の目で、どこでズレてるのか。誰かがミスしてるなら、それが誰でもないってことも含めて、ちゃんと見つけたい」
「お。探偵ごっこか?」
笑いながら、ルースさんが言う。
「じゃあ、俺は助手やってやるよ。事件解決まで、コーヒーでも持ってくからさ」
「……コーヒーはうれしいですけど、ちゃんと手伝ってくれるんですよね?」
そんなやり取りをしながら、少しだけ笑った。
でも、胸の奥には、まだざらついた疑念が残っていた。
それは──誰かがついた嘘。
見つけなきゃいけない。
でも、疑心暗鬼は捨てるべきなんだろう。
てか、この世界にも“探偵”職はあるんだな。
———————
投稿は毎日7:30・21:30の2回です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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「……あれ? この伝票、日付が……ずれてる……?」
帳簿の整理中、ふと見かけた一枚の紙。
補給品の受領伝票──それ自体はいつものものだったけれど、提出日が三日も前倒しになっていた。
「でも、現物の納品は今日の朝だったはず……」
倉庫の確認記録にも、台車の出入りにも、ズレはない。
あるのは“紙”だけだ。
ちょっとした記入ミスだろう、と思ってその場は流した。
──けれど、その“ズレ”は、それ一件では終わらなかった。
「……伝票の誤記が、立て続けに?」
昼過ぎ、副団長室。
報告を受けたテオさんは、眉をしかめながら何枚かの用紙を見比べた。
「数は?」
「今週に入ってから……七件です」
全部、納品日と受領日、あるいは納品数が微妙に違っていた。
ズレの幅はどれも小さい。数日、あるいは数個程度。
けれど、それが複数重なると──じわじわと“何か”が見えてくる。
「確認ですが、伝票管理を引き継いだのは……いつからです?」
「僕が関わるようになったのは、先週の火曜日です」
そう答えると、テオさんの手がほんの一瞬、止まった。
──ああ、まただ。
ほんのわずか。気のせいだと思えるくらいの、微細な間。
(……なんか、これって)
気づいてしまった。
僕の目の前では、誰も僕を責めない。
「疑ってる」なんて、誰一人、言わない。
でも──そういう空気だけが、微妙にある気がした。
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夕方。帳簿を運んで通路を歩いていると、向こうから声が聞こえてきた。
「……まあ、レンが来てからなんだよな、ズレ出始めたのって」
「あー……わざとじゃないだろうけどさ、異世界人だし、帳簿の書式も違うって話じゃん?」
「言葉通じるからって、信用しすぎたかもなあ……」
足が止まった。
声の主は、名前を知らない騎士たち。
階級はきっと僕より上。だけど、砦の中では直接関わらない部署の人たちだった。
(わざと、じゃないけど──か)
別に、悪意があるってわけじゃないのは分かってる。
彼らだって、任務に忙殺されてる中で、伝票の不備が続けば不安になるのは当然だ。
確認に次ぐ確認はしていたし、慣れている作業でもある。
けれど、僕のせいじゃないと、自分で言い切れる証拠はない。
(けど……なんか、胸が苦しいな)
誰かが嘘をついている。
そう感じる。でも、その「誰か」に、自分の名前が挙げられているかもしれないというこの感覚。
人間不信、なんて大げさな言葉じゃなくて──
ほんの少し、自分の輪郭がぐらつくような、そんな感覚だった。
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その夜、食堂の隅でスープを飲んでいると、向かいにルースさんが腰を下ろした。
「なに、落ち込んでんの?」
軽い声。
でも、その目は、ちゃんと“今の僕”を見ていた。
「……伝票のことで、ざわついてるの知ってます?」
「まあな」
「僕が手をつけてから増えたって……言われてるみたいで」
「んー……言われてるというか、そう言われてるって思ってんの、レン自身じゃね?」
スプーンを止めた僕を見て、ルースさんは肩をすくめる。
「確かにレンが言うように噂は出てる。けど俺が聞いた感じだと、レンが思っているような感じじゃねーけど?」
「……そうですかね……僕はそう感じませんけど」
「おーおー。一丁前に疑心暗鬼ってか?疲れてるねぇ、レン」
スプーンの柄で、卓上の水滴をなぞりながら彼は続けた。
「レンはいま、冷静じゃないように俺には見えるけどね」
ルースさんの言葉は、なんていうか──
やっぱり“嘘”がなかった。
僕は、ようやく息をついた。
「……僕、調べます。ちゃんと、自分の目で、どこでズレてるのか。誰かがミスしてるなら、それが誰でもないってことも含めて、ちゃんと見つけたい」
「お。探偵ごっこか?」
笑いながら、ルースさんが言う。
「じゃあ、俺は助手やってやるよ。事件解決まで、コーヒーでも持ってくからさ」
「……コーヒーはうれしいですけど、ちゃんと手伝ってくれるんですよね?」
そんなやり取りをしながら、少しだけ笑った。
でも、胸の奥には、まだざらついた疑念が残っていた。
それは──誰かがついた嘘。
見つけなきゃいけない。
でも、疑心暗鬼は捨てるべきなんだろう。
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