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第17話『これくらいで潰れる僕じゃぁない』
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報告書に、何度も目を走らせる。
(……これで、間違いはない……はず)
でも、確信はない。
確認したって、裏付けたって、どこかが不安になる。
自分の作った表計算。誰が見ても分かりやすいように、補足欄までつけた。
それでも、誰かに「これは正しい」と言ってもらわないと、不安で仕方なかった。
昨日からずっとそうだ。
誰も「僕を責めない」のに、空気の中に“疑念”が漂ってる気がしてしまう。
(……僕が被害妄想してるだけなのかもしれないけど。あったなぁ、会社でも……僕に責任だけをなすりつけられること)
でも、誰かが嘘をついてる。
それだけは、間違いない。
「……資料、まとまったか?」
背後から聞こえた低い声に、びくっとなった。
振り返ると、ロナルドさんがいた。
いつもと同じ冷静な顔。だけど、その目だけは、どこか優しかった。
「はい……一応、必要なデータと不備の一覧は全部……。間違いがあれば、すぐ直します……」
自分でもびっくりするくらい、声が弱々しかった。
でも、ロナルドさんは言葉を選ぶように、ゆっくりと呟いた。
「……よくやったな。ここまでで十分だ。あとは、俺たちが処理する」
そのひと言が、心に染み込んでくる。
誰かが「大丈夫だ」と言ってくれることが、こんなに救いになるなんて。
たったそれだけの言葉で、ぐらついていた足元が少しだけ固まるような気がした。
そして、彼はもう一歩、近づいて。
「……誰がなんと言おうと、俺はお前の味方だ」
その声は、僕にだけ届くように、小さくて、強くて、確かだった。
なぜだろう。
さっきまで震えていた手が、すっと静かになる。
目を伏せて、「ありがとうございます」とだけ返した。
それ以上何かを言ったら、声が震えそうだったから。
※
──数歩、離れた柱の陰で。
「……ほんっと、お前のそういうところ、嫌いだわ」
誰にともなく、ルースが低く呟いた。
その声は風に紛れ、誰の耳にも届かないはずだった。
レンが振り返ることはなかった。だが、何かの視線をかすかに感じた気がして、一瞬だけ眉をひそめた。
その夜。
砦の裏手──見張りの目が届かない場所に、ルースは一人、佇んでいた。夜気は静かで、遠くから訓練場の風鈴のような金属音が響く。
彼の手には、小さな魔法具があった。
掌に収まるほどの黒水晶に、魔力を流し込むと、淡く紋様が浮かび上がり、音もなく発光する。
「……第二便の詳細、今夜中に寄越せ。こっちは動ける状態にある」
声に応じて水晶の奥から、囁くような声が返ってきた。
ルースはそれに短く舌打ちし、魔具をジャケットの内側にしまうと、夜空を仰いだ。
砦の屋根の上には、いつもの灯りが見える。
「……もう少しだけ……なんてのは、感傷か」
誰にも聞かれないように、誰にも悟られないように。
彼はそう、空に向かって小さく呟いた。
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投稿は毎日7:30・21:30の2回です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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(……これで、間違いはない……はず)
でも、確信はない。
確認したって、裏付けたって、どこかが不安になる。
自分の作った表計算。誰が見ても分かりやすいように、補足欄までつけた。
それでも、誰かに「これは正しい」と言ってもらわないと、不安で仕方なかった。
昨日からずっとそうだ。
誰も「僕を責めない」のに、空気の中に“疑念”が漂ってる気がしてしまう。
(……僕が被害妄想してるだけなのかもしれないけど。あったなぁ、会社でも……僕に責任だけをなすりつけられること)
でも、誰かが嘘をついてる。
それだけは、間違いない。
「……資料、まとまったか?」
背後から聞こえた低い声に、びくっとなった。
振り返ると、ロナルドさんがいた。
いつもと同じ冷静な顔。だけど、その目だけは、どこか優しかった。
「はい……一応、必要なデータと不備の一覧は全部……。間違いがあれば、すぐ直します……」
自分でもびっくりするくらい、声が弱々しかった。
でも、ロナルドさんは言葉を選ぶように、ゆっくりと呟いた。
「……よくやったな。ここまでで十分だ。あとは、俺たちが処理する」
そのひと言が、心に染み込んでくる。
誰かが「大丈夫だ」と言ってくれることが、こんなに救いになるなんて。
たったそれだけの言葉で、ぐらついていた足元が少しだけ固まるような気がした。
そして、彼はもう一歩、近づいて。
「……誰がなんと言おうと、俺はお前の味方だ」
その声は、僕にだけ届くように、小さくて、強くて、確かだった。
なぜだろう。
さっきまで震えていた手が、すっと静かになる。
目を伏せて、「ありがとうございます」とだけ返した。
それ以上何かを言ったら、声が震えそうだったから。
※
──数歩、離れた柱の陰で。
「……ほんっと、お前のそういうところ、嫌いだわ」
誰にともなく、ルースが低く呟いた。
その声は風に紛れ、誰の耳にも届かないはずだった。
レンが振り返ることはなかった。だが、何かの視線をかすかに感じた気がして、一瞬だけ眉をひそめた。
その夜。
砦の裏手──見張りの目が届かない場所に、ルースは一人、佇んでいた。夜気は静かで、遠くから訓練場の風鈴のような金属音が響く。
彼の手には、小さな魔法具があった。
掌に収まるほどの黒水晶に、魔力を流し込むと、淡く紋様が浮かび上がり、音もなく発光する。
「……第二便の詳細、今夜中に寄越せ。こっちは動ける状態にある」
声に応じて水晶の奥から、囁くような声が返ってきた。
ルースはそれに短く舌打ちし、魔具をジャケットの内側にしまうと、夜空を仰いだ。
砦の屋根の上には、いつもの灯りが見える。
「……もう少しだけ……なんてのは、感傷か」
誰にも聞かれないように、誰にも悟られないように。
彼はそう、空に向かって小さく呟いた。
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