異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし

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第24話『その顔、ずるくないですか』

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戦場の空気にも、ようやく慣れてきた──そう思っていた矢先だった。

「哨戒部隊、第三列異常! 前方に紫騎士団の独立部隊を確認!」

前線指揮所がざわつき始めたのは、午後の半端な時間帯。補給路確保のため、物資隊の警護に就いていた僕は、状況の把握と通訳のため現地に向かうことになった。

「レン、無理はするなよ。現場の言語は混じってるから、正確な通訳を頼む」

そう言ってきたのはロナルドさんだった。
いつもよりほんの少し、目元が険しかった気がする。

「大丈夫です、任せてください」

胸の奥はざわついていたけれど、それでも僕は、彼の目を正面から見て頷いた。

──それが、まさかこの後、彼とふたりだけで孤立するとは思ってもいなかった。



「っ、伏せろ!」

飛び込むように土嚢の裏に隠れる。
紫の軍装をまとった兵たちが数人、草地から姿を現した。

本来なら補給部の者が踏み込む範囲ではない。
けれど僕たちは、まぎれもなく敵の小隊に包囲されていた。

ロナルドさんが剣を抜き、一人、二人と正確に捌いていく。
けれど──

「……ッ、ロナルドさん!」

鈍い音とともに、彼の左腕が切られた。
すぐに返しの一撃で敵を倒したが、ロナルドさんの腕から血が流れている。

「レン……下がってろ」
「無理です!」

思わず駆け寄る。
手持ちの包帯では間に合わない。出血量が多すぎる。

「ロナルドさん、ごめんなさい──舐めます!」

何をどう思われてもいい。
そう思って、傷口に舌を伸ばした。

瞬間、あの時と同じ、不思議な熱が走る。
組織が結び、皮膚が寄る。僕の身体に備わっている癒しの能力。口内に広がるのは濃い鉄錆の味だ。

ロナルドさんは驚いたように目を開いていたけれど、何も言わなかった。
ただ、僕の手を軽く握っていた。

(このまずささえなきゃなぁ……)



敵の残党を追い払ったあと。
応援が来るまで、僕たちは野営地点の焚き火で夜を越すことになった。

風は冷たい。
でも、背中の火と、隣にいる彼の存在で、震えずにいられた。

「……さっきの、ありがとうな」

ぼそりと呟く声。

「いえ。できることを、しただけです」
「……だとしても。あんなこと、簡単にできることじゃない」

しばらく沈黙があって、焚き火のはぜる音だけが耳に残った。
けれど、その沈黙のあとに──彼は言った。

「お前が、必要だ。……俺にとって、誰よりも」

……心臓が、ぽんっと踊る。

一瞬、言葉の意味が掴めなかった。
でも、ロナルドさんは、焚き火の光の中で僕を見ていた。
真剣に。

「そ、れ……は……」

思わず視線を逸らした。
あの、寡黙でぶっきらぼうな彼が、そんなことを言うなんて。

混乱と、驚きと──少しの、嬉しさ。

でも、今は、それにどう応えればいいのか分からなかった。
だから、僕はただ、隣で黙ってしまう。

「答えは急がない……こんな時に、すまない」

ロナルドさんがそう呟いた。
薪が爆ぜる音が響く中、ちらりと見た横顔は随分と様になっている。
その様は男である僕でさえどきりとするもので。

「……なんか、ずるいんだよなぁ……」

彼に聞こえたかどうかは分からない。
でも、焚き火の温度が、少しだけ上がったような気がした。



その夜の遠く離れた場所で。
ルースは、一通の報せを見ていた。
震える拳。

目を閉じて、ルースは深く、息を吐いた。

「……もう、時間がないんだよ。レン」

彼が向いたその先に、どこまでも濃い夜が広がっていた。




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