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第25話『ルースさんがいない』
紫騎士団の前線が崩れ、黒騎士団は反撃に転じた。
捕虜となった兵(と呼んでいいのか迷うけれど)から、「中央の命令ではない独断行動だった」という証言が出て──戦況は急速に終息へと向かっていった。
全面的な勝利とは言い難かった。
それでも、僕たちは、なんとか生きて帰ってきた。
「おかえり!」
「レン! 無事だったんだな!」
「おまえ、マジで役に立ってたって話、もう噂になってるぞ」
笑顔と声が次々にぶつかってくる。
それが、あまりに眩しくて──思わず、目を伏せた。
「……ただいま、戻りました」
そう呟いた瞬間、安心が込み上げてくる。
(……帰ってこれた。ここに、ちゃんと)
ロナルドさんと孤立した時は正直、どうなるかと思ったが……こうして戻れたことに僕は息を吐いた。
どうやらここに残っていた人も、戻ってきた人も、致命傷などは負っていないようだった。
あの特異な“治療”をしなくていいのは、正直ありがたい……。
(……この能力、便利なんだけど方法がなぁ……)
気まずさとありがたさとで、胃の奥がきゅっと縮んだ。
それでも、これでようやく一息つける──そう思っていたのに。
「……あれ?」
ロナルドさんと帰還記録の確認をしていた時、不意に気づいた。
「あれ? ルースさん、は?」
彼の姿が、どこにもない。
常にふざけて、軽口を叩いて、真面目な顔をしても次の瞬間には茶化す。
そんなルースさんが──どこにも、いなかった。
「戻ってないのか?」
近くにいたロナルドさんも僕の声に、辺りを見回す。
ルースさんが、いない。
なんとも言えないモヤモヤとした感情が湧き上がってくる。
不安のような焦燥のような。
(いや……トイレとか、かもしれないしな……)
その時だった。
「副団長が到着されました! 伝令急報! イーサン団長からの直命です!」
騎乗の伝令に続いて──テオさん本人が、砦に飛び込んできた。
馬の腹には泡が噴き、いつも冷静な彼の眉間には深い皺が刻まれている。
……何かが、起きた。嫌な、悪い、取り返しのつかない何かが。
「──中央より正式通達があった」
その言葉に、場の空気が一気に変わる。
「紫騎士団の件……私たち黒騎士団が、中央命令に反し反旗を翻したとされている」
「……は?」
ロナルドさんが、信じられないものを見るように目を見開く。
「そんな馬鹿な……俺たちは、紫の攻撃に対する防衛戦を──」
「すべては覆された。証拠も偽造されている」
それがどういうことか、すぐに理解できなかった。
でも、次の言葉がすべてを凍りつかせた。
「……ルースはどこだ?」
「それが……」と、僕は答えかけて──言葉を詰まらせた。
不意に思い出す。
砦をロナルドさんとルースさんが出た時に見かけた、あの姿。
「……あの」
僕は震える声で言った。
「ロナルドさん、テオさん。あの、僕こういう道具を見て……」
形状などを軽く説明すると、2人はすぐに察知したようで、お互いに目を見合わせた。そして、2人の視線がまた僕に戻る。
テオさんが口を開いた。
「それは恐らく……通信関係の魔具だ。厳重に管理されていて簡単に出せるものではない。訓練でもほとんど使わない。誰が持っていた……?」
テオさんの声が低くなる。
僕は少し考えたが、黙っているわけにもいかなかった。
「ルースさんが……砦を出る時に持ってて……」
「馬鹿な……俺たちはそれを持って出なかった」
ロナルドさんが眉を顰める。
沈黙。
空気が凍りついた。
「……まさか」
ロナルドさんが、低く呟く。
「ルースが……間諜だったっていうのか?」
「そんな!」
思わず僕が声を上げる。
信じたくない。そんなわけがない。
軽口でそのくせ僕に気を遣ってくれた──信頼してる仲間。
思わず、唇を噛んだ。
けれど現実というのは残酷なもので。
「……ルース・モルフェは、紫の者だった。中央に裏切り者として我々を売ったのも──彼だ」
テオさんの冷たい声が、落ちる。
ロナルドさんも、拳を握りしめたまま、目を伏せていた。
その拳は、静かに震えていた。
———————
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捕虜となった兵(と呼んでいいのか迷うけれど)から、「中央の命令ではない独断行動だった」という証言が出て──戦況は急速に終息へと向かっていった。
全面的な勝利とは言い難かった。
それでも、僕たちは、なんとか生きて帰ってきた。
「おかえり!」
「レン! 無事だったんだな!」
「おまえ、マジで役に立ってたって話、もう噂になってるぞ」
笑顔と声が次々にぶつかってくる。
それが、あまりに眩しくて──思わず、目を伏せた。
「……ただいま、戻りました」
そう呟いた瞬間、安心が込み上げてくる。
(……帰ってこれた。ここに、ちゃんと)
ロナルドさんと孤立した時は正直、どうなるかと思ったが……こうして戻れたことに僕は息を吐いた。
どうやらここに残っていた人も、戻ってきた人も、致命傷などは負っていないようだった。
あの特異な“治療”をしなくていいのは、正直ありがたい……。
(……この能力、便利なんだけど方法がなぁ……)
気まずさとありがたさとで、胃の奥がきゅっと縮んだ。
それでも、これでようやく一息つける──そう思っていたのに。
「……あれ?」
ロナルドさんと帰還記録の確認をしていた時、不意に気づいた。
「あれ? ルースさん、は?」
彼の姿が、どこにもない。
常にふざけて、軽口を叩いて、真面目な顔をしても次の瞬間には茶化す。
そんなルースさんが──どこにも、いなかった。
「戻ってないのか?」
近くにいたロナルドさんも僕の声に、辺りを見回す。
ルースさんが、いない。
なんとも言えないモヤモヤとした感情が湧き上がってくる。
不安のような焦燥のような。
(いや……トイレとか、かもしれないしな……)
その時だった。
「副団長が到着されました! 伝令急報! イーサン団長からの直命です!」
騎乗の伝令に続いて──テオさん本人が、砦に飛び込んできた。
馬の腹には泡が噴き、いつも冷静な彼の眉間には深い皺が刻まれている。
……何かが、起きた。嫌な、悪い、取り返しのつかない何かが。
「──中央より正式通達があった」
その言葉に、場の空気が一気に変わる。
「紫騎士団の件……私たち黒騎士団が、中央命令に反し反旗を翻したとされている」
「……は?」
ロナルドさんが、信じられないものを見るように目を見開く。
「そんな馬鹿な……俺たちは、紫の攻撃に対する防衛戦を──」
「すべては覆された。証拠も偽造されている」
それがどういうことか、すぐに理解できなかった。
でも、次の言葉がすべてを凍りつかせた。
「……ルースはどこだ?」
「それが……」と、僕は答えかけて──言葉を詰まらせた。
不意に思い出す。
砦をロナルドさんとルースさんが出た時に見かけた、あの姿。
「……あの」
僕は震える声で言った。
「ロナルドさん、テオさん。あの、僕こういう道具を見て……」
形状などを軽く説明すると、2人はすぐに察知したようで、お互いに目を見合わせた。そして、2人の視線がまた僕に戻る。
テオさんが口を開いた。
「それは恐らく……通信関係の魔具だ。厳重に管理されていて簡単に出せるものではない。訓練でもほとんど使わない。誰が持っていた……?」
テオさんの声が低くなる。
僕は少し考えたが、黙っているわけにもいかなかった。
「ルースさんが……砦を出る時に持ってて……」
「馬鹿な……俺たちはそれを持って出なかった」
ロナルドさんが眉を顰める。
沈黙。
空気が凍りついた。
「……まさか」
ロナルドさんが、低く呟く。
「ルースが……間諜だったっていうのか?」
「そんな!」
思わず僕が声を上げる。
信じたくない。そんなわけがない。
軽口でそのくせ僕に気を遣ってくれた──信頼してる仲間。
思わず、唇を噛んだ。
けれど現実というのは残酷なもので。
「……ルース・モルフェは、紫の者だった。中央に裏切り者として我々を売ったのも──彼だ」
テオさんの冷たい声が、落ちる。
ロナルドさんも、拳を握りしめたまま、目を伏せていた。
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