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第24話『その顔、ずるくないですか』
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戦場の空気にも、ようやく慣れてきた──そう思っていた矢先だった。
「哨戒部隊、第三列異常! 前方に紫騎士団の独立部隊を確認!」
前線指揮所がざわつき始めたのは、午後の半端な時間帯。補給路確保のため、物資隊の警護に就いていた僕は、状況の把握と通訳のため現地に向かうことになった。
「レン、無理はするなよ。現場の言語は混じってるから、正確な通訳を頼む」
そう言ってきたのはロナルドさんだった。
いつもよりほんの少し、目元が険しかった気がする。
「大丈夫です、任せてください」
胸の奥はざわついていたけれど、それでも僕は、彼の目を正面から見て頷いた。
──それが、まさかこの後、彼とふたりだけで孤立するとは思ってもいなかった。
※
「っ、伏せろ!」
飛び込むように土嚢の裏に隠れる。
紫の軍装をまとった兵たちが数人、草地から姿を現した。
本来なら補給部の者が踏み込む範囲ではない。
けれど僕たちは、まぎれもなく敵の小隊に包囲されていた。
ロナルドさんが剣を抜き、一人、二人と正確に捌いていく。
けれど──
「……ッ、ロナルドさん!」
鈍い音とともに、彼の左腕が切られた。
すぐに返しの一撃で敵を倒したが、ロナルドさんの腕から血が流れている。
「レン……下がってろ」
「無理です!」
思わず駆け寄る。
手持ちの包帯では間に合わない。出血量が多すぎる。
「ロナルドさん、ごめんなさい──舐めます!」
何をどう思われてもいい。
そう思って、傷口に舌を伸ばした。
瞬間、あの時と同じ、不思議な熱が走る。
組織が結び、皮膚が寄る。僕の身体に備わっている癒しの能力。口内に広がるのは濃い鉄錆の味だ。
ロナルドさんは驚いたように目を開いていたけれど、何も言わなかった。
ただ、僕の手を軽く握っていた。
(このまずささえなきゃなぁ……)
※
敵の残党を追い払ったあと。
応援が来るまで、僕たちは野営地点の焚き火で夜を越すことになった。
風は冷たい。
でも、背中の火と、隣にいる彼の存在で、震えずにいられた。
「……さっきの、ありがとうな」
ぼそりと呟く声。
「いえ。できることを、しただけです」
「……だとしても。あんなこと、簡単にできることじゃない」
しばらく沈黙があって、焚き火のはぜる音だけが耳に残った。
けれど、その沈黙のあとに──彼は言った。
「お前が、必要だ。……俺にとって、誰よりも」
……心臓が、ぽんっと踊る。
一瞬、言葉の意味が掴めなかった。
でも、ロナルドさんは、焚き火の光の中で僕を見ていた。
真剣に。
「そ、れ……は……」
思わず視線を逸らした。
あの、寡黙でぶっきらぼうな彼が、そんなことを言うなんて。
混乱と、驚きと──少しの、嬉しさ。
でも、今は、それにどう応えればいいのか分からなかった。
だから、僕はただ、隣で黙ってしまう。
「答えは急がない……こんな時に、すまない」
ロナルドさんがそう呟いた。
薪が爆ぜる音が響く中、ちらりと見た横顔は随分と様になっている。
その様は男である僕でさえどきりとするもので。
「……なんか、ずるいんだよなぁ……」
彼に聞こえたかどうかは分からない。
でも、焚き火の温度が、少しだけ上がったような気がした。
※
その夜の遠く離れた場所で。
ルースは、一通の報せを見ていた。
震える拳。
目を閉じて、ルースは深く、息を吐いた。
「……もう、時間がないんだよ。レン」
彼が向いたその先に、どこまでも濃い夜が広がっていた。
———————
投稿は毎日21:30です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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「哨戒部隊、第三列異常! 前方に紫騎士団の独立部隊を確認!」
前線指揮所がざわつき始めたのは、午後の半端な時間帯。補給路確保のため、物資隊の警護に就いていた僕は、状況の把握と通訳のため現地に向かうことになった。
「レン、無理はするなよ。現場の言語は混じってるから、正確な通訳を頼む」
そう言ってきたのはロナルドさんだった。
いつもよりほんの少し、目元が険しかった気がする。
「大丈夫です、任せてください」
胸の奥はざわついていたけれど、それでも僕は、彼の目を正面から見て頷いた。
──それが、まさかこの後、彼とふたりだけで孤立するとは思ってもいなかった。
※
「っ、伏せろ!」
飛び込むように土嚢の裏に隠れる。
紫の軍装をまとった兵たちが数人、草地から姿を現した。
本来なら補給部の者が踏み込む範囲ではない。
けれど僕たちは、まぎれもなく敵の小隊に包囲されていた。
ロナルドさんが剣を抜き、一人、二人と正確に捌いていく。
けれど──
「……ッ、ロナルドさん!」
鈍い音とともに、彼の左腕が切られた。
すぐに返しの一撃で敵を倒したが、ロナルドさんの腕から血が流れている。
「レン……下がってろ」
「無理です!」
思わず駆け寄る。
手持ちの包帯では間に合わない。出血量が多すぎる。
「ロナルドさん、ごめんなさい──舐めます!」
何をどう思われてもいい。
そう思って、傷口に舌を伸ばした。
瞬間、あの時と同じ、不思議な熱が走る。
組織が結び、皮膚が寄る。僕の身体に備わっている癒しの能力。口内に広がるのは濃い鉄錆の味だ。
ロナルドさんは驚いたように目を開いていたけれど、何も言わなかった。
ただ、僕の手を軽く握っていた。
(このまずささえなきゃなぁ……)
※
敵の残党を追い払ったあと。
応援が来るまで、僕たちは野営地点の焚き火で夜を越すことになった。
風は冷たい。
でも、背中の火と、隣にいる彼の存在で、震えずにいられた。
「……さっきの、ありがとうな」
ぼそりと呟く声。
「いえ。できることを、しただけです」
「……だとしても。あんなこと、簡単にできることじゃない」
しばらく沈黙があって、焚き火のはぜる音だけが耳に残った。
けれど、その沈黙のあとに──彼は言った。
「お前が、必要だ。……俺にとって、誰よりも」
……心臓が、ぽんっと踊る。
一瞬、言葉の意味が掴めなかった。
でも、ロナルドさんは、焚き火の光の中で僕を見ていた。
真剣に。
「そ、れ……は……」
思わず視線を逸らした。
あの、寡黙でぶっきらぼうな彼が、そんなことを言うなんて。
混乱と、驚きと──少しの、嬉しさ。
でも、今は、それにどう応えればいいのか分からなかった。
だから、僕はただ、隣で黙ってしまう。
「答えは急がない……こんな時に、すまない」
ロナルドさんがそう呟いた。
薪が爆ぜる音が響く中、ちらりと見た横顔は随分と様になっている。
その様は男である僕でさえどきりとするもので。
「……なんか、ずるいんだよなぁ……」
彼に聞こえたかどうかは分からない。
でも、焚き火の温度が、少しだけ上がったような気がした。
※
その夜の遠く離れた場所で。
ルースは、一通の報せを見ていた。
震える拳。
目を閉じて、ルースは深く、息を吐いた。
「……もう、時間がないんだよ。レン」
彼が向いたその先に、どこまでも濃い夜が広がっていた。
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