異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし

文字の大きさ
26 / 38

第26話『裏切りの理由』

しおりを挟む
紫騎士団の本陣は静かすぎて、時折、風の音が耳に障る。

「で? 役目は果たしたんだろうな?」

椅子にふんぞり返っていたのは、ゼノス・アーチ──紫騎士団を率いる狡猾な将であり、そしてルースの父親だった。

とはいえ、親子という言葉では到底くくれない関係だ。
ゼノスはルースを血としてしか見ておらず、その母のことも名で呼ぶことはなく「あの女」と呼んで憚らない。

彼の手には一本の瓶。淡い紫の液体が揺れる。
母の命をつなぐ唯一の薬。それをちらつかせるのが、父と呼ぶにはあまりにも下劣だった。

「……それを、早く渡してやってくれよ」

唇をかすかに引きつらせながら、ルースは言った。

「渡すかどうかは、貴様の報告次第だ。黒騎士団の内部図と、補給再編案の写し。あのイーサンの番が作った書類も、だ」

イーサンの番──テオのことだ。
ゼノス・アーチはかつて、彼の婚約者でもあったということを、ルースは母から聞いたことがある。
だが目の前の男の目に映るのは、かつての愛ではない。
ただの奪われた所有物への執着だ。

それが、ルースには我慢ならなかった。

「俺が従ってるのは、お前じゃない。……この薬があるからだ。あんたは親でもない。ただの、鎖だ」

吐き捨てて、ルースは扉を開けた。
その背に、ゼノスはただ嗤った。

「犬は、首輪がなきゃ彷徨うだけだ」

返事をする気にもなれなかった。
ドアを閉じる音だけが、静かな廊下に虚しく響いた。



補給班の倉庫に積み上がった帳簿と、再編案の書状。

「……こんな簡素化できるの、よく気づいたな」

テオさんが書類をめくりながら言った。

「現場で、実際に回らなくなってるのを見たので……あ、ここです。搬送ルートを変えると、兵の疲弊が減って――」
「……待て」

急にテオさんが指を止めた。

「この内容、恐らく……筒抜けだと思っていい」
「えっ……?」
「この再編案はいつ考えたものだ?」
「ロナルドさんと出る前に……」
「ならば、もう……誰かに渡されている」

背筋が冷える感覚。
そこへ、ロナルドさんも部屋に入ってきた。

「駄目だ、やはり王都からの支援は届かない」
「だろうな……深手のものがいないのが幸いか……情報を持ち去ったのは……」

テオさんが重く言い、ちらりと名簿に目をやる。そのページの隅には、ルースさんの名前が……。

「……ルース……」

ロナルドさんが低く呟く。

「……あいつがそんな真似をするなんて信じられない」
「そうだな。だが……そんな真似をさせるものが、あったとしたら?」
「させるもの……?」

僕が問うと、テオさんは静かに言った。

「選べない時がある。選んだつもりでも、選ばされる時がある」

どこか、遠い目をしていた。

「……理由があるなら、僕は知りたいです。たとえルースさんが敵でも」

僕の声に、二人が振り返った。



僕は再度補給のチェックをするために、倉庫の前にいた。
採算とチェック入れるものの、やはり心配にはなる。
何せ、今は補給が絶たれている状況だ。

(無駄を出さないようにしないと……)

その時だった。

「……レン」

声をかけられて振り返ると、そこにいたのはルースさんだった。

「えっ……! ルースさん……?」
「変わったな、お前。ほんと、変わっちまった」
「……ルースさんのほうこそ、なんか……」
「……そうだな。俺も、変わらなきゃいけないんだよ」

夜の闇が濃くなる中で、ルースさんは笑っていた。
その笑顔が、どこか寂しくて。

「なあ、レン。お前は選べ。どこで、誰と生きていくか。絶対に、自分で選べ」

その言葉を残して、ルースさんは影の中へ消えていった。

僕は、一歩も動けなかった。
その背中に、何かを感じた。
だけど──まだ、それが何なのかは、分からなかった。



———————
投稿は毎日21:30です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
-——————
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!

N2O
BL
脳筋ゆえ不本意な塩対応を只今猛省中、ユキヒョウの獣人 × 箱入りゆえガードが甘い愛され体質な竜人 愛しい幼馴染が有象無象に狙われて、居ても立っても居られなくなっていく余裕のない攻めの話。 (安心してください、想像通り、期待通りの展開です) Special thanks illustration by みとし (X:@ibarakiniarazu) ※独自設定かつ、ふんわり設定です。 ※素人作品です。 ※保険としてR設定にしていますが、基本健全。ほぼない。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

処理中です...