異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし

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第23話『前線で必要とされるということ』

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第24話『前線で必要とされるということ』

紫騎士団の奇襲から五日。
砦の防衛線は持ちこたえてはいるものの、最前線の混乱はひどかった。

補給、医療、情報──どれも綱渡りの状態で、報告は錯綜し、物資は届いても配分が追いつかない。もはや「誰がやるか」ではなく「できる人がやる」段階だった。

「……だったら、僕が行くしかないか」

思わず出た言葉。だが、僕の中に迷いはなかった。
通訳も、記録も、応急処置もできる。何より、今の僕には“役割”がある。
その足でテオさんの元に行く。

「前線に? 君がか?」

短く頷いたあと、彼は少しだけ黙り込んだ。

「……危険を知っていて、それでも行くか?」
「はい。今、最も必要なのは、現場と本部をつなぐ人間です。僕にできます」

しばしの沈黙。
やがて、テオさんは苦笑を浮かべる。

「……あの頃の新入りが、ずいぶんと変わったものだな」

それだけ言って、許可が下りた。



現地は予想以上の混沌だった。
兵士たちが怒鳴り合い、負傷者の処理も追いついていない。記録も補給も、完全に麻痺していた。

「これ……ヤバいな……」

思わず呟きつつも、僕はすぐさま記録石を取り出し、口頭通訳しながら指示を帳面に転写していく。

目の前の一つ一つを片づけていくしかない。

「──やっぱお前、来てたか!」

ルースさんの声が聞こえた。軽装姿、けれど息遣いは荒い。

「無茶はしてねーよな?」
「してません。むしろ、みんなが無茶しないために来ました」
「はは、立派になっちゃってまあ。後ろで潰れんなよ」

そう言って笑いながら去っていく。
入れ替わるように、今度は──ロナルドさん。

「……レン?」

煤けた鎧の端と、わずかな疲労が彼の輪郭をやや沈ませていた。

「来てたのか。……無理をするなよ」
「大丈夫です。通訳も、記録も。あと……」

僕は自分自身の口元を指差す。

「いざとなったら、舐めて治せますよ!」

一瞬、ロナルドさんの目が動いた。
それから、ほんの少し──言葉を探すように、低く言った。

「それは……多くにするものじゃない。……そういうのは、特別な相手に向けるべきだ」

胸の奥で、音が跳ねた気がした。
今のは、どういう意味だったんだろう。

(まあ、そりゃな……こんなおっさんからベロベロされるのは嫌か?)

いや、でも治った方が……?
ううん?わからない。
でも──今は、それを考えている場合じゃなかった。

戦場の片隅で、僕は作業を続ける。
周囲ではまた怒声が上がり、誰かが叫んでいる。

「後詰の連絡が届いてない!」
「薬草庫、燃えたって!? 誰が──」

(……怖くないわけじゃない。というか、僕、本当は“戦争”なんて知らない)

平和な日本で、会社員として生きてきた僕には、
これまでテレビやネットでしか見たことのなかった現実が、目の前にあった。

だけど──

(この中で、僕が“できること”があるなら、やるしかない)

その中で、ふと頭をよぎる。

(やっぱり変だよな……紫騎士団は、なぜ攻めてきた?)

命令系統は?
本国との連絡は?
あれ以来、何も更新がない。

(……何かがおかしい。情報がこうもこないのも)

けれど、今はそれを追う余裕もない。

「レン! 医療班、搬送追加!」
「了解、すぐに!」

名前を呼ばれる。
その響きに、ほんの少しだけ誇らしさを感じた。


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