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第23話『前線で必要とされるということ』
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第24話『前線で必要とされるということ』
紫騎士団の奇襲から五日。
砦の防衛線は持ちこたえてはいるものの、最前線の混乱はひどかった。
補給、医療、情報──どれも綱渡りの状態で、報告は錯綜し、物資は届いても配分が追いつかない。もはや「誰がやるか」ではなく「できる人がやる」段階だった。
「……だったら、僕が行くしかないか」
思わず出た言葉。だが、僕の中に迷いはなかった。
通訳も、記録も、応急処置もできる。何より、今の僕には“役割”がある。
その足でテオさんの元に行く。
「前線に? 君がか?」
短く頷いたあと、彼は少しだけ黙り込んだ。
「……危険を知っていて、それでも行くか?」
「はい。今、最も必要なのは、現場と本部をつなぐ人間です。僕にできます」
しばしの沈黙。
やがて、テオさんは苦笑を浮かべる。
「……あの頃の新入りが、ずいぶんと変わったものだな」
それだけ言って、許可が下りた。
※
現地は予想以上の混沌だった。
兵士たちが怒鳴り合い、負傷者の処理も追いついていない。記録も補給も、完全に麻痺していた。
「これ……ヤバいな……」
思わず呟きつつも、僕はすぐさま記録石を取り出し、口頭通訳しながら指示を帳面に転写していく。
目の前の一つ一つを片づけていくしかない。
「──やっぱお前、来てたか!」
ルースさんの声が聞こえた。軽装姿、けれど息遣いは荒い。
「無茶はしてねーよな?」
「してません。むしろ、みんなが無茶しないために来ました」
「はは、立派になっちゃってまあ。後ろで潰れんなよ」
そう言って笑いながら去っていく。
入れ替わるように、今度は──ロナルドさん。
「……レン?」
煤けた鎧の端と、わずかな疲労が彼の輪郭をやや沈ませていた。
「来てたのか。……無理をするなよ」
「大丈夫です。通訳も、記録も。あと……」
僕は自分自身の口元を指差す。
「いざとなったら、舐めて治せますよ!」
一瞬、ロナルドさんの目が動いた。
それから、ほんの少し──言葉を探すように、低く言った。
「それは……多くにするものじゃない。……そういうのは、特別な相手に向けるべきだ」
胸の奥で、音が跳ねた気がした。
今のは、どういう意味だったんだろう。
(まあ、そりゃな……こんなおっさんからベロベロされるのは嫌か?)
いや、でも治った方が……?
ううん?わからない。
でも──今は、それを考えている場合じゃなかった。
戦場の片隅で、僕は作業を続ける。
周囲ではまた怒声が上がり、誰かが叫んでいる。
「後詰の連絡が届いてない!」
「薬草庫、燃えたって!? 誰が──」
(……怖くないわけじゃない。というか、僕、本当は“戦争”なんて知らない)
平和な日本で、会社員として生きてきた僕には、
これまでテレビやネットでしか見たことのなかった現実が、目の前にあった。
だけど──
(この中で、僕が“できること”があるなら、やるしかない)
その中で、ふと頭をよぎる。
(やっぱり変だよな……紫騎士団は、なぜ攻めてきた?)
命令系統は?
本国との連絡は?
あれ以来、何も更新がない。
(……何かがおかしい。情報がこうもこないのも)
けれど、今はそれを追う余裕もない。
「レン! 医療班、搬送追加!」
「了解、すぐに!」
名前を呼ばれる。
その響きに、ほんの少しだけ誇らしさを感じた。
———————
投稿は毎日21:30です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
-——————
紫騎士団の奇襲から五日。
砦の防衛線は持ちこたえてはいるものの、最前線の混乱はひどかった。
補給、医療、情報──どれも綱渡りの状態で、報告は錯綜し、物資は届いても配分が追いつかない。もはや「誰がやるか」ではなく「できる人がやる」段階だった。
「……だったら、僕が行くしかないか」
思わず出た言葉。だが、僕の中に迷いはなかった。
通訳も、記録も、応急処置もできる。何より、今の僕には“役割”がある。
その足でテオさんの元に行く。
「前線に? 君がか?」
短く頷いたあと、彼は少しだけ黙り込んだ。
「……危険を知っていて、それでも行くか?」
「はい。今、最も必要なのは、現場と本部をつなぐ人間です。僕にできます」
しばしの沈黙。
やがて、テオさんは苦笑を浮かべる。
「……あの頃の新入りが、ずいぶんと変わったものだな」
それだけ言って、許可が下りた。
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現地は予想以上の混沌だった。
兵士たちが怒鳴り合い、負傷者の処理も追いついていない。記録も補給も、完全に麻痺していた。
「これ……ヤバいな……」
思わず呟きつつも、僕はすぐさま記録石を取り出し、口頭通訳しながら指示を帳面に転写していく。
目の前の一つ一つを片づけていくしかない。
「──やっぱお前、来てたか!」
ルースさんの声が聞こえた。軽装姿、けれど息遣いは荒い。
「無茶はしてねーよな?」
「してません。むしろ、みんなが無茶しないために来ました」
「はは、立派になっちゃってまあ。後ろで潰れんなよ」
そう言って笑いながら去っていく。
入れ替わるように、今度は──ロナルドさん。
「……レン?」
煤けた鎧の端と、わずかな疲労が彼の輪郭をやや沈ませていた。
「来てたのか。……無理をするなよ」
「大丈夫です。通訳も、記録も。あと……」
僕は自分自身の口元を指差す。
「いざとなったら、舐めて治せますよ!」
一瞬、ロナルドさんの目が動いた。
それから、ほんの少し──言葉を探すように、低く言った。
「それは……多くにするものじゃない。……そういうのは、特別な相手に向けるべきだ」
胸の奥で、音が跳ねた気がした。
今のは、どういう意味だったんだろう。
(まあ、そりゃな……こんなおっさんからベロベロされるのは嫌か?)
いや、でも治った方が……?
ううん?わからない。
でも──今は、それを考えている場合じゃなかった。
戦場の片隅で、僕は作業を続ける。
周囲ではまた怒声が上がり、誰かが叫んでいる。
「後詰の連絡が届いてない!」
「薬草庫、燃えたって!? 誰が──」
(……怖くないわけじゃない。というか、僕、本当は“戦争”なんて知らない)
平和な日本で、会社員として生きてきた僕には、
これまでテレビやネットでしか見たことのなかった現実が、目の前にあった。
だけど──
(この中で、僕が“できること”があるなら、やるしかない)
その中で、ふと頭をよぎる。
(やっぱり変だよな……紫騎士団は、なぜ攻めてきた?)
命令系統は?
本国との連絡は?
あれ以来、何も更新がない。
(……何かがおかしい。情報がこうもこないのも)
けれど、今はそれを追う余裕もない。
「レン! 医療班、搬送追加!」
「了解、すぐに!」
名前を呼ばれる。
その響きに、ほんの少しだけ誇らしさを感じた。
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