異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし

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第28話『その人を救うために』

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灯りを落とした作戦室には、紙の擦れる音と、息づかいだけがあった。
机の上に広げられた地図を、テオさんの指がすべっていく。

「ここが紫騎士団の本陣。……目標地点はこの裏手の居住区。倉庫施設を経由し、屋内に潜入する」

夜半の出撃が決まった。今回の編成は三人。
テオさん、ロナルドさん、そして──僕。

「……俺と副団長だけでよかったんじゃないのか」

地図から目を離さぬまま、ロナルドさんが言った。

「蓮を連れて行く理由が、他にあるとは思えない」
「通訳だ。紫の門兵の中には王都語しか理解しない者もいる。レンには対話の勘もある。命を取らずに突破するなら、必要なのは剣より言葉だ」

テオさんの声は冷静だった。

「交渉するつもりがあるのか?」
「状況次第だ。だが、選択肢は潰すな」

そう言って、テオさんは一枚の書簡を地図の上に重ねた。

そこには魔具通信で得た、敵兵の配置図が簡潔に記されている。
僕も何度も目を通した内容だったが──今見るそれは、まるで異質なものに思えた。

「……僕は、行きます」

ロナルドさんが口を開くよりも先に、僕は言葉にした。

「命令でなくても。……行くと決めましたから」

沈黙が落ちた。だが誰も、それを否定はしなかった。
テオさんがふと、口元を緩める。

「お前も、戦場の顔になってきたな」
「……あまり、褒め言葉に聞こえませんけど」

肩を竦めると、テオさんがわずかに笑った。

「団員としては頼もしい限りだよ。……覚悟を持った人間は、強い」

それが誰のことを言っているのか、僕は訊かなかった。



準備を終えたのは、すっかり夜も更けた頃だった。

砦の裏口、人気のない兵舎裏でロナルドさんと装備の最終確認をする。
鎧は着ない。音が出るし、重い。

「なんか、妙に静かだな」

ロナルドさんが呟いた。

「みんな、あいつのこと……なんとなく、口に出せないでいる気がする」

その声に、僕も頷く。

「……ロナルドさんも、ですか?」
「俺か?」

一瞬だけ黙った彼が、ぽつりと口を開いた。

「俺たちは……あいつのこと、なんにも知らなかった」
「はい……僕も、同じです」
「軽い奴だと思ってた。ヘラヘラ笑って、何を考えてるか分からん」
「……それ、言われて怒るかも。ルースさん、案外プライド高い気がしますし」
「だな」

くす、と笑いあって、すぐに黙る。
ふと、ロナルドさんが腰の剣を握る。

「もし、あいつが目の前にいたら……殴って、文句言って、それから──」
「それから?」
「……それから、そいつの手を引っ張って帰ってくる。俺には、それしかできない」

言葉が、夜の静寂に深く沁みた。
その時、足音も立てずに、テオさんが合流してくる。
すでに簡易装備に着替えていた。剣は持たず、背には包帯や魔具を収めた鞄がひとつ。

「時間だ。行くぞ」

それだけを言って、彼は先に闇の中へと歩み出した。
僕とロナルドさんも、何も言わずに続く。

言葉は必要なかった。
この夜に何が起こるのか、それぞれがよく分かっていたから。

風が、夜気を運んでいく。砦の灯りが、背後で遠ざかる。

そして僕は、心の中でひとつだけ名前を呼んだ。

──ルースさん。
僕たちは、あなたを探しに行きます。
連れて帰るために。




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