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襲撃4
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○○○○○
数時間後の宮の本通り。事情聴取を終えたキイトは、館士兵と共に馬に乗り、館へと戻っていた。
ヒノデは守護館に留まる必要があったため、キイト一人と、護衛三人の帰宅だった。
朝日が昇り始め、通りをさぁっと光が走る。
眠い目を無理やり開けたキイトは、その光景にうっとりとした。
一瞬で通りを制圧した光は、正面に見える、澄んだ水堀を飛び越え、ドーム型の宮を朝日に浸した。
赤や金、橙の光が、ドームの後ろに控える、コの字状の建物も蝋燭のような塔も、全てを素敵な色に染め上げる。光はさらに、水堀や水路を反射させ、黄金に揺らめく水模様をいたる所に投げた。
キイトはそれを夢現で眺めた。既に何度か居眠りをしていたので、共に乗っていた館士兵が、さり気なく体を支えてくれている。
帰ってきたイトムシ館には、多くの人が出入りをし、現場であるキイトの部屋には入れる雰囲気では無かった。しかし、キイトの眠気も限界に来ている。いまならば、立ったまま寝られそうだったが、横になれるに越したことはない。
キイトは、館士兵が保護者代わりを探している間に、そっと逃げだし、静かな勉強部屋へと潜り込んだ。備え付けられたソファーへと倒れ込み、さぁ、後はもう知らない。と、眠ろうとした時、扉が開きシロが飛び込んで来た。
眠気が頭まで包む気怠さのなか、シロの声が、鐘の音のようにがんがんと響く。
「坊ちゃん! こんな所にっ、館士兵さんいましたよ! ほぅら、猫みたく丸くなっています。もう慌てなくて結構ですからね。さ、坊ちゃん。手と足を洗いましょう、その前に御加水を、いえ、お口を濯ぐのが先ですね、だってほら、がぶりと――あぁ、恐ろしくも勇敢な坊ちゃん!」
「……」
守護館で話を聞かれている間、どれだけこの幸せな眠りを思い描いていたことか。キイトは子共らしい癇癪で、泣きそうになりながらも、そんな元気もなく重たげに瞼を開いた。
シロが額を押し付けんばかりにして、起き上がるように促している。その肩越しには、一緒に来た館士兵が(その子は、眠いんじゃないかな)と言う苦笑いを浮かべていた。
「あなたちょっと! 台所へ行って御加水を持って来てくださいな。水盤の方のよ、たっぷり椀にそそいで頂戴。イトムシにはそれが一番なんです。私にはわかります」
シロに指示を下され、真の理解者である館士兵は、分かりましたと部屋から出て行ってしまった。
「シロさん、僕眠いんだ。本当に本当に、いま寝ないとダメなんだ」
ぼそぼそと抵抗するが、シロにそんなものは通用しない。
「ほらほら、ぐずらないの。良い子ですから、浴室へ参りましょう。ヒノデちゃんはまだ帰れないのかしら、まったくあの人たちときたら、何度も同じことを聞くんですもの。きっとヒノデちゃんも同じ目に合わされているんだわ。あと少し待って、それでも返してもらえないなら……いよいよ、私の出番ね」
館で事件が起こった事で、世話好きのシロは、ありとあらゆる使命感を燃やしはじめていた。シロは戻ってきた館士兵から椀を受け取り、御加水をキイトへと飲ませる。
キイトはほとんど眠りながら、そしてほとんどこぼしながら、それを飲んだ。
その後の事は覚えていない。ただ、眠りに落ちる前、シロをぎゅっと掴み、その大きな体に抱き付くと、シロもまた両の腕で包んでくれた事、そしてシロが変らぬ大声で、「皆さん静かに! この子を寝かせて頂戴っ」と、館士兵に命令を下したところまでが、最後の意識だった。
数時間後の宮の本通り。事情聴取を終えたキイトは、館士兵と共に馬に乗り、館へと戻っていた。
ヒノデは守護館に留まる必要があったため、キイト一人と、護衛三人の帰宅だった。
朝日が昇り始め、通りをさぁっと光が走る。
眠い目を無理やり開けたキイトは、その光景にうっとりとした。
一瞬で通りを制圧した光は、正面に見える、澄んだ水堀を飛び越え、ドーム型の宮を朝日に浸した。
赤や金、橙の光が、ドームの後ろに控える、コの字状の建物も蝋燭のような塔も、全てを素敵な色に染め上げる。光はさらに、水堀や水路を反射させ、黄金に揺らめく水模様をいたる所に投げた。
キイトはそれを夢現で眺めた。既に何度か居眠りをしていたので、共に乗っていた館士兵が、さり気なく体を支えてくれている。
帰ってきたイトムシ館には、多くの人が出入りをし、現場であるキイトの部屋には入れる雰囲気では無かった。しかし、キイトの眠気も限界に来ている。いまならば、立ったまま寝られそうだったが、横になれるに越したことはない。
キイトは、館士兵が保護者代わりを探している間に、そっと逃げだし、静かな勉強部屋へと潜り込んだ。備え付けられたソファーへと倒れ込み、さぁ、後はもう知らない。と、眠ろうとした時、扉が開きシロが飛び込んで来た。
眠気が頭まで包む気怠さのなか、シロの声が、鐘の音のようにがんがんと響く。
「坊ちゃん! こんな所にっ、館士兵さんいましたよ! ほぅら、猫みたく丸くなっています。もう慌てなくて結構ですからね。さ、坊ちゃん。手と足を洗いましょう、その前に御加水を、いえ、お口を濯ぐのが先ですね、だってほら、がぶりと――あぁ、恐ろしくも勇敢な坊ちゃん!」
「……」
守護館で話を聞かれている間、どれだけこの幸せな眠りを思い描いていたことか。キイトは子共らしい癇癪で、泣きそうになりながらも、そんな元気もなく重たげに瞼を開いた。
シロが額を押し付けんばかりにして、起き上がるように促している。その肩越しには、一緒に来た館士兵が(その子は、眠いんじゃないかな)と言う苦笑いを浮かべていた。
「あなたちょっと! 台所へ行って御加水を持って来てくださいな。水盤の方のよ、たっぷり椀にそそいで頂戴。イトムシにはそれが一番なんです。私にはわかります」
シロに指示を下され、真の理解者である館士兵は、分かりましたと部屋から出て行ってしまった。
「シロさん、僕眠いんだ。本当に本当に、いま寝ないとダメなんだ」
ぼそぼそと抵抗するが、シロにそんなものは通用しない。
「ほらほら、ぐずらないの。良い子ですから、浴室へ参りましょう。ヒノデちゃんはまだ帰れないのかしら、まったくあの人たちときたら、何度も同じことを聞くんですもの。きっとヒノデちゃんも同じ目に合わされているんだわ。あと少し待って、それでも返してもらえないなら……いよいよ、私の出番ね」
館で事件が起こった事で、世話好きのシロは、ありとあらゆる使命感を燃やしはじめていた。シロは戻ってきた館士兵から椀を受け取り、御加水をキイトへと飲ませる。
キイトはほとんど眠りながら、そしてほとんどこぼしながら、それを飲んだ。
その後の事は覚えていない。ただ、眠りに落ちる前、シロをぎゅっと掴み、その大きな体に抱き付くと、シロもまた両の腕で包んでくれた事、そしてシロが変らぬ大声で、「皆さん静かに! この子を寝かせて頂戴っ」と、館士兵に命令を下したところまでが、最後の意識だった。
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