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粉屋9
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小石丸が外へ出ると、通りには人が戻り、賑やかさを取り戻していた。
小石丸の姿を見た館士兵が馬車を用意する。しかし、馬は小石丸を怖がり、なかなか落ち着かない。それを眺めながら、小石丸は別のことを考えていた。
キイトが飛んだ跳躍力の高さ、切れぬ本糸を送り出す力強い心臓、若々しい光を宿す目――その目は確実に、自分を敵として捕らえていた。
幾つもの糸傷を深く刻んだ手が、重たげに鳴る心臓を押さえた。
(早く片付けなければ)
ガタン
大きな音を立て、近くの荷車の車輪が外れ傾いた。
男たちが声を掛けあい、走り寄るのを確認した時、子供がぶつかって来た。
「おっと! すみません、急いでいたもんで」
「……」
じろりと見ると、教育館の上着を着た褐色肌の少年が、額に手を当て笑っている。すばやく館士兵が怒鳴り、少年を追い払った。
小石丸は無言のまま、用意された馬車へと乗り込んだ。
追い払われた少年は、去っていく馬車に背を向け、路地裏に入った。
機嫌よく口笛を吹く。すると奥から、大柄な少年が手に工具を持ち、出てきた。呆れたような、迷惑そうな、渋い表情が見える。
「ナナフシ、小石丸様にちょっかいを出すのは止めておけ。にーや、ねーやも皆、口には出さないが警戒している。あのイトムシは危険だ」
そうコーダに厳しく言われても、ナナフシは口笛を吹き続けている。
陽気な音に誘われ、子犬のような少年たちが路地に飛び込んできた。
「見たか?」
「見た見た」
「ガン見したっ」
「腹かっさばいてたな! 俺吐きそう」
「ありゃ猿だ、絶対猿。猿もどき、オレ本で見たことある」
「おめぇ文字読めねぇだろ、おめぇのは本じゃなくて、絵本って言うんだよチビ」
路地裏を行くナナフシとコーダのまわりを、少年たちはピョンピョンと跳ね、口々に先ほどの送りを語った。
「小石丸はイジワルだ、キイトにわざと猿けしかけたもん」
「わざとだ!わざとだ!」
「悪い奴!でも強ぇなぁ」
「足どかしたな、オレも見た! 意地悪だからやっつけてやる!」
「おめぇがどーやって、やっつけんだよチビ」
口笛がピタリと止んだ。
少年たちがナナフシへと顔を向けると、彼は人差し指を立て、口元へと持っていく。
「いまのは全部、大人に聞かれたら、駄目だからな」
少年たちが真剣な顔で頷くと、ナナフシは褒めるように、指をパチっと鳴らした。
少年たちは再びふざけだし、前へ後ろへと互いを押しながら、笑い声をあげた。
少しだけ眉を寄せた顔のコーダが、ナナフシの隣へと近づく。
「ついでに、チビ共のも直してくんねぇかなぁ」
コーダはそう言うと、白い花が咲く、自分の上着の袖口をまじまじと見た。
キイトに貸す前は、所々破れていた教育館の上着、それは、イトムシの糸により、見事に補修されて持ち主へと帰って来たのだ。
「あの不愛想、俺とは口もきかねぇんだ」
「俺から頼んでやる、これを届けるついでにな」
ナナフシがピュと短く口笛を吹くと、息に乗り、唇から細く赤い糸がなびいた。
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