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粉屋10
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高い塔の一室、夕暮れに沈む街を国王は眺めていた。
夕日に水路が煌めき、黄金に染まる大葉川は、楽園から身をくねらせ出てきた、美しい蛇に見える。
薄暗い部屋の卓には、宮臣と守護館館長がついていた。
一人、窓へと立つ国王へ、宮臣が灰色の声で告げる。
「ムシは、今夜にでも神の世界へと戻るでしょう。粉屋が所持していた石は、井戸から舞上ってきた物で、楽園の御利益だけを信じ、守り石にしていたそうです。水館が回収済み。然るべき場所に返されます」
「キイトに怪我はないか」
国王の問いかけに、宮臣は続け答える。
「かすり傷程度です。問題はヒノデの方ですね、頭と足に支障が出ました。しばらくは、休ませておかないといけません。その間の対応は、小石丸に一任がよろしいでしょう」
ワリオスがそれを反対する。
「いや、キイトをそろそろ出した方がいい。現場から直接送りを学ぶべきだ」
眉をひそめ、宮臣が何か言いかけた。一度口を閉じ、言葉を慎重に選んでいる。
「館長、それは、現場で事故が起こりませんか?」
「事故なら既に起きた。捕えたはずの追放者が逃げ出し、キイトへと襲い掛かったのだ。その上、ムシの罰で意識が途絶えていた追放者の体を、知識のないキイトが手入れするよう、指示が下された。――捕えていたのも、指示を出したのも、小石丸。失敗などありえない、最強とさえ呼ばれた、熟練のイトムシだ」
「それはあってはならぬ事です。キイトはまだ何もわからない。師を信じすぎて、またも同じ事故が起こる危険があります。ましてや、ヒノデ不在の現場など……」
「いや、いっそ人の多い場所の方が良い。確かに事故の危険はあるが、我らとて、ただの見物人に成り下がった訳ではないのだ。キイトはイトムシとして充分機能する、充分過ぎるほどだ。それを今日、改めて私は知った。そして小石丸も知った。このまま、小石丸のそばだけに置く時間が長ければ、やがて悲劇に見まわれる。キイトを早々に、自立させるべきだ」
「自立は必要です。しかし…」
「送りは、送りでしか学べない」
国王が夕日を背に、二人を振り返えった。
日の残照を取り入れ、薄暗い中で瞳が金色に輝く。
「ワリオス、君の考えを尊重しよう。しかし、小石丸もまた、我が国の貴重なイトムシだ。その事は守護館館長、どうか忘れないでくれ」
金色の瞳に見つめられ、ワリオス館長は穏やかな声の中に、苦みを含ませ返事をした。
「承知しております。守護館はイトムシ全ての安全と、国民の安全に全力を尽くします」
国王は頷くと、二人へと指示を出した。
「ヒノデを休ませキイトを現場に出せ。小石丸はそれにつき、現場指導をするように。明日、小石丸とヒノデを宮へ呼べ。それからキイトには、宮守と館士兵、二つの流儀の稽古をつけさせろ。幼い身には辛いだろうが、その分、小石丸から離れさせられる。頼んだぞ、正しくあれ」
二人の返事を聞き、国王は再び夕日へと向かった。
黄金の蛇は輝きを失い、夜に備えはじめていた。
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