イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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同郷の友3

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 叫び声をあげたキリは頭を振り、突然キイトに飛び掛かった。
 キイトは避けるために後ろへと飛び、桜から離れる。それを追いかけようとし、キリがはねを広げるが、何かに絡まったのか、上手く飛べない。

 キリは大鎌をめちゃくちゃに振り回し、ざばざばと太い枝を切り落としていく。
 やがて、絡まりが溶けたのか、キリ本体が、どさりと地に降りてきた。そして、いまだ立ちすくむキイトに鎌を振り上げ、その体を真っ二つに裂こうとした、その時。

「しっかりしろ! イトムシ・キイト。びびってんじゃねーぞ」
「っ菊」

 振り下ろされた黒い鎌を、駆け付け、立ちはだかった菊が黒刀で防いだ。
 ぎりぎりと黒同士が競り合う。
 キリがもう片方の鎌を振り上げた。今度は、菊の背に守られていたキイトが飛び出し、その鎌を黒刀で受け、そしてキリの目を必死に見上げた。

「キリ! どうして、友達じゃないか」

 キリの澄んだままの片目から、涙が溢れ出した。黒くしなやかな首が反らせられる。

「キリぃぃぃぃーぎッチちちチちちちち」

 鳴いたキリが、翅を広げ飛び上がると、後ろの桜の木が同時に大きくしなった。
 桜の木枝が折れ落ちていくと、周りを囲い、ぴんと張られていた注連縄しめなわを弾いた。
 
 結界が破られた。
 
 飛び上がったキリは、破れた結界を越し逃げるかと思われたが、途中、不自然に体勢を崩し落下した。

 日に焼けた地面でばたばたともがく追放者、その目の前にはヒノデ。
 ワッカが手に弓を携え、素早く飛び出した。

「ヒノデさがってな! 野郎ども縄整えろ、もう一度中にぶち込む、菊、構えとけよ!」

 ワッカが叫び、矢を放った。
 至近距離からの矢は、深くキリの首へと刺さり、濁った目がぎろりとワッカを睨んだ。

「悪いねデカブツ、アンタのお相手は私。好き嫌いは駄目だよ、ほら、こっちだ!」
 
 ワッカは誘うように背を見せ走り出し、注連縄を構えた館士兵の元へと向かった。しかし突然、目の前に追放者がどすんと落ちてきた。
 後ろで飛び上がったキリが、不器用に飛び上がり、行く手へと回り込んだのだ。

「っ!? でかい癖に案外身軽なんだね」
「ぎ」

 黒い体を下げ、這いつくばり、ワッカの目を覗き込んでくる狂った生き物。
 ぎりぎりと擦れる様な鳴き声が、間近で聞こえる。視界一杯に、追放者の姿が占められる。

「ちくしょう、おとりにもなんねぇ……」

 ワッカが、よぎる死への恐怖に悪態をついた時、冷たい手が両目を覆った。

(……大人しくしてなって言ったのに)

 その優しい手が、追放者の濁った視線から自身を守ってくれる。
 寄り添うその気配に恐怖が解け、ワッカの耳元にヒノデの声が聞こえた。

「こっち、わたしをみて」

 ヒノデは、ワッカの目を塞いだまま、キリへと語りかけ、ついでワッカへと話しかけた。

「無茶をしないで、ワッカ。私はイトムシ、囮になるのは私だわ」
「怪我人を走らせられないよ」
「震えていたくせに」
「……武者震いだよ」
「あなたのウソ。私は好きよ」

 ヒノデが穏やかにそう言った。さらに、冷たい手はワッカの顔を下へと向かせる。
 ゆっくりと目隠しが解かれた。

「そのまま視線を合わさず、後ろへ下がって」
「……」

 ワッカは言われた通りにし、数歩下がってから目を開き、息を飲んだ。

 間を詰め、顔を突き合わせたイトムシと追放者。
 互いの息づかいどころか、瞬きの音さえ感じとれるその距離。

 「よくぞ参られたし、わが同郷の友よ」

 ヒノデは穏やかな声とは裏腹に、その目を爛々と光らせ、しなやかな片手で、相手の首の矢を掴んでいた。
 『いつでもこの矢を深く刺し込める』
 ヒノデの白い指が、矢を愛しむように一度だけ撫でる。

(これだからイトムシは)

 それを見てとり、にやりと笑うワッカ。その肩を、菊の大きな手が掴み、安全な所まで引きずった。

「何笑ってんだか。ほんと、かかぁ天下で困っちまうなぁ。後はあいつらに任せんぞ」
「あいつ……ら?」

 ワッカは菊に言われヒノデから目をそらすと、いつの間にか追放者の肩に、黒い蝶のごとくキイトがとまっていた。

「……小さいイトムシ」
 
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