イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

文字の大きさ
110 / 119

同郷の友6

しおりを挟む

○○○○○

 走り出そうとした足がひどく重い。
 ヒノデの目の前で赤が散り、キイトの体が飛ばされ崩れる。
 ヒノデの喉から、糸よりも細い声が漏れた。

「やめて、お願い、やめて」

 指が凍り、世界が歪む。
 彼女の後ろから、白い影が飛び出し、追放者に仕掛けられた糸を引き黒刀で切り付けた。
 追放者の首がすとんと落ち、小石丸が首のそばへと着地をする。

 小石丸は、投げ出されたキイトを見下ろすと、首を振った。その残酷な動作に、ヒノデの息が詰まる。
 誰かがヒノデを強く抱き締めた。

「見なくていい。
 ……私たちがやるから、あんたは向こうへ行ってなさい」
「……なにを、言っているの?」

 声でワッカだと分かったが、言っている意味が分からない。

(見なくていいって何を。早く、早くあの子の所へ行かなきゃ。怪我をしている、いまなら、甘やかしてもきっと許される)

 ヒノデはワッカを振り払い、走り出した。

(キイト、キイト、私のキイト)

 絡まる足がもどかしい。追放者の足に躓き、立ちはだかる小石丸にぶつかり、それでも手を伸ばし、我が子へと向かう。

「キイト」

 首のない大きな追放者の体に抱かれるようにして、キイトは倒れていた。
 小さな体から、血だまりが広がっていく。
 ヒノデは、その伏せた体をそっと起こすと、白い顔と裂けた体に、ねぎらいの声を掛けた。

「大丈夫よキイト。痛かったね、すぐに手当てをしてあげるから、大丈夫、だいじょうぶ、母さんがいるわ」

 ヒノデは本糸を紡ぎ、隠し針を取り出して、ばくりと開いた傷口を縫いはじめた。
 血で手元が滑るたび、口へ持っていきそれを舐めとる。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ、なにも心配しないで、すぐに母さんが」
「もう、やめなさい。ヒノデ」

 小石丸の優しい声に、ヒノデの手が止まる。人間たちが走って来る、何やら騒がしい。

「早くこの子を運んで、手当てをして……」

 ヒノデは震える指で作業を再開したが、その手を小石丸が強く握った。

「無駄だ、キイトは死んだ」

 ヒノデの世界が、ぎこちなく止まった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

グラディア(旧作)

壱元
SF
※本作は連載終了しました。 ネオン光る近未来大都市。人々にとっての第一の娯楽は安全なる剣闘:グラディアであった。 恩人の仇を討つ為、そして自らの夢を求めて一人の貧しい少年は恩人の弓を携えてグラディアのリーグで成り上がっていく。少年の行き着く先は天国か地獄か、それとも…

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...