イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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同郷の友5

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 空気を震わす咆哮を受け、キイトは素早く動いた。
 石畳にめり込んだ鎌へと本糸をくくりつけると、後ろへと下がる。
 すぐに追放者が、反対側の鎌を振り上げたのを確認すると、思い切り糸を引いた。すると、その上半身を糸の繋がった鎌一本で支えていた追放者は、体勢を崩し倒れた。
 しかし、キイトは目測を誤った。
 避けそびれた鎌の先が腹に触れ、そのあたりが熱くなる。触ると血が出ていた。
 遅れて痛みを感じはじめたが、構わず飛び込み、黒刀で鎌を一本切り落とす。

「ぎぃ!!」

 追放者の傷口から体液ではなく、個体がバラバラと零れ、地面を這いだした。
 キイトはそれらを目で追い、奥歯を噛み締めた。

(追撃者のムシだ、もう体の中にいたんだ……それなのにキリは、僕が覚悟するまで待ってくれた。これ以上、キリを苦しめるものかっ)

 キイトはムシの動きを止めようと、封じ糸を投げようとしたが、追放者の体当たりを喰らい倒されてしまった。
 さらに体にのしかかられ、体重をかけられる。
 体が軋む。肉を通し、骨が嫌な音を立てる。

(っ……そうだ、僕キリに勝ったことないや)

 キイトを掴んで、得意気な目をしたキリが瞼に浮かぶ。
 痛む体よりも、思い出になった記憶にずきりと心が傷んだ。
 それでもキイトは、先にムシを封じようと必死に手を伸ばした。

(もう少し! ダメだ、僕の糸じゃ届かないっ)

 そのもがく指の先で、ぱっと糸の花が咲き、ムシは封じ糸に囚われた。ヒノデが投げたのだ。
 
(よかった、キリはこれで少しは苦しくないはず……)
 
 そう安堵した一瞬、追放者に首を喰らい付かれた。裂ける痛みに頭がくらくらとする。

「っ……」

 そこへと、援護の矢が追放者へ降り注ぎ、追放者の顎の力が一瞬ゆるんだ。その隙に、キイトは首を捻り、追放者の首へと噛み付いた。苔の味が口に広がる中、本糸を口で直接仕掛け、そのまま体の下から逃げだす。

 後は糸を長くとり、首に一回り掛け、強く引けば首が落ちる――しかし、出来なかった。
 指が糸を逃してしまう。

「覚悟したんじゃなかったのか、馬鹿っ」

 キイトは自分を罵り、標的から距離をあけた。

「キイトこっちだ! 一旦木につなげちまえ!」
「はいっ」

 菊の指示に、キイトは走りながら糸を紡いだ。

(そうだ、一度木につなごう。その為に、強い糸を、追放者をつなげるくらいの強い糸を……)

 吐糸官を糸がのぼる。しかしその時、ざわり、心の片隅で何かが反応し、目が揺らいだ。

(木につなげる……糸でつなぐ?)

 キイトの足が止まり、手が首へと上がった。
 無意識に、自分の首に糸が巻かれていないか確かめてしまう。
 忘れもしない、殺意の糸。絶対にかなわない、強い糸。

 不自然にしなる木とキリの行動。
 木から降りるため、何故か枝を切り落としたキリ。

 キイトの記憶と、キリの行動が、糸で結ばれる。

(そうだ……。キリは、僕たちが来る前から、木に縛り付けられていたんだ。楽園の生き物を縛れる糸を紡げるのは……イトムシだけ)

 首へと当てた指が、を思い出すように、見えない糸から逃れようと爪を立てる。

(キリは、

 見えない糸に締められ、キイトの喉がひゅっと鳴る。

(キリは賢い。糸を切らないと、木から離れられないと分かっていた。楽園から出され、木に縛り付けられ、太陽の光を浴びせられた。太陽から逃げるために影に入っていた……。僕を見て、糸を解いてくれると思ったんだ。キリは、違う。本当の追放者じゃない)

 いままで見えなかった糸が、手に取るように分かる。自分のまわりに張り巡らされた糸が、いつの間にかきつく締められていた。

(キリをおとりに、僕を現場に引き出した。
僕を囮に、キリを昼に引きずり出した。
友を送るため? 違う、送られるのは……)


 誰かに名を叫ばれ振り返った。


 目の前で、キリが残された鎌を高くあげている。
 黒い鎌に太陽が裂かれるようだ。
 しかしキイトは、その後ろを見ていた。
 鎌が向かってくる。だというのに、巡る答えに、もう体が動かない。

 
 白い影、黒い沼。
 誰も敵わない、強い糸を紡げるイトムシ。
 自分とキリを、糸で絡めた者。

 彼と目があった。
 キイトの考える先を待っていたように、その視線はじっとこちらを見続けていたのだ。
 キイトはその目に問いかけた。

 「……小石丸様。なんで、僕たちを殺すの?」


 疑問の先に、怒りを感じる間も無く、
 キイトの小さな体は、黒い鎌で裂かれた。
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