罪悪と愛情

暦海

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「――いや~ほんと最高です、先輩の料理! あっ、でも作らせるために来ていただいたわけではないですからね? そこまで厚かましい女じゃないつもりですし」
「もちろん、分かっていますよ。そもそも、僕が作りたいと申したわけですし。そして、ありがとうございます降宮ふるみやさん」


 それから、十数分後。
 六畳間のお部屋にて、ほうれん草のキッシュを召し上がりつつ太陽のような笑顔で称賛をくれる降宮さん。そんな彼女のご様子に、僕も思わず笑みが零れる。……うん、今日も喜んでくれて良かった。

 さて、あの後だけれど――時間があるかどうかという問いに肯定を示すと、パッと笑顔になりそれでは私のお部屋に行きましょうと告げる降宮さん。それで、今こうして……うん、説明するまでもなかったかな。


 
「そう言えば、昨日の朝なんですけど……たぶん高校生だと思うんですけど、何やら私には全く分からない言葉を話していまして」
「へえ、外国の方だったのですか?」
「いえ、恐らくは日本人かと。ただ、今の子達の言葉はどうにもついていけなくて。ああ、私もオバさんになったんだなぁと」
「……ああ、そういうことですか。確かに、今の子達の言葉は僕もほぼ分からないですね。ですが、降宮さんは全く以てオバさんになっていないでしょう」


 その後、コーヒーを片手に沁み沁みとそう口にする降宮さん。まあ、確かに分からないよね。尤も、僕の場合は今に限らず昔の子達の言葉もほぼ分からなかったんだけども。
 ……ただ、それはともあれ……いや、間違ってもオバさんという歳ではないでしょう。貴女がオバさんだったら僕はどうなるんですか。


 ともあれ、その後も和気藹々とお話に花を咲かせる僕ら。……そう言えば、今日はお酒は全然飲んでいないみたいだけども……ああ、休肝日かな? うん、大事だよね、そういう日も。 




「それでは、僕はそろそろお暇を。本日もありがとうございます、降宮さん」


 それから、しばし経過して。
 そう、徐に立ち上がり帰り支度をする僕。いや、支度をするほどの荷物もないんだけども……ともあれ、とても楽しく名残惜しい気持ちはあるけれども、あまり長居をしては申し訳な――


「……あの、先輩。少しだけ、待ってていただけませんか?」
「……へっ? あ、もちろんです」

 すると、徐に立ち上がりそう口にする降宮さん。彼女が向かったのは、三点ユニットバス。三点ユニットバスとは、浴室と洗面所、そしてお手洗いが同じ空間にあるユニットバスのことだけども……ともあれ、このタイミングに入浴ではないだろうからお手洗いなのだろう。僕を見送ろうとしたけれど、その前にどうしても我慢できなくなったのだろう。

 ……それにしても、律儀だなぁ。わざわざ見送ろうとしてくれなくて良いのに。……あっ、それとも僕が出た後に鍵が空いている状態が不安で……うん、それもあるかも。僕も、ほんの僅かな時間でも部屋の鍵が空いている状態はなかなかに不安で――


「…………へ?」

 刹那、思考がピタリと止まる。いや、思考だけじゃなく呼吸までもが。と言うのも……どうしてか、降宮さんが一糸纏わぬ状態で僕の前へと姿を現したから。


「……あの、降宮さん……それは、いったい……」

 ややあって、目を逸らしつつそう口にする。……えっと、どゆこと? どうして、急にこんな――

「……ねえ、先輩。私に、魅力はないですか? それとも……私のこと、嫌いですか?」
「……っ!! いえ、そんなわけありません!」
「……でしたら、見てください。ちゃんとこっちを――私を、見てください」

 すると、か細く――それでも、強い意思を宿した声でそう口にする降宮さん。……うん、決まってる。魅力がないなんてわけないし、当然のこと嫌っているわけもない。……なので、ゆっくりと……ゆっくりと、彼女の方へと視線を向け――

「……っ!!」

 刹那、再び呼吸が止まる。彼女が、あまりにも――さながら幻想の如く、この世のものとは思えないほどに綺麗だったから。

「……真織まおり、先輩……」
「……降宮さん」

 すると、ややあって僕の名を口にする降宮さん。僕をじっと見つめる彼女のが、いったい何を待っているのか――なんて、経験皆無の僕でも流石に分からないはずもなく。
 
 ゆっくりと、彼女の方へと歩いていく。距離が縮まるにつれ、いっそう胸の音が高鳴っていく。そして――

「……どうか、早く服を着てください。お部屋の中とは言え、この時期にそのような状態でいたら体調を崩してしまいます」

 そう言って、少し厚めの黒のコートを降宮さんへと掛ける僕。……まあ、僕のなので抵抗はあるかもしれないけど……それでも、ひとまずはこれで。すると、しばしの沈黙の後――


「…………はい、分かりました。お気遣い、ありがとうございます」

 そう、小さく告げユニットバスへの方へと向かう降宮さん。その際、チラと見えた彼女の表情かおに我ながら身勝手な痛みを覚える。全ては、僕自身の選択の結果だというのに。



 それから、二日後のことだった――降宮さんが、吉川よしかわくんと交際を始めたことを知ったのは。








 
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